「書く人」こそ音声へ。のもきょうさんが語る、Voicyの泥臭さと一次情報の力
編集者としてさまざまな人に取材をしてきた、のもきょう(野本響子)さん。教育・子育て・国際文化などのトピックを中心に、これまでテキストで発信をしていましたが、2020年よりVoicyを始め、音声情報の「生々しさ」に魅了されたと語ります。
編集者は取材をして、文章を整え、切り取り、再構成するのが仕事ですが、Voicyでは話を聞きたい人を直接生放送に招いて取材をする、リスナーに喋ってもらう、というスタイルを気に入っているのだそう。編集者の視点から見たVoicyの可能性を、のもきょうさんに聞きました。

忙しい子育て層に届けるなら、テキストより“音声”だと気付いた
――テキストでの発信が中心だった、のもきょうさんがVoicyを始めたきっかけを教えてください。
のもきょう:私は雑誌編集者のころから、ずっと「“面白い”と思ったことを誰かに伝える」仕事をしてきました。媒体が雑誌からブログやVoicyに変わっても、やっていることは基本的に同じなんです。
はじめは、noteで文章を綴っていました。当時マレーシアで子育てをしていたとき、日本の教育があまり変わっていないと感じる一方で、海外ではさまざまな取り組みがされていると感じていて。そのリアルを日本の子育て世代に届けたいと思ったんです。
でも、書いているうちに、「本当に自分が届けたい人に読んでもらえているんだろうか」と違和感を覚えるようになりました。そのうちに、テキストだけでは限界があると感じて、「このテーマを本当に届けたいなら音声だ」と確信するようになりました。
子育て中の親って、本当に忙しいんです。長文を読めるようなまとまった時間がない。私自身、子どもの送り迎えや家事、公園の見守りをしていたとき、読むよりも「耳で聞ける」情報を重宝していました。
そのなかでVoicyを選んだのは、バランスのいいメディアだったからです。もともと2018年ごろからVoicyをずっと聴いていたのですが、SNSやニュースはアルゴリズム的に極端な意見が目立ちやすいけれど、Voicyはいろんな意見を聴くことができる。「普通の人が普通に話している感覚」があって、安心して聴けると感じていました。
温度も文脈もそのまま。「切り取り」ではなく「一次情報」を届けるメディア
――編集者として、音声ならではの価値はどこにあると感じていますか?
のもきょう:最近すごく思うのは、二次情報の加工はAIがどんどん上手くなる、ということです。そうなると、情報の価値はますます一次情報に寄っていく。誰かの発言を編集して整えるより、本人が直接話すほうが、温度も文脈もそのまま伝わるじゃないですか。
私はこれまで取材をして、取材した情報をもとに記事を書いてきましたが、極論私が記事を書かなくても、その方を呼んで喋ってもらったほうがいいんじゃないか、と思うようになりました。
インタビュー記事にはもちろん価値がありますが、どうしても書き手のバイアスや編集意図が入ります。Voicyなら、自分が話を聞きたい専門家を呼んで、直接生放送で話してもらうこともできますよね。しかも、リスナーがその場で質問できる。これは従来のメディアにはなかなかない体験です。私にとってVoicyは、取材と発信が同時に成立する場なんです。
編集して「こう言っていました」と再構成するより、本人の声で直接届けるほうが強い。これまで文字中心で活動してきた私にとっては大きな転換でした。
――それでも、編集者として「整えたい」感覚は残りませんか?
のもきょう:残ります。めちゃくちゃ残ります。私は何十年も「直して整える」をやってきたので、今でも録り直しはしますよ。ただ最近は、整えすぎると嘘っぽくなるとも感じるようになりました。完璧よりもその人の温度がちゃんと出ていることのほうが、今は価値が高いような気がしています。

オフ会で見えた「聞き手の顔」。テーマの解像度が上がった瞬間
――Voicyを続けるなかで、特に変わったことは何ですか。
のもきょう:一番変わったのは、聴いている人の顔が見えるようになったことです。テキスト発信のときは読者像がぼんやりとしていたんですが、Voicyではオフ会や生放送を通じて、どんな人が何に悩んでいるかが具体的にわかるんです。
私はこれまで15回以上オフ会をやって、北海道から沖縄まで行きました。そこで毎回驚くのは、リスナーの人生経験の深さです。話を聞いてみると、面白い人が本当に多くて! しかも、こちらが想像していなかった問いや視点を持っているから、テーマの解像度が一気に上がるんです。
有名人の成功談より、一般の人の「うまくいかないときの試行錯誤」のほうが、リスナーには身近だし、参考になることも多い。だから私は、リスナーの話を聞くこと自体を取材だと思って続けています。
実際に、オフ会で聞いた話がそのまま放送テーマになったり、リスナーに生放送のゲストとして出てもらったりすることもあります。私にとってリスナーは、「受け手」に留まらない「取材対象」でもあり、「共同編集者」にも近い存在なんですよね。
――Voicyでは多くの方がオフ会をやられていますが、のもきょうさんがオフ会をやろう、と思ったきっかけはなんだったんですか?
のもきょう: Voicyのパーソナリティー交流会で、他のパーソナリティーの方に「オフ会を開くといいよ」と勧められたことがきっかけですね。もともと交流会も乗り気ではなかったのですが、行ってみたら楽しくて。素直にやってみようと思いました。
改めて、Voicyって、すごく泥臭いメディアだと思うんですよ。グローバルSNSみたいな巨大アルゴリズムの世界とは違って、まだ人間の手触りが残っている。パーソナリティ同士の交流もあるし、リスナーとの接点も濃い。Voicyの運営もパーソナリティもリスナーも、顔が見える距離で動いているのがいいですよね。
有料放送から書籍化へ。Voicyを続ける理由
――1時間に渡る有料放送「40代、50代で「ジタバタ」したいあなたへ。定年以降への接続を設計する8つのヒント」も大きな反響があったと聞きました。
のもきょう:有料放送なのに、本当にたくさんの人に聴いてもらえましたね。きっかけは、オフ会で複数の方から「40代以降のキャリアに悩んでいる」という話を聞いたことでした。そこから有料放送のテーマを組み立てて、さまざまな人に取材をしてつくった放送が大きな反響をいただいて、書籍化の話につながりました。
有料放送は、通常放送よりもかなり作り込んでいますね。講演のように章立てして、調べて、しっかり構成してから出しています。だからこそ、書籍の種としても良かったんだと思います。今は、取材をしながら書籍の執筆を進めています。
面白いのは、放送で反響が出ると次の取材対象が自然に集まってくることです。「これについて、私も話せる」と手を挙げてくれる人が増えました。有料放送が「単発の商品」ではなく、新しい企画を生む入口になる。これはVoicyならではだと感じています。
――これからVoicyを始める人に向けて、一言お願いします。
のもきょう:自分にしか話せないコンテンツを持っている人には、すごく向いていると思います。専門分野じゃなくてもいいから、現場感覚を持っていて、それを自分の言葉で話せる人は強い。Voicyは、そういう人の一次情報が一番活きる場だと思います。
「完璧に話せる人」である必要はありません。最初からうまくなくても、リスナーとのやり取りの中でテーマは育つし、話し方も育つ。私自身もそうでした。だから、まずは自分の現場の話を、ひとつ出してみるところから始めるのがいいと思います。
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▼のもきょうさん『正解の外側で考える』はこちら
文章:いしかわゆき
