「透明人間」と呼ばれた清掃員の俺たちが、亡き患者から受け取った「ぬるいオロナミンC」の正体。|誰かが必ず見ている。|仕事の誇り|リーダーシップ|実話エピソード|感動作|エッセンシャルワーカー|
誰かが必ず見ている。――ぬるいオロナミンCが教えてくれた、仕事の誇り

20代後半、副業として入った清掃の現場。 気づけば1年足らずで、高校生から80代まで、数百人を束ねる責任者になっていた。
当時の清掃業なんてのは、「他に務まる場所がねぇ奴がやる仕事」という偏見が世間に染み付いてた。案の定、病院関係者からは、ただそこを通り過ぎるだけの「透明人間」のように扱われる毎日。
俺は、その偏見の目が、どうしても許せなかった。
まだケツの青い俺なりに、どうすればこの壁をぶち破れるか必死に考えた。 「どんなに小汚くても構わねぇ。とにかく通り過ぎるすべての人に、心を込めて、目を見て、お前の精いっぱいの笑顔で挨拶しろ。無視されても腐らずに続けろ」
俺はそう伝え、自分自身もそれを貫いた。

「事務所に戻った時はどんなにダレても構わねぇ。だが持ち場にいる時は、絶対にため息をつくな。ここは俺らよりも辛い思いをしている人たちが来る場所だってことを忘れるな。訪れる人が、俺らの明るさで少しでも元気が持てるようにしろ」
俺は心を鬼にして、妥協を一切捨てた。 スニーカーを履き潰すほど現場を歩き回り、新品の靴が1ヶ月で底がツルツルになる。そのボロボロの靴底が、俺の覚悟だった。
ケツの青い若造が鬼と化して言い続けたことで、何人かのスタッフは辞めていった。だが俺は「絶対に結果は出る、お前らは見捨てねぇから付いて来い」と言い続けた。


1. 現場に轟いた怒号。コップ一つに宿る「誰かの想い」

ある日、病棟を回っていた俺は、ある病室の異変に気づいた。 覗き込むと、スタッフが床頭台の下で、割れたコップを拾いながら「すみません……」と消え入るような声を出していた。俺はすぐさま部屋に入り、スタッフに詰め寄った。
「お前、床頭台に大切な物が置いてあるって意識して清掃したか?」 「はい、でも……」 「『大丈夫だろう』っていう軽い気持ちがこれだ。いいか、このコップひとつが、お孫さんからの贈り物かもしれねぇ。お前にとってはただのコップでも、患者さんにとっては代わりのねぇ宝物かもしれねぇんだぞ!分かってんのか!」

思わず怒鳴りつけた俺を、患者さんは「いいんですよ、大したものじゃないから」と、逆に気を遣ってなだめてくれた。 俺はスタッフを立たせ、その頭に手を添えた。そして共に、腰が折れるほど深く頭を下げた。
「本当に、申し訳ありませんでした。二度と、このようなことがないよう徹底します」
あの時、ベッドの上で俺たちの背中をじっと見つめていたのが「おっちゃん」だったとは、その時の俺は知る由もなかった。

2. 震える手で受け取った、亡き「おっちゃん」からの遺言

月日が流れ、いつしか病院のスタッフも医師も、向こうから挨拶を返してくれるまでになった。 そんな激動の日々の中、いつも明るく声を掛けてくれていた「おっちゃん」の病室に清掃指示が出た。
嫌な予感がした。 俺は何も言わず、いつも以上に黙々と床を磨き、一人で完璧なベッドメイクを仕上げた。静まり返ったその部屋を出て、ナースステーションへ向かうと、婦長が一通の手紙とコンビニ袋に入ったオロナミンCを俺に差し出した。

それは、おっちゃんが自らの死を悟り、最期に俺たちへ遺したものだった。 事務所に戻り、全スタッフの前でその手紙を読んだ。
いつも病室を綺麗にしてくれている皆さん、ありがとうございます。
皆さんが必死に綺麗にしてくださったことで、毎日とても気持ちよく過ごすことが出来ました。どんなに忙しくても笑顔で接してくれた皆さんに、私は励まされてきました。
そして、〇〇さん。あの日、スタッフの方がコップを割った時、あなたが本気で叱っていた姿。『患者にとっては大切な物である』という言葉。スタッフの頭に手を添え、共に頭を下げた姿に、心から胸を打たれました。
あなたの漲るパワーに、本当に力をいただきました。
この手紙が読まれているということは、私はもうダメになったということです。最後に、皆さんの元気の源として、これを飲んでください。本当にありがとうございました。

3. 喉を焼いた「ぬるいオロナミンC」の熱い味

読み上げる声が震え、俺は最後、泣き崩れた。 高校生から80代まで、その場にいた全員が、声を殺してクソほど泣いた。 この手紙を読んだスタッフの誰しもが、心の中で「続けてよかった」と思えたはずだ。
差し入れられた「ぬるいオロナミンC」を全員で分け合い、喉に流し込んだ。 あんなに熱くて、重くて、美味い味を、俺たちは一生忘れない。

4. 誰かが必ず見ている。お前のパワーが必要なんだ

この経験が、俺に大切なことを教えてくれた。 「誰かのために徹底的にやり遂げることの大切さ」。 そして、「その姿を誰かが必ず見てくれている」ということだ。
様々な職、どれをとっても手を抜いて良い仕事なんてねぇ。 どの仕事においても必ず人と人が交わる。だからこそ、お前のパワーが必要なんだ。

どうせ自分一人ぐらい居ても居なくても同じだと思っているなら、お前を引っ張り出してくれる奴に出会えていねぇだけの話だ。
どこかに必ず俺の様な熱い奴がいる。 そんな奴と出会えた時、お前の人生が面白くなる筈だ。




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