「山本先生、漁夫の利?どうなんやろなー」(短編小説)
ある日の山本研究室。
昼休み。
学生たちはニュースを見ながら話していた。
高崎さんが言う。
「先生。」
「『漁夫の利』ってありますよね。」
「他の人が争ってる間に、関係ない人が得をするっていう。」
山本先生はコーヒーを飲みながら笑った。
「あるなあ。」
「昔からある話や。」
綾瀬さんが聞く。
「先生。」
「漁夫の利って、賢いことなんですか?」
山本先生は少し考えてから答えた。
「うーん。」
「どうなんやろなー。」
研究室のみんなが笑う。
「先生、珍しく即答しないですね。」
山本先生はホワイトボードに書いた。
『漁夫の利?どうなんやろなー』
「みんな。」
「世の中にはな。」
「争ってる間に。」
「思わぬ利益を得る人がおる。」
「それ自体は、実際に起こることや。」
戸上先生がうなずく。
「ことわざにもなっていますからね。」
「せや。」
「でもな。」
山本先生は続けた。
「それを最初から狙って。」
「人が困るのを待つ。」
「争いを利用する。」
「それは、先生は好きやない。」
研究室が静かになる。
伊藤先生が言う。
「利益だけを見てしまうと、大切なものを見失うことがありますね。」
「その通りや。」
山本先生は笑った。
「人の不幸の上に立つ幸せは。」
「長続きせえへん。」
「一時的に得したように見えても。」
「信用を失ったら。」
「もっと大きなもんを失う。」
山中先生が聞く。
「じゃあ先生。」
「たまたま結果的に得をした場合は?」
山本先生はうなずいた。
「それはまた別や。」
「人生には偶然もある。」
「運が味方することもある。」
「でも。」
「その運に感謝して。」
「次は誰かの役に立てたらええ。」
高崎さんが笑う。
「先生らしい考え方ですね。」
山本先生も笑う。
「先生はな。」
「勝つことより。」
「気持ちよう勝ちたい。」
「得することより。」
「胸を張って得したい。」
田中先生が微笑む。
「結局、人としてどう生きるかなんですね。」
「せや。」
山本先生は大きくうなずいた。
「人生には。」
「思わぬ幸運もある。」
「でも。」
「誰かを踏み台にしてまで欲しい幸運は。」
「先生はいらん。」
夕方。
学生たちが帰る時間。
山本先生は最後に言った。
「みんな。」
「漁夫の利を得ることも。」
「人生にはあるかもしれん。」
「でもな。」
「一番気持ちええんは。」
「自分の努力でつかんだ成果や。」
「それは。」
「誰にも遠慮せんと喜べる。」
研究室の明かりを消しながら、
山本先生は静かにつぶやいた。
「人の争いを待つより。」
「自分の力を磨く方が。」
「よっぽどおもろい人生になるで。」
その言葉は、
学生たちの心に静かに残り、
今日も山本研究室らしい人生の授業となった。
