アートがもたらすサステナビリティ。バンクシー超え?の美術家・MAGOの行動力に気づかされたこと
前回はサッカークラブ・南葛SCの経営に参画するに当たって、「サステナビリティ」の重要性についてお話しました。
私はここ数年、「持続可能性」を意味するサステナビリティが、経営でも自分の仕事でも、身近なプライベートのこと、自分の生活のことすべてに影響する大きなキーワードではないかと感じています。
人間は、意識していないとどうしても利己的になりがちで、何か悪いことが起きたときに誰かのせいにしたり、自分さえ良ければそれいいという行動をしてしまいがちです。しかし、心の片隅に「サステナビリティ」の考え方があれば、自分勝手な行動を踏みとどまったり、自分より他者、みんなの利益を考えたり、それまでの行動を省みたりできるのです。
今日は、プライベートでも親交のある美術家、MAGOこと長坂真護くんが取り組んでいる活動を紹介しつつ、経営や経済活動とサステナビリティについてお話ししたいと思います。
ガーナには「世界の電子機器の墓場」がある
アフリカ、ガーナの首都アクラのアグボグブロシー地区には、東京ドーム30個分! 関西で言うなら甲子園35個分の巨大なゴミ捨て場があります。ゴミ捨て場といっても、焼却場を備えた施設があるわけでも、埋め立てなどの処分をするための計画があるわけでもありません。
「世界の電子機器の墓場」と呼ばれるその場所には、ただひたすら使われなくなった電子機器が世界中から運ばれています。
アグボグブロシーに持ち込まれる廃棄物の量は、年間25万トン。瓦礫の山は今日も増え続けているといいます。
環境問題の話?
それもたしかにあるのですが、そこではもっと直接的で、短いスパンで起きる深刻な問題があります。
世界中にあるこうしたゴミの墓場は、実は現地の人の“生活の糧”になっています。東京オリンピックのメダルの一部が不要になったスマートフォンなどから抽出された金でできていることが話題になりましたが、電子機器には銅や鉄、金やレアメタルが含まれています。廃棄された電子機器を燃やすことで、価値のある鉱物を取り出しそれを売る。アグボグブロシーでは、6千人もの人がここで廃棄物を燃やし、日銭を稼いでいるのです。
電子機器をそのまま燃やすわけですから、当然、有毒なガスが発生します。それを吸い込んだ人が健康被害に遭ってもそこは自己責任。20代でがんを患う若者も多く、子どもから大人まで1日わずか6ドルほどの日銭を稼ぐために命を削らざるを得ない現実がそこにはあります。
ニュースに触れた後の行動で世界は変えられる
「電子機器の墓場」アグボグブロシーの問題は世界中で報道され、アフリカの闇、デジタル社会のゆがみとして取り上げられてるので目にしたことがある人もいるでしょう。
MAGOくんがすごいのは、この“ニュース”に触れた後の行動でした。
なんとこのニュースを知った1週間後にはガーナに飛び、現地の人と一緒にゴミにまみれながら交流し、友達になり、「ここで起きていることをなんとかするためにはどうしたらいいか?」を真剣に考えたのです。
経営する会社が倒産した後、“路上の画家”として活動していた彼は、この廃棄物を使ってアート作品を創作することを思いつきます。
先進国で消費された電子機器、世界中から厄介者扱いされた廃棄物に芸術的価値を付加することで再び価値のあるものにする。そしてそこで生まれた利益をアグボグブロシーのために活用する。実際にこの試みはどんどん広がっていて、さまざまなところで注目を浴び、彼が当面の目標に掲げているアグボグブロシーに焼却所をつくり、そこに現地の雇用を生み出すことも決して夢物語ではないという段階に来ています。
最近のビジネスの世界では、共存共栄の意味で「エコシステム」という言葉が飛び交っていますが、MAGOくんのやろうとしていることは、まさに世界規模、地球規模のエコシステムの構築です。
変人レベルの行動力と“仕組み”をつくる先見性を兼ね備えた美術家
MAGOくんとの出会いは経営者仲間からの紹介だったのですが、銀座で行われた彼の個展で作品を見たときに一目で心を奪われる何かを感じました。
さらに作品の背景、ストーリー、彼の思いを後から深掘りしていって、「これはちょっと次元が違うな」と思うようになりました。
まず、彼の行動力。経営者には行動力のある人が多いと思いますし、そういうタイプの人もたくさん見てきましたが、MAGOくんはもう“変人”レベル。
アグボグブロシーのことを知った後、もし自分ならどうしたか? を考えてみたのですが、すぐにガーナに行くというのは自分では絶対に出てこない考え。「何ができるのか?」は考えると思いますが、自分がまず乗り込むという発想はありません。
ましてや当時のMAGOくんの立場だったら「自分には何もできない」と思うか、「かわいそうだから少しでも多くの人に知ってもらおう」という行動を起こすのが精いっぱいだったでしょう。
MAGOくんが取り組んでいること、やろうとしていること、これまで達成してきたことは、私自身、本当のサステナビリティを考えるきっかけになっています。
「利益の追求」、「顧客目線」、私たちがやっているビジネスは“誰のため”なのか?
企業としての成長を証明するために売上げを上げる。株主に利益をもたらし、顧客に新しい価値を示す。私たちが徹底している「顧客目線」は、利益だけを追求しないという意味では聞こえはいいと思いますが、考えてみればビジネスの世界では当たり前のことなんですよね。
自分たちのビジネスって誰のためにやっているのか?
もしかしたら、顧客のためにとやってきたこと、評価されたいがゆえにやってきたことがもっと大切な何かを犠牲にすることにつながっているかもしれない。
そんな気づきが、「地球目線での経営」というテーマを与えてくれ、事業活動を通じたサステナビリティ、SDGsが、ただのキレイゴトではなく、自分がこれから取り組まなければいけない課題であり、バリュエンスが成長していくための唯一といっていい道だというひらめきを与えてくれたのです。
MAGOくんは、「問題解決型のアーティスト」と自称しています。
アート作品、特に現代アートでは、作品それ自体が現代社会の風刺だったり、あまり知られていない、視覚化されていないことを「見える化」するものだったりします。
正体不明のアーティストとして世界にインパクトを残しているバンクシーは、「問題提起型のアーティスト」といっていいかもしれません。
MAGOくんの作品は、その作品自体の価値、それを目にしたときに得られる感動だけでなく、その作品がつくられた過程を知った瞬間、売れた後に起きること、作品が生み出す循環、そのすべてが“アート”と呼べるような何かを私たちにもたらしてくれます。
そういう意味では、バンクシーよりも一歩先に踏み込んだ芸術家といってもいいかもしれません。
実は、MAGOくんのこの試みに、バリュエンスとしてタッグを組んで世界的なムーブメントにしていこうと具体的な動きをしています。
次回は、MAGOくんの提唱する「サスティナブルキャピタリズム」と2021年9月2日に香港にオープンしたばかりのMAGO Gallery Hong Kongについてのお話をしたいと思います。
