【雑記】ダンスフロアにシャーマニズムを!(……ただし、水分補給は忘れずに) 2025年12月某日

 生存報告がてら、雑文を投稿しよう。

 私は基本的に、自宅から一歩も外に出ることなく引きこもり生活を送っているのだが、最近、珍しく夜遊びした。12月、この時期には珍しいほど暖かかったある夜、ふらりと街を散歩して、あるクラブに足を運んだのだ。
 収容人数はせいぜい2,30人程度の、こぢんまりとした、アンダーグラウンドな(つまり、文字通り地下階にある)クラブである。
 到着したのは23時頃。店内に足を踏み入れ、スタッフのお兄さんに入場料を払い、バーでドリンクを受け取り、フロアを見ると、まだまだ客はまばら――というか、ほとんど誰も居なかった。
 今夜はテクノ・パーティとのことだ。DJはミニマル・テクノをプレイしている。VJがスクリーンに映すサイケデリックなアニメーションを除いて、店内はほとんど真っ暗だ。
 良い雰囲気だ。
 私はDJブースの前に行き、DJの指さばきを眺めながら、ぼんやりと体を揺らし始めた。BPM130弱のキックドラムが足元から脳の中枢に入り込み、抽象的なベースの音色が、体を前後に揺さぶっていく。大音量のテクノが流れる空間で目をつむれば、まるで電子音の波形が織りなす抽象的な模様の隙間を、自分の体が揺らめいているような感覚だ。
 しばらくの間、私はフロアでほぼ一人きり、黙々と体を揺らしていた。
 やがて客もぼちぼちと集まりだす。観光客らしい白人男性2人連れ、DJの友達らしい中年女性、遊び慣れていそうなおっさん、タトゥーを入れたやんちゃそうな若者集団――。フロアがかなり賑やかになってきた頃に、ゲストDJがブースに登場。歓声が沸き起こる。
 「イエーッ!!!!!」
 「ウオーッ!!!!!」
 「HOOOOO!!!!!」
 「○○ちゃーん!!!!!(女性DJの名前)」
 上昇するBPM。
 「イエーッ!!!!!」
 「ウオーッ!!!!!」
 「HOOOOO!!!!!」
 「やっちゃいますか!!」「やっちゃいましょう!!」(何を?)
 みんな、隣の客にぶつかるのも構わず踊り狂っている。
 「イエーッ!!!!!」
 「ウオーッ!!!!!」
 「HOOOOO!!!!!」
 「行っちゃいましょう!!」「行くぜっ!!!!」(どこに?)
 結構うるさいぞ、こいつら……。
 スピーカーから流れる大音量の音楽よりも、周囲の歓声のせいで鼓膜がピリピリしてきた。
 特に、曲に合わせて「HOO! HOO!」という合いの手を入れるのは、私には全然ピンとこないノリ方だ。まあ、楽しみ方は人それぞれ、優劣があるわけでもなかろうが、私の感覚では、基本的にはこの手のミニマル・テクノは、構造的に、とても内省的な音楽だと思うのだが……違うかな? ユーロビートやアイドルソングやヨサコイ祭りならば、律儀な合いの手も悪くないのかもしれないが。
 まあ良い。私は私の踊りを踊るまでだ。周囲のざわめきに気を取られることなく、音に意識を集中させ、電子音が神経を駆け巡る感覚に身を委ね、黙々とトランス状態に入っていく――。こいつ、ノリ悪いな!と周囲から思われている気もするが、知ったことか。お互い様だ。それより君たち、シャーマンのような私の踊りを見て、テクノの「感じ方」を私から学び給え。
 ――などとどうでも良いことを思いながら踊っていると、突如として、誰かに肩を叩かれた。
 「あの……」
 見知らぬ男が、私に何かを差し出している。
 「良かったら、これどうぞ」
 ……ば、売人!? (DJブースの真ん前で!?)
 「ミネラルウォーター。プレゼントです」
 「えっ」
 「ずっと踊られてますよね。ちゃんと水分取らなきゃ駄目ですよ!」
 にこやかな男の顔をよく見ると、入場時に料金を払ったスタッフのお兄さんだった。
 店から、水(500円)を奢られてしまった。
 気づけばもう4時間ばかり、水も飲まずに踊っている。客のほとんどが知り合い同士であろうパーティに忽然と現れ、DJブースの前で、水も酒も飲まず、延々、一人で痙攣している黒ずくめの男――。
 ……シャーマンというより、キチガイじゃん。
 無茶苦茶心配されてるじゃん、俺。というか、警戒されてるじゃん。
 私は礼を言って、ミネラルウォーターを飲み干した。
 そして、バーに行き、コーラを注文して、同じお兄さんに金を払いながら、
 「いやあ……完全にトランス状態になってしまっていましたよ」などと言い訳(?)した。「ここは良いクラブですね」
 「ええ、うちはアットホームな店なんで!」にこやかなお兄さんは、コーラと一緒に、また何かを渡してきた。「よかったら、これもどうぞ!」
 ミカンだった。
 「他のお客さんからの差し入れです。美味しいですよ!」
 そう言うとお兄さんは、何個ものミカンを両手に抱え、客でいっぱいのダンスフロアに消えていった。
 馴染みの客たちに、ミカンを渡しに行ったらしい。
 私はコーラを飲み、ありがたく頂戴したミカンを食べた。そして、客が少し減った頃にフロアに戻った。
 床の隅には、客が捨てたミカンの皮が一つ、寂しく落ちていた。
 私は、妙に明晰な意識でミカンの皮を眺めながら、思った。
 バナナじゃなくて良かった、――と。
 シャーマニズム、敗北だ。
 ……ミカンに。

 結局、私が穴蔵のような地下クラブから地上に転がりでた頃には、もう午前7時を回っていた。
 普段は全然体を動かさず家にこもっているくせに、この日はアフター・パーティまで居座って(というか「居踊って」)、8時間も、痙攣的な踊りに没入してしまった。
 ヘトヘトの体に鞭打って、私は帰路についた。


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