日本一周ツーリング ㊹
1986年9月1日(月)
快晴
北海道札幌市 『出発際のEmergency!』
9:45、S宅を出発。9月3日にはチームの仲間と札幌で合流するため、ここから道央に向けて舵を切る。

雄武のSにも3年連続でお世話になった。Sに「ありがとう、学校でまた会おう!」と挨拶、セルを回すと何やら下の方で緑色の液体がボタボタ…。
ラジエタークーラント(冷却水)だ!
出どころを調べると、エンジン下部とラジエターを繋ぐゴムホースの亀裂からだ。昨日、秘境の林道をガンガン走ったせいだろうか?Sに自転車のパンク修理用のゴム糊とパッチを貰い、応急処置をするが、多分ダメだろう。少しずつ漏れている感じ。

雄武町から最も近いと思われる旭川のHONDAサービスに電話、ラジエターホースを入手しようと試みるが、「その部品はありません。サヤマにはあるのですが…。」とホンダの人。
「サヤマってどこですか?そこに行きます!」と俺。
「サヤマは埼玉です。」
そうか、あの狭山か…俺んちに帰るのとほぼ同じである。
結局、明日札幌に着くよう手配してもらうが、明日の部品交換まで、何とか現状で凌がなければならない…。
冷却効率の良い水冷エンジンだが、こんな時は単純な構造の空冷エンジンが羨ましい。
方向性がようやく定まり、本当に出発。最後の最後までSには世話になる。Sが「ちゃんと帰れよ!」と言ってくれる。
改めて「ありがとう!東京で会おう。」
『救出、熱病に罹った相棒!』
冷却装置の故障、言わばNVは「熱病に罹ってしまった」ことになる。直ぐにオーバーヒートして壊れる…ことはないだろうが、水温計を見ながら、漏れた分は水を補給しつつ走る。
何せポンプで圧力を掛け、冷却水をエンジン内に循環させている構造上、どこかに穴が開いていれば、必ずそこから漏れるのである。水鉄砲のように。
「バイクをどれだけ労わって走れるか?」を日本一周の神に試されているような気がした。俺にもNVにも「試練」である。
「絶対助けてやる!」
まるで冷蔵庫の中のようなひんやりした浮島トンネルを抜け、上川町愛山の公園でSのおかあさんが作ってくれた弁当を食う。人の家に泊めてもらうと必ず弁当を作ってくれる。
いつでも俺の腹ペコを満たしてくれる、おかあさんの女性ならではの優しさを感じる。「ご馳走様でした!」

NVの冷却水の予備タンクにも水を補給する。思ったほど減ってはいない。良かった。
「頑張れよ!」
旭川で信号待ち、後ろに付いたローレルがクラクションを鳴らし、ミラーで見ると手を振っている。次の信号で話し掛けられると、俺の多摩ナンバーを見て声掛けてくれたそう。ローレルは品川ナンバーだったが、同郷のよしみ。「お互い、遠くから走って来たね~!」流石に東京が懐かしい。
江部乙のホクレンで給油。何故かスタッフはおねぇさんばかりで、レースクイーンに囲まれる世界GPのライダーのように取り囲まれた。悪い気分ではない。ガソリン入れただけでこんな特典が?
日本一のスタンド!いろいろ質問されたが、「野宿の時、トイレはどうしてるんですか?」にはちょっと困った。「それを聞いちゃ、おしめぇよ!」
NVの冷却水漏れは小康状態といった感じ。俺も体力、気力的にも問題なし、充実している。
「もうちょいだ!」
『予定変更、札幌に!』
今日は富良野辺りでキャンプかな…と考えていたが、諸問題を抱え、その解決のため、明日を有効に使うべく、頑張って今日中に札幌まで行くことにした。
R12奈井江の辺りでネズミ捕り。これも対向のトラックのパッシングに助けてもらった。遅いし、臭いし、いつも見下げられて、普段はちょっと敬遠しがちなトラックだが、いい人が多いな、何度も助けてもらった。
『従兄のアパートに!』
大分暗くなってから札幌に辿り着く。今日は札幌に住む従兄のHにやっかいになることになっている。
住まいであるアパートK荘に電話を入れると大家さんが出て、部屋を見て来てくれた。(現代注:この時代、当然携帯電話など無く、各部屋にも固定電話を引かないこともよくあること。アパートの管理人に電話し、取り次いでもらい、コミュニケーション取るのが普通。)
「今、居ないよ。」との返事。もう強硬手段で押し掛ける。肝っ玉かあさん系の大家さんが帰ってくるまでここで待て、と家に上げてくれ、メシも出してくれた。
ようやくHが帰宅、行きつけの居酒屋「大将」に連れて行ってくれる。Hが「従弟だ。」と俺を紹介すると、常連の皆さんが歓待してくれる。日本一周の話も聞いてくれ、「すごいなぁ。」と感心していた。
明後日、仲間と落ち合い、北海道を走る、と言うと常連のKさん、Sさん、Uさん、Iさんのご実家がそれぞれ標津、旭川、北見、留寿都にあり、そこの住所、電話番号を教えてくれた。
「何か困ったことがあったら、連絡しな。俺の名前を言えばいい。」と。温かい人達だ。
これが道産子魂なのか?「助け合いの精神」が染み付いている。
非常に心強い。ただ遊びに来ているだけの俺をこんな風に受け入れてくれているのだ。普段の従兄Hとの人間関係も多分にあろうかと思うが…。
今、二十歳だが、普段余り酒を飲みなれていないせいか、結構酔っ払い、Hの部屋で精神的なプレッシャーと戦った今日一日を終える。
何とかオーバーヒートせずに札幌まで辿り着けて良かった。
「NVよ、明日直してやるぞ!」
■本日の記録
〇本日の走行距離 325.4Km.
〇燃費 雄武→江部乙 26.4Km./L.
※含 タンデム
〇宿泊地 北海道札幌市・H宅(泊)
