波音/Grapevine #読むバイン vol.76
Grapevineが4年振りにフジロックに出て、しばらくはXでその評判が賑やかだった。僕も帰省先の福岡の実家でビールを飲みながらGrapevineの出演を観ていたのだけれど、やはり素晴らしかった。改めて偉そうに宣えば、Grapevineはとびきり優れたライブバンドである。(えっへん) けれど今日は、多幸感溢れる苗場で聴くGrapevineについてではなく、ひとり誰と心通わすでもないイヤフォン越しのGrapevineについて語りたい。半径3センチのひとりフェス。それも、他に変え難いGrapevineの愉悦である。何故ならGrapevineはとびきり優れたライブバンドであると同時に、類稀なる緻密なスタジオバンドでもあるからだ。そして何より、Grapevineはフェスで拳を振り上げさせるゴリゴリロックバンドでありながらも、田中和将は常に一人の孤独に寄り添い続けてきた作家でもあるのだから。
波音がしてるよ 振向く舗道
頓に 陽炎に会いすぎる 白昼夢の恋慕
https://www.uta-net.com/song/20181/
素晴らしい。
この曲の主人公を思い浮かべるとき、何故か決まってちょっと華奢な女の子を想像する。十七、八。たぶん、大きな恋をした。全身全霊を預けるような恋だ。けれど彼は行ってしまった。想いは断ち切れない。彼のいない世界になんてなんの意味もない。何処までも独りだ。彼と過ごしたある夏の一日の、波音だけが後遺症のように耳に響いている。
孤独。
それは時々、罪のように後ろめたい。こんなにも楽しげな世界にちっとも馴染やしないお前は、人間的に大きく欠損しているのだ。そう、後ろ指をさすような声が、心の中で木霊する。お前は恥ずべき人間なのだ、と。
けれど波音が、風の歌が、Grapevineが「それでいいんだよ」と耳元で言う。「これが物語なんだ」と。
Grapevine4枚目のアルバム『Circulat∞r』は、これまで何度も指摘してきたように、そんな「まやかし」や「まがいもの」をテーマにしたポリフォニーだ。プラネタリウムの偽りの星(『壁の星』)、破るべき予定調和の未来(『discord』)、君に会いに行こうと思わせる夏の風(『風待ち』)、壁にかかる絵がくれた優しさ(『lamb』)、ないはずの意味を求めていた日常(『Our song』)、Black MusicやWhite Cultureの紛い物としてのYellow Rock Band(『(ALL the young)Yellow』)、プラスチックケースの中の少女(『フィギュア』)、いつかはバレちゃう本当の事をもみ消す愛の力(『ふれていたい』)、風が奏でる意味のない歌(『アルカイック』)、そして、偽物の風を届けるCirculator。聴こえるはずのない舗道の波音。
「まやかしとは何か」を問うとき、それは同時に「本当とは何か」を探しているのと同じことだ。あの愛はまやかしだったのか(本物だったのか)。この精神と肉体は無意味なのか(何か意味はあるのか)。僕らの物語に意味はないのか(いや、きっと意味はあるのか)。それは、本当に、寄せては返す波のように、尋ねては諦め、諦めては尋ね、意識の浜辺でずっと眺め続けている景色だ。たった独りで。
さて、フェスでGrapevineに興味関心を持たれた顔のないあなた。何処かでまかり間違って、この浜辺に辿り着いてくれればいいのだけれど。(見込みは薄そうだ。) 僕はずっとこの浜辺でGrapevineを聴いていたんだ。もう、かれこれ30年近く。そろそろ日が沈み、空が赤く燃える頃だよ。君に聴かせたいGrapevineの12曲を、この頃ずっと考えていたんだ。どうだいちょっと、興味あるかい?
【著作権について】
本記事では、日本のロックバンドGrapevineの音楽、主にその歌詞を考察していきます。Grapevineは、歌詞については、ギターとボーカルを担当する田中和将氏が書いています。そのため、歌詞の一切については著作権者は田中和将氏にあるものと考えております。ただ、日本の著作権法には以下のような一文があります。
第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
本記事は、公表された著作物について、引用して批評・研究しようとするものであり、著作権者の権利を侵害するものではないと考えています。また、その意思はありません。万一、引用の仕方や分量について、著作権を侵害するような部分があると感じられた場合、ご指摘いただければ改善に努めます。
なお、本記事の文につきましては、先に述べました著作者Grapevine及び田中和将氏の権利を害さない限り、転用して構いません。その際、ご一報頂けると嬉しく思います。
