見出し画像

B.D.S./Grapevine #読むバイン vol.77

 8月1日。ついに2026年の『IN A LIFETIME CIRCULATOR tour』が始まった。ちょうど25年前の8月1日に発売されたGrapevineのフルアルバム第4作『CIRCULAT∞R』のリビジットツアーである。行きてえ。

 No.12『B.D.S.』は、「まやかし」と「まがいもの」をあえて信じようとする『CIRCULAT∞R』の、いわばクライマックスだ。

はずみでそこに入るギア 音ひかえめにさばく
はみ出る見失うセンターライン
ささやかに後悔する

『B.D.S.』田中和将/Grapevine

というファースト・センテンス。センターラインという規範をはずみで超えるギアさばきは、『ふれていたい』で理性を逸脱しようとした態度や、『風待ち』で、本当はもう会えるはずもない恋人に風のせいにして会いにいこうとする仕草と同じものだ。能動的に逸脱する、それは無理やりに風を起こすCirculator送風機が為そうとする態度そのものである。何故なら田中和将にとって、 「風」はしばしば、宗教的な啓示としての役割を果たしてきたからだ。

いつも通りの道を そう いつもと同じ風 違うな 今なら 分かるだろ

Everyman,everywhere』田中和将/Grapevine
 

 神は死んだ。けれど、依然、世界は不条理で、人は、祈るべき対象を必要としている。何を信じるにしても、僕らは理性の底で、それはまやかしだとうっすら分かっている。死んだら仏になると言う教えは遺されたもののための物語で、「あなたは神に愛を誓いますか」と尋ねる神父は、式場に雇われたアルバイトの白人だ。
 宗教というまやかしが悪徒によって利用され、何十万、何十億の人間を殺したり苦しめたりしてきたかを世界史で習っておきながら尚、メリー・クリスマス、六根清浄、二拝二拍手一拝で幸を願う。これが狂気でなくて、なんだろう。でもそれが、人間なのだ。

 会いに行こうかなあ 風のせいかなあ

『風待ち』田中和将/Grapevine

 風に啓示を受ける。それは、気のせいかも知れない。ましてやCirculat∞r送風機の風なら尚更だ。けれど、それでいい。まがいものの風でもいい、それでもそれを頼りに生きて行こう、という決意こそ『CIRCULAT∞R』の主題だ。

「旅です」とか大袈裟にいえ 生まれ変われるかもよ

『B.D.S.』田中和将/Grapevine

 僕らはまやかしを信じる人間であることから逃れられない。その宿痾を治す薬はない。もしも無理やりに目覚めてしまったら、人は壊れてしまう。
 10年後、風が囁く約束の地が嘘であったとしてもいい、と悟ったGrapevineのマスターピース『Silverado』は、こう歌う。

シルバラードがどこだって 本当はもうどうでもいいさ

『Silverado』田中和将/Grapevine

 この一文は、田中和将/Grapevineの物語を読もうとする上で、とても重要なロゼッタストーンだ。神の啓示に真偽は問わない。ただ誘われた場所に行けばそれでいい。それは、Grapevineデビュー前夜から歌い続ける『君を待つ間』の

柔らかな光に騙されながら行こうじゃない

『君を待つ間』田中和将/Grapevine

と言う予感が、確信に変わった瞬間だ。僕らはそれがまやかしとわかった上で、蜃気楼に向かって進み続けるしかない。

絵に描いてあるような 目に入る蜃気楼
手に入るのはもうそこまでだ

『B.D.S』田中和将/Grapevine

 こうして見れば、如何に『Circulat∞r』というアルバムが、Grapevineがおよそ30年に渡り描き続ける中心テーマを歌っているかを思い知らされる。Grapevine不確かな噂というバンド名は、冷静に考えれば、田中和将が問答し続けている主題なのかも知れない。

 『B.D.S.』それは、Breakdown syndromeの略として知られている。

目の前を鳥が舞う 軽めの方が体にいい みたいだ
アクセル踏めばどうにかなる おれ曰く「ブレーキダウンはかんべんな」

 それは、要約すれば『discord』で歌った「しらふじゃいかんよ」と言うことだ。冷静になるな、アクセルを踏んじまえ、南部の男になってくれ、と。それは4年前のデビューアルバム『覚醒』のアンチテーゼとも言える。僕の目を覚さないでくれ、ブレーキダウンはノーなんだ。

 そして25年四半世紀越しに、ピンとくる。この「鳥」は、あの『鳥』である。

why do you want to stay?
だって臆病な僕はもう飛べやしない

『鳥』田中和将/Grapevine

 あの時飛べなかった「鳥」が、今目の前を飛んでいる。「理論の真上 行ったり来たり」していたあの「鳥」が、今理論なんてどうでもいい、「今ブレーキダウンはノーなんだ」と舞っている。それが、Grapevineの、いや、愚かな者の語ること答えなのだ。

 ・・・ふう。ずいぶんウイスキー。ヘベレケの覚醒。五里霧中の賢者タイム。今日もしっかりポエちらかした。まともな人々は、詩と政治について、人前で語ったりしないらしい。恥ずかしいから、もうやめた方がいい。大の大人がやることじゃないよ。

目の前がどうにかなる ハイウェイの上 盛り上がる おれ独りで
迷える脳は手に余る 今ブレーキダウンはノーなんだ

 オーケー。見ろよ失笑厨。

【著作権について】
 本記事では、日本のロックバンドGrapevineの音楽、主にその歌詞を考察していきます。Grapevineは、歌詞については、ギターとボーカルを担当する田中和将氏が書いています。そのため、歌詞の一切については著作権者は田中和将氏にあるものと考えております。ただ、日本の著作権法には以下のような一文があります。

第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)

 本記事は、公表された著作物について、引用して批評・研究しようとするものであり、著作権者の権利を侵害するものではないと考えています。また、その意思はありません。万一、引用の仕方や分量について、著作権を侵害するような部分があると感じられた場合、ご指摘いただければ改善に努めます。
 なお、本記事の文につきましては、先に述べました著作者Grapevine及び田中和将氏の権利を害さない限り、転用して構いません。その際、ご一報頂けると嬉しく思います。

#grapevine #Ciculator #BDS #愚かな者の語ること

いいなと思ったら応援しよう!