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【連結経理課・和服ちゃん】(PMI編14営業日)取締役会①

 企業会計は、企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供するものでなければならない。
(企業会計原則 一般原則 1)

 その日、経理課は朝からあわただしかった。昨日までの淡々とした作業中心の数日が嘘のよう。
 事前に送付した月次数値の分析、まだ十分とは言えなかったけども……
 これまで簡単な損益報告だけだった資料を、三年分の同期間との比較と当期の推移分析、各経営指標との比較、貸借対照表たいしゃくたいしょうひょう資金繰表しきんぐりひょうを新たに付け加えて提出した。
 説明はいつもより大変かもしれないけども、要点をつまめばそれほど時間はかからない、と思いたい。
 神谷監査役……いえ、神谷部長はどう見てくれるかな。

 忙しそうにしながら山口主任が私に言った。
「和服ちゃん、事務局の作業、今日は一緒にお願いね」
 私は人数分の印刷した資料を手に持ち、応接室へ向かった。
 取締役会の定刻前、応接室へ向かうと、小暮専務、佐伯取締役、神谷監査役が座って談笑していた。

 会社の社長室は異質だったけど、この応接室はとてもすっきり落ち着いている。この応接室の内装は先代社長が特にこだわって作ったと山口主任からは聞いていた。ユーザーにまっすぐ向き合うというのが先代社長の口癖だったらしい。
 実際応接室を見ると、先代社長に一度お会いしたくなる。

 山口主任と一緒に資料投影のモニターを準備し、会議資料とペットボトルのお茶を配り終えると、勢いよくドアが開いた。
 ――三枝社長だ。

「何とか間に合ったかな? お、和服ちゃんも今日はいるんだね。さて、今日はいつもより議案も多いけど、チャチャっと終わらせましょう!」
 そう言って、応接室の一番奥の席へドカっと座った。
 いつものようにラフな格好。
「じゃ、事務局で進行はよろしく」と言って山口主任が出したお茶をグビグビ飲み始めた。
 山口主任も半ば呆れた顔をしながら開催の確認をとっている。
 私が議事録を取り始めると、ふと佐伯取締役と目があった。佐伯取締役は、私をジロッと見ただけですぐに資料へ目を落とした。
 営業のトップなので、売掛金調査をした私をよく思っていないのかもしれない。

 議題は滞りなく進んだ。
 それでも、財務資料や営業報告資料は新しくなっているからか、始まってから一時間半は経っていた。
「――では、最後は協議事項になります。売掛金の未回収案件について、です。事前に資料はお配りしております。
 この件は実際に調査をしました三和さんから報告するよう、小暮専務より伺って……」
 山口主任の言葉を遮るように、佐伯取締役が大きな声で切り出した。
「これさ、三和さんが調べたって書いてあるけど、内容はホントなの? それにこんな資料作るためにウチにわざわざ来てもらってるの?」
 会議資料をテーブルにたたきつけ、声には苛立ちがある。
 そんな中、三枝社長は長時間の会議に疲れたのか、お茶を飲んで興味なさそうに資料を見ている。
 小暮専務が佐伯取締役を止めようと目線を合わせたが、佐伯取締役は気に掛けず続けた。
「この内容も、まるで営業が悪者みたいじゃないか。よりによって一生懸命に頑張っている営業を捕まえて、めちゃくちゃだ! 事務方なんだから細かい事言わないで大人しく帳面でもつけていればいいんだ!
 一度引っ込めて管理部でもう一度見直してから来てくれ」
 佐伯取締役は最後は私を睨みつけるようだった。
 それに続いたのは――三枝社長だった。
「佐伯さん、まぁ落ち着いて。
 いやー、山口さん、和服ちゃん。佐伯さんもこう言ってるし、またこの件は今度って事で。営業報告は前月から少し落ち込んだけど、僕と佐伯さんで営業にハッパをかければ済むし……
 田端さんが居なくなったのは残念だけど、また代わりを探せば良いんじゃない? じゃ、今日は終わりって事で」
 そう言って席を立とうとした。

 その時。
「三枝社長、落ち着いて座ってくれ。それと佐伯さん、この件は儂が話をするようにと言ったものだ。
 ……山口さん、三和さん、続けてくれ」
 小暮専務が低い声で三枝社長をとめた。
 三枝社長が諦めたようにため息をつきながら椅子へ座りなおすのを見ていると、「和服ちゃん、大丈夫?」と山口主任が目配せをしているのに気づいた。
 山口主任に向かって軽く頷くと、山口主任はもう一度仕切り直すように話した。
「……ええっと、先ほど小暮専務から話があった通り、この件は三和さんから直接説明することとなります。また、この調査は神谷監査役からの指示を受け実施、報告をするものです。管理部の独断ではないことを申し添えておきます。
 では、三和さん。説明を」

 三枝社長は、早く終わってほしいとばかりに、会議資料をペラペラめくっている。佐伯取締役は納得がいかないとばかりに、先ほど投げつけた資料を手に持ち、私を見ている。小暮専務は、目を細めながら資料を注意深く見始めた。一部始終を見ていた神谷監査役の表情は読めない。だけども何かに気づいたように資料を見ながら頷いている。
 そんな中、山口主任の言葉に続き、
 まっすぐ応接室を見渡すようにして、私は説明を始めた。

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