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【連結経理課・和服ちゃん】(PMI編エピローグ)帰任

(本編の登場人物のその後です。なので大賞応募の対象外にしました。
ここまで楽しんでいただいた方に向けて。)

 色々あった出向も夏ごろには帰れると思っていた。
 でも「次の四半期も」と田端部長と山口主任、それになぜか三枝社長からも引き留めがあり、結局十二月中頃までエコペンテックにお世話になった。
 結局過去の決算は修正になり、更正請求を顧問の先生の協力を得て提出した。二年分の決算修正で夏休みは無くなったけども、経理課全員で乗り越えられたのはとても印象深かった。やっぱり経理はチームプレイでないと。
 ただ、東集は十二月末が本決算だというのに、帰任がぎりぎりになったのは少し気が重かった。吉田課長と一緒に仕事をするのも楽しいけど、もう少し余裕のある時期に返して欲しい。
 帰任前には、いつもの寿司屋、水家で歓送会も開いてもらった。

 山口主任―—いえ、山口経理課長は相変わらず忙しそうにしている。でも「会計って意外と難しいのね」と言いいながら、最近は勉強を始めた。出向中は私に何でも聞いていたけど、私が帰っていったら大丈夫なんだろうか。
「出向終わっても、分からないことはすぐメールするから!」
 と言っていたので、きっとこれからも変わらず頼られるのだろう。

 田端部長も「少しは簿記が分かったよ」と笑っていた。簿記検定を今度受けるらしい。昼は仕事、夜は娘の父、深夜は受験生として頑張っている。学生時代は陸上をずっとやっていたという話を後から聞いた。なるほど、体力には自信があるというわけだ。陰ながら応援しよう。

 伊原さんは――実家の会社を継いだらしい。ARAハイテックは伊原さんのお父さんが休眠状態で残していた会社だった。あの売掛金の件は、結局ADR(裁判外紛争解決手続)で和解し、売上は取り消された。伊原さんからの和解金はゼロで落ち着いたけど、伊原さんの退職金もなくなった。
 私が東集商事に戻ってからも、なぜか伊原さんからメールが届く。
「和服ちゃん、約束した飲み会いつやる? 俺はいつでもいいよ。それとARAハイテックも業績好調でね、腕のいい経理がいないんだ。ウチに来ない?」
 一体どこから私のメールアドレスを仕入れているのだろう。これも営業のすべなんだろうか。
 ARAハイテックは機械のレンタル業を始め、期末の連結パッケージではエコペンテックにもかなりの金額の発注があったと書かれていた。それに伊原さんの紹介でレンタルじゃなく購入をしてくれる会社も増えているらしい。
 無かったことになったあの契約書も、実は本当に先を見据えた契約書だったのかもしれない。
 ……印紙税以外は。

 藤川さんは正社員として採用されたらしい。私の帰任時の歓送会では唯一泣いてくれた人だ。それと、人手不足の影響で、藤川さんの知り合いがパート入社することになったらしい。「藤川さんと似たような雰囲気」だそうで、一度会ってみたい。

 小暮専務は、帰任の際にわざわざ経理まで出向いてきて来てくれた。
「よくやってくれた。ありがとう」
 とだけ言って花束を渡してくれた。
 相変わらずぶっきらぼうで不器用だけど、そこが小暮専務らしくて、少し笑ってしまった。

 営業の佐伯取締役は帰任前に私に「うんうん、私が見込んだだけあるよ。東集さんでもこの会社での成長を糧に頑張ってくれ」と言っていた。
 調子がいい人だ。
 あの会議の後、佐伯取締役が中心となって旧営業1課の本格的なテコ入れや旧営業2課のノウハウを取り入れるための人員配置を進めたようだ。東集商事との連携も進めるという話も本格化し、夏以降は会議以外で殆ど見かけずあちこち飛び回ってた。
 それに、人事評価についても「属人的な給与決定から脱して透明性のある給与体系や評価体系にしてくれ」と社長と管理部に提言したのは彼だった。
 取締役としてこれまでの体制に思うところがあったのだろう。

 そして三枝社長。私が帰任するまで何度も経理に顔を出してきた。
 ……というより、大した用事が無くても「和服ちゃん居る?」と現れ、数値について色々と質問をするようになった。歓送会にもしっかり来ていたし、三次会まで誘ってくれた。さすがに三次会はお断りしてしまったけれど。
 あの緊急経営会議以降、突然どこかへ行ったりすることもなくなり、社長室も随分様変わりした。ガジェット類は棚の奥に収まり、代わりに大きな書棚が据え付けられ、そこに何冊もの本が並んだ。まだ修行中の若社長そのものだった。
 最近は、営業の佐伯取締役や佐藤さんと一緒に得意先を回っているという。

 私はというと、本決算でてんてこ舞いの中で、神谷部長からねぎらいの言葉をもらった。言葉だけじゃなく、給与にも反映して欲しい、と半分冗談で返したところ、年末のボーナスがほんの少し上がっていて、なんだか少し嬉しかった。
 今も私は、事業報告や有報の作成に追われながら、いつもの日々を送っている。忙しいけれど、穏やかで、平和な毎日だ。

 しばらくは、社長室からの内線が鳴りませんように。

(今度こそ本当に、おしまい)


あとがき

 連結経理課・和服ちゃんPMI編をお読みいただきありがとうございました。
 途中、結構な量の専門用語や条文や基準を出したので、読みづらい箇所があったことはご容赦いただければありがたいです。
 経理・会計は地味と思われがちな領域ですが、昨今は特に難解な基準や税法が次々に導入され、複雑化を増す一方です。そこに少しでもスポットが当たり、面白みが感じられる読み物、よくある華々しい(?)弁護士や会計士ではなく、一人の経理担当者が中心となるものがあればなと思い書き始めました。
 M&Aが昨今話題に上がることも珍しくなくなりました。小説の題材と言う視点では、M&Aはディール実行時の話の方が華々しく、絵になるシーンが多いように思います。ですが、華々しいM&Aのドラマの後、静かに、しかし確実に生じた企業間、事業間、そして従業員間に不協和音が生じます。この不協和音を解消しようと音頭を取るのは経営者であり、支えあおうと努力するのはM&Aで買収し買収された会社の従業員です。
 主人公を考えた際に、表には出てこない従業員の方々を書かずしてM&AやPMIは話にならないと思ったのと、一番好きな会計領域である連結会計を合わせて、連結経理課に所属する経理担当者としました。

 筆者の視点ではありますが、2025年4月24日まではGrokが筆者の写真から偶然作り出した画像(後の和服ちゃん、1〜7話目のTop画像)を眺めては何かできたらなとは考えていたものの、小説を書くことは全く考えていませんでした。
 きっかけは1年ほどやっている本業関連の書き物に行き詰まり、「自分は文章を書けない人間なのかもしれない」と落ち込んでいるときでした。
 Amazonをあさっていると「ChatGPT小説を書く魔法のレシピ」という本があり、気分を変えて小説ならかけるかもしれない、と思い買いました。数ページ読み、これなら気軽に始められるかも?と思い翌25日の夜に1話目を(深夜のノリで)投稿したのが始まりです。
 気付けば1ヶ月以上、和服ちゃんの話を考える生活(しかも繁忙期に)をしていました。
 初めは書けることが楽しくサクサク書いてたのですが、(案の定)途中で(本業も燃え始める)辛く、何とか終わりまでやろうと終わらせるのが目的となって必死だった時期もありました。

まさに自分で始めた物語でした。。

 ここまで頑張れたのは、主にX(旧Twitter)の会計クラスタ界隈の方々からの(やはり皆様も繁忙期にもかかわらず)温かい応援のおかげです。本当にありがとうございました。
(仕事も溜まってしまっているので、暫くは本業へ注力します。。)

 なお、余談ですが、きっかけとなったkindle本に影響され契約したChatGPTは(私の使い方が悪いのか)ほぼ活躍しなかったのです。
 緩い条件(筆者の頭の中にある世界)をインプットしてみるのですが、条件を逸脱しがちだったり、過去与えた条件を無視しがち、といった状況で(山口主任が経理のおっちゃんになっていたことも。)、相当部分を自分で書いていた状況です。
 まだまだAIにできないことも多いのだなと実感をしたのもいい経験です。

 さて、今回は出向で子会社へ行った和服ちゃん。次はどんな騒動や事件に巻き込まれるのでしょうか。
 筆者の気力と体力が復活して時間ができればまた連載モノに挑戦してみたいと思います。
(連載以外は気が向いた時に書きます)

 それまで、暫くはさようなら。

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