見出し画像

キャリアと評価の再設計 #171

企業は、経営理念の実現に向けて戦略を描き、その戦略に沿って日々の事業活動を展開します。
そこでは必ず、ヒト・モノ・カネ・知識・情報といった「経営資源」が基盤となります。

経済学者エディス・ペンローズは、企業の成長制約について重要な指摘をしています。
成長を止める要因は外部の物理的制約ではなく、内部における経営資源の相対的な不足にあるという考え方です。
つまり、企業の成長は資源の質と量に強く依存しているということです。

■ 人材不足から労働力不足へ

その中でも近年、特に大きな課題として浮かび上がっているのが「ヒト」、すなわち人材です。
人材不足は個社の問題にとどまらず、社会全体の構造的課題になっています。

従来であれば、不足した人材は採用によって補うという発想が成立していました。
しかし現在は、社会全体で人材そのものが希少化しており、このモデルは機能しにくくなっています。

結果として必要になるのは、新たな補充ではなく、現存する一人ひとりの発揮能力そのものを引き上げるという視点です。
同時に、求められる知識やスキルも変化し続けており、継続的な学習が前提となる環境へと移行しています。

■ HRからHRMへ―人的資源の戦略化

こうした背景のもとで、HR(Human Resources)という概念が一般化しました。
単なる「人材」という言葉ではなく、人を資源として捉え、組織成長の中核に位置づける考え方です。

さらに、そのHRを戦略的に機能させる仕組みとしてHRM(Human Resource Management)が重視されるようになっています。

採用・育成・評価・配置といった制度設計にとどまらず、組織と個人、個人同士の相互作用を通じて発揮する価値を最大化していく視点が含まれます。

■ 組織全体の底上げを狙った試み

この前提のもと、全社員を対象とした学習機会として勉強会を企画・実施しました。
役職や経験値に応じたクラス分けを行い、全体の能力底上げを目的とした設計です。

しかし実際の運用では、想定とは異なる現象が起こりました。

人は変化に対して無意識に抵抗を示す現状維持バイアスを持つとされています。
また、自身の能力を過大評価しやすい認知傾向(ダニング=クルーガー効果)も、学習の必要性を受け入れにくくします。

その結果、学習を自分ごととして捉える層と、そうでない層に分かれ、むしろ組織内の差を広げる結果となってしまいました。

■ 評価制度の前提設計

現在の人事評価は、次のように整理されています。

* 業績評価
客観的な目標設定に対する成果で評価する
* 能力評価
保有能力ではなく、実際に発揮・貢献した能力で評価する
* 情意評価
経営理念(バリュー)に基づき、誠実さや姿勢を評価する

これはジョブ型の考え方を参考にしながら、評価における曖昧さや主観をできる限り減らす設計としている。

その意味でも、資格制度と学習機会を提供することで、自分のキャリア上の現在地を可視化し、主体的な成長を促すことを意図している。

■ キャリアアップ教育制度への再設計

現在、再構築しているのが「キャリアアップ教育制度」と「マネジメント資格制度」です。

この制度の目的は、社員一人ひとりの発揮能力を高めることにあります。
そのうえで重要なのは、教育制度の利用有無ではなく、実務における成果や発揮された能力を公正に評価し、報酬へと反映させる仕組みです。

つまり、学習そのものを評価対象にするのではなく、あくまで業務におけるアウトプットと能力発揮を軸に据えています。
その意味でも、まずは、客観的な評価として資格制度を布いています。
「マネジメント資格制度」による資格は、管理職などになるための最低限の資格を明確にするためのものでもあります。

■ 完成形ではなく、進化する制度として

「キャリアアップ教育制度」は強制的な育成ではなく、自律性を前提としています。
社員が自らの意思でキャリアを形成していくことを支援する枠組みです。

基本となるのは自習支援です。
キャリア形成に資する書籍やオンラインコンテンツ(記事・動画など)を紹介し、必要に応じて費用負担や貸出も行います。時間や場所に縛られず、自分のペースで学べる環境を重視しています。

また、自習に限定せず、社内外の研修や勉強会への参加機会も提供します。
さらに、ミーティングやグループウェアを通じた意見交換の場も整備し、学びを組織的な知見へと接続していきます。

この制度が現時点で完成形であるとは考えていません。
むしろ、現状の組織環境における暫定的な最適解として設計したものです。

今後の運用を通じて課題を検証し、必要に応じて柔軟に見直しながら、より実効性のある仕組みへと進化させていきます。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集