イノベーションは真似ることから始まる「ベンチマーキング」 #63
企業とは社会における意義があってこそ、初めて存在することができます。
そのため各企業は、コアコンピタンスやストロングポイントと呼ばれる独自の価値を創造する必要があります。
また、環境は常に変化します。特に現代は、将来の予測が困難な激動の時代です。
常に、新しい価値、つまりイノベーションを創造して行かなければなりません。
■ 優れたものを学び、再現し、超えていく力
イノベーションも、特別な天才だけのものではありません。
マーケティングの第一人者フィリップ・コトラーは、イノベーションを
「基本的に失敗のマネジメントであり、少数のすぐれたアイデアを得るためには、たくさんの劣ったアイデアを生み出す必要がある。」
と表現しています。
つまり、多くの試行錯誤の中から一部の成功が生まれるという考え方です。
また「アイデアのつくり方」で知られるジェームス・W・ヤングは、アイデアを
「既存の要素の新しい組み合わせ」
と定義しています。
つまりイノベーションの本質はアイデアであり、「ゼロから作ること」ではなく「組み合わせ」と「失敗の蓄積」なのだともいえます。
■ ベンチマーキングという現実的な成長戦略
人間には現状を現状のまま維持しようとする無意識の欲求があります。
そのため、新しい取り組みや高すぎる目標に対して、どうしても抵抗感が出てしまいます。
そこで重要になるのがベンチマーキングです。
これは、自社にとって優れた企業や組織、人物を基準(ベンチマーク)とし、その手法・思考・プロセスを学び再現するアプローチです。
具体的に、すでに成果が出ているモデルがあると、「まずはやってみる」という行動に変わります。
この差は非常に大きいものです。
ポイントは「完全な模倣」ではなく、「型を借りて自社に適応させること」です。
■ 異業種から学んだ在庫管理の本質
コロナ禍による経済低迷の中、当社も売上減少という大きな課題に直面しました。
そこで取り組んだのが、異業種のベンチマーキングです。
きっかけは、テレビ番組で見た「つぶれかけた居酒屋の再建企画」でした。
その居酒屋では、在庫管理が経営の大きなボトルネックになっていました。
生鮮品は時間とともに価値を失います。しかし多品目メニューを維持することで、食材の過剰在庫が発生し、廃棄コストが膨らんでいたのです。
そこで行われた改革はシンプルでした。
• メニュー数の大胆な削減
• 食材の共用設計による在庫圧縮
• 仕組みとして廃棄を出しにくい構造への変更

■ 合言葉は「在庫は腐る」
この事例を見て、私たちの組織にも共通する課題があると気づきました。
幸い当社の材料は腐るものではありません。
しかしその分、「在庫は悪ではない」という錯覚が生まれ、結果として過剰在庫が放置されやすくなっていました。
そこで発想を転換しました。
• 材料や仕掛品の共用設計
• 在庫を持つこと自体への再定義
• 必要以上のストックを“リスク”として扱う運用
物理的に腐らないものであっても、資金・スペース・意思決定を圧迫するという意味では「在庫は腐る」。
このシンプルな一言が、組織の認識を大きく変えました。
結果として、在庫構造の見直しと無駄の削減が進みました。

■ 目指すべきはベストプラクティス
重要なのは、ベンチマーキングそのものが目的ではないという点です。
目指すべきは、その先にある「あるべき姿」と「望ましい成果」です。
企業の競争優位性を支える具体的な方法や仕組みは経営プラクティスと呼ばれ、その中でも最も成果を上げているものがベストプラクティスです。
ベンチマーキングは、このベストプラクティスに到達するためのプロセスでもあります。

■ ベンチマーキングとは、“再現と進化”
ベンチマーキングは単体でも成功事例ですが、複数を組み合わせることで新たな成果が生まれます。
ただし、無秩序な組み合わせは逆効果にもなり得るため、設計と検証が欠かせません。
その上で、「再現の量」を増やす活動であるといえます。
そして、その中から「進化の質」を磨き上げるプロセスがベストプラクティスです。
この再現と進化を行き来しながら改善を続けることで、企業は単なる模倣を超え、独自の価値へと進化していくのだと考えます。
