「魔女のカバン持ち」第2話
魔女の家を掃除中のユーリ。魔女の呼ぶ声がする。
魔女「ユーリ!こっちに来て!」
声の方に行くと、入浴中の魔女がもじもじしている。
魔女「…背中を流しなさい」
ユーリは真っ赤になって「は…はい!」と答えたところで、目が覚める。
現実に戻ると、自分のぼろアパート。真っ赤なユーリ。
――朝、街中。
魔女の家へと歩くユーリ。淫夢のせいで顔がほてっている。そこに、パン屋が声をかける。
パン屋「ユーリ、おはよう。今日こそ仕事見つかるといいな」
ユーリ「あ…うん。実は見つかったんだ」
パン屋「本当かよ!なんの仕事だ?」
ユーリは一瞬迷って、「また今度ちゃんと話すよ」と誤魔化す。この街では、魔女は嫌われ者。魔女の所で働くとは言いづらい。
ユーリは、戦争で破壊された街を横目に、市民の言葉を思い出す。
「街がボロボロなのは、火の魔女が魔法で戦うからじゃないのか」「魔女め、冷たい目で敵を殺していたぞ」「おっかねぇ」
ユーリ「冷たい目…か」
――魔女の家の前。
ドアをノックするユーリ。返事はないが、静かに中へ入っていく。
ユーリ「お…おはようございます。ユーリです。今日から宜しくお願いします」
魔女はリビングにはいない。床に置かれた大きなカバンが目に入る。昨日の戦闘中も、魔女がずっと持っていたもの。
ユーリ「…何が入っているんだろう」
じっと見るユーリ。すると、カバンの中から微かに音が聞こえる。それは、人間の声のようにも聞こえる不気味な音。ユーリはゾクっとして、動揺しながら奥の方へ声をかける。
ユーリ「ま…魔女さん、どこですか…!?」
ユーリは、おそるおそる寝室のドアを開ける。
ユーリ「し…失礼しまーす…」
魔女はベッドで眠っていた。スースーと可愛い寝息をたてている。その横顔は少女のようで、つい見とれてしまう。
ユーリ「冷たい目…かなぁ…」
魔女が「う…ん…」と目をさまし、ユーリは慌てて声をかける。
ユーリ「お…おはようございます!昨夜言われた通り、朝ご飯を作りにきました…!」
――キッチン。
ユーリは手際よく卵焼きを作っている。チラっとリビングの方を見ると、魔女はテーブルで本を読んでいる。沈黙が気まずくて、ユーリは魔女に話しかける。
ユーリ「ま…魔女さんは王室に雇われる前はどこで何を?ご家族は?」
魔女「……」
ユーリ「…僕の両親は美容師でした。小さい頃に死んじゃって、あまり覚えてないですが」
魔女「……」
ユーリ「…魔女さん、好きな食べ物ありますか?次から参考にします」
魔女「……」
ユーリ「…えーと…そうだ。雇用契約書、いつ交わします?詳しい仕事内容とか…お給金のこととか」
魔女「……」
ユーリ「……あ、魔女さん。卵焼き、味薄かったら言ってください。次からは魔女さん好みの味付けを…」
魔女「読書中は静かにして」
昨晩の取り乱した姿が嘘だったかのように、つれない魔女。気まずい空気のまま料理が出来上がり、ユーリはテーブルへ運ぶ。その時、ドンドンとドアを叩く音。
ユーリ「…あ!出ますね」
気まずさから解放されたことに安堵しつつドアを開けるユーリ。すると、王室の兵隊が2人立っていて、大きな麻袋を持っている。
ユーリ「こんにちは…魔女さんにご用ですか?」
兵隊「貴様は誰だ。魔女の使用人か?」
ユーリ「ま…まあ、そんなような」
兵隊「…ふん。ほら、昨日の戦闘の報酬だ」
兵隊たちが乱暴に麻袋を投げる。袋の口が少し開き、大量の金貨が見える。
兵隊「それから、陛下が今夜の晩餐会に魔女をお呼びだ。必ず参れ」
兵隊は招待状をぐいっと渡し、去っていく。市民同様、兵隊たちも魔女を嫌いなようだ。
ユーリ「…感じ悪」
金貨を小屋の中へと運ぶと、魔女はユーリの作った卵焼きを無言で食べている。
ユーリ「それにしても、すごい量の金貨ですね…」
魔女「……」
ユーリ「僕には一生かけても稼げない額です…はは」
魔女「くだらないものよ。興味がないわ」
ユーリ「……」
魔女「なに?」
ユーリ「あ、いや…。僕は、明日の食事代さえない様な生活ですから…。お金は大事かなって…」
魔女「じゃあ、全部あなたにあげる」
ユーリ「え!?」
魔女「欲しいんでしょ?」
ユーリ「か…からかわないで下さい!そ…そんなことより、これ」
ユーリは晩餐会の招待状を魔女に渡す。
ユーリ「魔女さんはきっと、世界中の王族と付き合ってきたんでしょう?羨ましいです、華やかな世界…」
魔女はユーリを無視して、黙って食事を続けている。
――夕方、王城付近。大通りに面した、城へと続く大庭園の入り口。
馬車から、ドレスアップした魔女と、大きな魔女のカバンを重そうに持ったユーリが降りる。
しかし、庭園の入り口でユーリは門番に止められてしまう。
門番「お前はここまでだ」
ユーリ「え、あ…」
魔女「…この者は私の使用人です。一緒に城まで入ります」
兵隊「…なりません。この先は陛下の居城。こんなみすぼらしい男を入れるわけには」
ユーリ「あの、魔女さん、大丈夫ですよ。僕、ここで待ってます」
魔女「……わかった。ではカバンと一緒に待っていなさい」
迎えの者と庭園を歩いていく魔女を見送ると、ユーリはカバンを地面に置き、汗をぬぐう。そんなユーリを、門番たちがジロジロと見る。
門番「おい、お前。魔女の付き人か?」
ユーリ「あ、はい…。そんなような…」
門番「…初めて見る顔だな」
門番「魔女がいつも持っているそのカバン、中身は何だ?」
ユーリ「さあ…僕にも…」
門番たちが、いじめっこの様に絡んでくる。
門番「怪しいな。中を見せろ」
ユーリ「だ…ダメですよ…!あ…!」
抵抗むなしく、門番たちにカバンを奪われてしまう。しかしユーリも「返せ!」と応戦し、門番にとびかかる。カッとなった門番に殴られ、ユーリはドサッと倒れる。だがその時…
取っ組み合いをしている間に、カバンが消えている。スリらしき男がカバンを持って大通りを逃げていくのが見える。ユーリは真っ青になって追いかける。
ユーリ「ま…待て!泥棒…!」
――王城の大広間。
きらびやかな晩餐会。貴族や軍人が魔女を囲み、いやらしく魔女を持ち上げている。
貴族「火の魔女よ、あなたの魔法は世界一だ」
軍人「我が国の平和はあなたに懸かっている」
貴婦人「歳はおいくつ?とてもお綺麗ねぇ」
魔女はつれない感じで適当に返事をしながら、ワインをグイっと飲み干す。それを貴族たちが「お強いですなぁ」と、また持ち上げている。
――暗くなった街の路地裏
先ほどのスリが、カバンを開けようとしている。しかし口が固く、なかなか開かない。
スリ「あーん…なんだよ、ずいぶん固いな…くっそ…鍵でもかかってるのか」
こじ開けようと四苦八苦するスリが、ついに「この野郎…!」とカバンを地面に叩きつけようとした瞬間…
カバンがガバッと開き、大きな怪物の口の様になる。そして、バクッと一瞬でスリを喰らってしまう。
カバンの中から、ゴキ…バキ…グチャ…と残酷な音、そしてスリの断末魔の声が小さく響く。
――王城の大広間。
依然、魔女は貴族たちに囲まれ、華やかなパーティが続いている。魔女は少し酔った感じで、ほてっているが、ついに退屈に耐えられなくなったのか、「失礼…」とその場を離れる。
――スリが食べられた路地裏。
ユーリが息を切らしながらやってきて、カバンを見つける。
ユーリ「あった…!カバン…あった…!」
中身が盗まれていないか点検しようとするが、しばらくいじってみるものの開けられない。
ユーリ「こじ開けた形跡もないし…スリも開けられなくて諦めて捨ててったな」
そう納得したユーリは、カバンを持ってお城の方へと帰っていく。
――王城付近の庭園前。
二度と盗まれないようカバンを両手で抱えたユーリと、意地悪な門番がジロリと睨み合っている。そこへ、王城の者と一緒に魔女が帰ってくる。
魔女「ユーリ、帰るわよ。酔い覚ましに、家まで歩くわ」
――月夜の街。
酒が回って千鳥足の魔女と、心配そうなユーリが歩いている。
ユーリ「魔女さん、大丈夫ですか…?歩けますか…?」
魔女「…バカにしないで、歩けるわよ」
よろける魔女。
ユーリ「ほ、ほら言わんこっちゃない…」
魔女「うるさいわねぇ…」
ユーリ「魔女さんもいい大人なんですから、あまり飲みすぎちゃ…」
「いい大人」という言葉に反応して、魔女がつっかかってくる。酔いのせいか、魔女はいつもより饒舌だ。
魔女「使用人の分際で、私に説教する気!?」
ユーリ「そ…そういうことじゃないでしょ」
魔女「私を怒らせたら怖いわよ…」
ユーリは「何する気ですか…」と身構える。
魔女「…おぶりなさい」
ユーリ「えぇ!?」
――森の中。
月夜に照らされながら、魔女をおんぶして歩くユーリ。カバンも持っているので、息が切れる。魔女は相変わらず饒舌に喋っている。
魔女「だから晩餐会なんて嫌いなのよ…!あいつらの話は、何も面白くない…!」
ユーリ「…また子供みたいなこと言って…」
魔女「バ…バカにして…私はあなたの主で、しかも年上よ…!」
ユーリ「年は関係ないでしょう…」
魔女「何よ…!あなたが「子供みたい」とか言うから…!どうせ私は、性格の悪い嫌われ者よ…!冷たい目の魔女よ…!」
面倒くさい感じに酔っている魔女との微笑ましい口喧嘩に、ユーリは思わず「…あはは」と笑う。
魔女「ま…またバカにして…!」
ユーリ「…ふふ。僕は、魔女さんの目を冷たいと思いません」
魔女「…なによ。今度はご機嫌とろうっての」
ユーリは優しい笑顔で、これまで見てきた魔女の色々な表情を思い出している。
魔女「…ふん」
ユーリ「…ははは」
魔女「…今朝の質問、一つだけ答えてあげる」
ユーリ「え?」
魔女「私の好きな食べ物。あなたの作る卵焼き」
魔女のツンデレに、ユーリも照れる。
魔女「ちょ…ちょっと黙らないでよ…!」
美味しい時間が流れているが、しかし、カメラは意味深に魔女のカバンを映し、その不気味な謎を読者に感じさせて2話目おわり。
