「魔女のカバン持ち」第1話
舞台は、『ハウルの動く城』『魔女の宅急便』のような、「魔法」が存在する世界。写真や馬車はあるが、車や電話はないくらいの文明レベル。
この世界では隣国同士の戦争が長らく続いており、主人公は、現代で言えばウクライナの市街地のように、所どころ建物が破壊された戦火の街に暮らしている。
そんな街の裏通りを、主人公の青年ユーリ(18歳)がトボトボと歩いている。
手には「不採用」と書かれた紙。街は不景気で失業者が溢れ、ユーリは今日も仕事の面接に落ちた帰りだ。不採用通知をカバンにクシャっと入れるが、カバンの中にはすでに数枚の不採用通知が入っている。
ユーリ「全敗…か…」
疲れた顔をふと上げると、路地の壁に貼られた、いかにも怪しいポスターが目に入る。
「男性募集。余暇時間を利用して、女性の簡単なサポートをする仕事」
ポスターには顔を隠した女性の写真。「採用面接会場」と地図も書かれているが、明らかに何かしらの詐欺だと分かる怪しいポスター。
路地には王室の立て看板が立っていて、「注意、詐欺横行中」と書かれている。
こんな詐欺ポスターに目を止めてしまったことに、余計に情けなさが募る。
思わず深いため息をつきそうになるが、慌ててそれを手で止める。「ため息をついてはいけない」というのが、両親の教えだ。
ユーリ「…明日こそ…明日こそだ」
表通りに出て、なおも落ち込んだ顔で歩くユーリに、なじみのパン屋のおっちゃんが声をかける。
パン屋「ユーリ、どうだ調子は?仕事みつかったか?」
ユーリ「うん…まぁ…ダメだった」
パン屋「…そうか。困ったら、いつでもうちに来いよ」
ユーリ「ははは、ここだって人雇う余裕ないだろ。今月いっぱいは失業保険で食いつなぐよ」
パン屋のおっちゃんは少し切なそうで顔で、パンの切れ端が大量に入った袋をくれる。
パン屋「…これ持ってけ。捨てちまうもんだから」
真面目なユーリは、パン屋の善意が申し訳なくて断る。
ユーリ「いや、いいって…!いつもいつも世話になってばかりじゃ…」
パン屋「いいから持っていけ。雀の涙の失業保険じゃ、家賃も払えないだろ…」
ユーリ「おっちゃん…いつもありがとう」。
無理やりパンを渡されるユーリ。するとそこへ、ユーリと顔なじみの6歳くらいの少女がやってきて、声をかける。
少女「あ!いいなぁいいなぁ。ユーリばっかりズルい!」
ユーリは優しい顔で、しゃがんで少女と同じ目線になり、一切れだけパンを袋から出して自分のカバンに入れ、残りを全て少女にあげてしまう。
ユーリ「よし、山分けだ。その代わり、友達と一緒に食べろよ」
ユーリはパン屋のおっちゃんの方を見て、「いいよね?」と目くばせする。パン屋のおっちゃんも「もちろん!」と言うような笑顔を返す。
少女は無邪気にお礼を言うと、友達と連れ立って嬉しそうに、街の広場のほうに駆けていく。ユーリも、おっちゃんに挨拶をしてその場を後にする。
そんなユーリと少女たちの背中を、パン屋のおっちゃんと、店の奥から出てきた奥さんが心配そうに見つめている。
おばちゃん「…あんな切れ端じゃなく、腹いっぱい食べさせてあげたいけど…」
パン屋「仕方ねぇ…今回の戦争はもう半年も続いてる…景気はどん底だ…」
荒れ果てた街。景気はとうに底をつき、人々は故郷を愛する気持ちだけで、辛うじてこの街に暮らしている。
パン屋のおっちゃんが、言いにくいことを言うように小さくつぶやく。
パン屋「王室があの魔女を…火の魔女を雇ってから2か月…戦争は終結するどころか泥沼だ…。火の魔女め、金が欲しくてわざと戦争を長引かせてるんじゃないのか…」
おばちゃん「ちょっと…めったなこと言うもんじゃないよ。そんなこと王室の兵隊に聞かれたら…」
店の前を、いかめしい見回りの騎馬兵が歩いている。パン屋の夫婦は、隠れるようにそっと店の中に入る。
――小さな古いアパートの2階の一室。
帰宅したユーリが、机に飾られた、幼き日の自分と両親との写真に声をかける。
ユーリ「父さん、母さん、ただいま」
ユーリは幼い頃に両親をなくし、ひとりで今日まで生きてきた。ユーリは両親に申し訳ないような気持ちで、哀しくつぶやく。
ユーリ「ごめんな…仕事ひとつ見つけられないダメ息子でさ…」
部屋は質素だが、本棚には本が沢山ある。ユーリは心の奥底では大学に通いたいと思っているのだが、そんな気持ちはとうの昔に封印している。
またしても深いため息をつきそうになるのを抑えて、パン屋に貰ったパンの切れ端を食べようとした、その時…
「ウ―――!!」と大きなサイレンの音が鳴り、ハッとするユーリ。
ユーリ「くそ…連日来やがった…!?」
窓に駆け寄り、アパートの前の通りを見下ろすユーリ。
けたたましいサイレンが鳴る中、数十人の騎馬兵が物々しく通りを駆けていき、市民は慌てて建物の中に入っていく。遠くでは「ドーン…ドーン…」と大砲の音が鳴り響き、戦闘が始まったことが分かる。
通りを駆ける騎馬兵の指揮官が大声で叫んでいる。
指揮官「敵襲!敵襲…!敵は街の南門側!数は騎馬50、歩兵100、砲兵10!急げ!」
兵隊たち「ちくしょお…やつら奇襲かけてきやがった…!」
突如として始まった戦闘に、ユーリはかつて戦闘に巻き込まれて両親を失った、幼い日の記憶がフラッシュバックする。両親がユーリをかばって敵兵の銃弾に倒れる、悲しい記憶。
その時、ユーリの部屋のドアがバンっと開き、大家のおばちゃんがユーリに叫ぶ。
大家「ユーリ!何してるの急いで!シェルターに…!」
我に返ったユーリは、急いで自分の部屋を出て階段を駆け下り、アパートの地下に掘られたシェルターに向かう。シェルターの中にはすでにアパートの住人が数人避難しており、口々に戦争への不満を口にしている。
住人「ちくしょお…いつになったら終わるんだよ、この戦争は…」
住人「こうも毎日攻め込まれたら、この街だっていつ堕ちちまうか…」
ユーリも背中丸めてシェルターの中に入ろうとするが、その時、オロオロと動揺した若い母親がやってくる。
母親「あの…うちの娘…うちの娘を見ませんでしたか…」
ユーリはハッと、さっきパンをあげた少女を思い出す。さっきの少女は、この母親の娘だった。
ユーリ「さっき、広場のほうに…!」
そう言うと、シェルターを飛び出していくユーリ。
大家「ユ…ユーリ…!今外に出たら危ないよ…!」
はぁはぁと息を切らし、戦闘中の街を走りながら、少女を必死に探すユーリ。
激しい市街戦が始まっている。ユーリの脇を騎馬兵たちが駆け抜け、いたるところで轟音とともに建物が崩れていく。この街では、こうした市街戦がもう2か月つづいているのだ。
ユーリ「どこだ…どこだ…」
さっき少女と別れた広場近くの建物の陰に、逃げ遅れた数人の子供たちがブルブル震えながら隠れているのを見つける。ユーリは少女たちに駆け寄り、安心させようと必死に笑顔を作る。
ユーリ「もう大丈夫だ…もう大丈夫…」
その時、カチャッという音とともに、背後から冷たい声がする。
敵兵「動くな」
振り向くと、そこには、銃をかまえた数人の敵兵の姿。ニヤニヤといやらしい顔でこちらを見ている。
敵兵「手を挙げたまま、こっちを向け」
ユーリは子供たちを背中でかばいながら、静かに手を挙げる。
ユーリ「お…落ち着いてください…子供たちには、どうか銃を向けないで…」
敵兵はいやらしい目で少女たちを見て、じりじりと近づいてくる。近づいてくる敵兵の足が、ぐしゃっと何かを踏む。
それは、さっきユーリが少女にあげたパンの袋。パンが無残につぶれ、泥にまみれる。ユーリは「あ…」と小さな声が出るが、なす術はない。敵兵に殴り掛かることもできず、ただガタガタと震えている。その時…
それは、一瞬の出来事だった。ボウッという音とともに敵兵たちが燃え上がる。一瞬で黒焦げになった敵兵がスローモーションのように崩れ落ちていく。何が起きたのか分からないユーリ。敵兵が完全に崩れ落ちると、敵兵たちの背後に、誰かが立っているのが分かる。
それは、一人の美しい魔女であった。左手には異様に大きく四角い、トランク型のカバンを持っている。
魔女の右手の上に、小さな炎がメラメラを燃えている。魔女が火の魔法で敵兵を殺したのだと分かる。ユーリは、恐怖と安堵が入り混じったような声でつぶやく。
ユーリ「ま…魔女…」
瀕死の敵兵が、最後の力で魔女に向かって銃を放つ。銃弾は魔女の肩甲骨あたりを撃ち抜くが、魔女はまったく動じずに敵兵のほうを向き、火の魔法でとどめを刺す。横たわる敵兵が燃え上がり、完全に絶命したことが分かる。残酷な光景に、ユーリは思わず目を背けてしまう。
そんなユーリに見向きもせず、魔女は無言でスッとしゃがむと、敵兵に踏まれた泥だらけのパンを拾い、少女に差し出す。
魔女「これ、あなたたちの?」
少女「……うん…」
ユーリは何か言おうとするが、恐怖を抑えきれず、言葉が出ない。魔女は美しくも冷たい顔でユーリにいちべつすると、くるっと背を向けて去っていく。
ユーリは言葉が出ないまま、去っていく魔女の背中と、異様に大きなカバンを見つめ続けるしかなかった。遠くから、味方の兵隊たちの叫び声が聞こえている。
兵隊「魔女が加勢に来たぞー!」
兵隊「みんな踏ん張れ、火の魔女が来てくれたぞー!」
苛烈な市街戦の中心地で、次々と魔法で敵兵を黒焦げにしていく魔女の姿。それをただ茫然と見つめるユーリ。敵兵の叫び声と、黒焦げになった敵兵の死体の山。魔女の力で、形勢逆転したことが分かる。
――夕方、防衛戦に勝利した街。
戦闘は終わっている。しかし敵を退けたといっても、いたるところで火がくすぶり、建物は崩れ、王城の兵隊たちが敵兵の死体を運ぶ、無残な光景が広がっている。
街の人々も各々の家屋や店の前を片付けながら、戦争への不満を口にしている。
市民「今回もなんとか街を守れたけどよ…この戦争はいつまで続くんだよ…」
市民「この街は街道の要所だ。敵はきっといつまでも諦めねぇぞ…」
市民「こんな荒れ果てた街で、どう生活していけって言うんだ…」
市民「こんなに街がボロボロになるのは、火の魔女が魔法で戦うからじゃないのか…」
市民「見たか?さっきも魔女め、とんでもない冷たい目で敵を焼き殺してたぞ」
市民「おっかねぇ、おっかねぇ…」
そんな街の片隅で、ユーリはしゃがみこんでいる。魔女が助けに来なければ死んでいたであろう自分の無力さに、打ちひしがれているユーリ。悔しそうに目をつぶり、小さくつぶやく。
ユーリ「……何も…何もできなかった…。俺には、力も、金も、勇気も、何もない…」
本日三度目の、つきそうになるため息をぐっと堪える。虚しさが募るが、とにもかくにも腹が減る。グーっという腹の音を手で押さえながら、ユーリは情けない顔のまま立ち上がって歩き出す。
ユーリ「仕事…せめて仕事を見つけないと…くそ……」
その時、クシャっと何かを踏んだことに気づき、足元に目をやるユーリ。それは、さきほどの戦闘で壁から剥がれ落ち、ところどころ燃えて焦げた、例の怪しげなポスターだった。
「男性募集。余暇時間を利用して、美女の簡単なサポートをする仕事」
ユーリ「……」
――森の中、夜。
ユーリの住む街から数キロ離れた場所にある、町はずれの森の中。レンガ造りのこじんまりとした家が経っている。
ユーリは家の前に立ち、手には、さっきのポスターが握りしめられている。
ユーリ「場所…ここ…だよな…」
手に持つポスターの「男性募集~」の文字をチラっと見てから、ユーリは意を決してドアをノックする。
ユーリ「すみません…こんばんは…募集を見て来た者ですが…」
森は静寂に包まれている。家の中から返事はない。
ユーリ「やっぱり詐欺…か…?」
帰ろうかと思案するが、なんとしても職を見つけなくてはならないユーリは、意を決してドアノブをひねってみる。すると、ギイィと音がなり、ドアが開く。
ユーリ「あの…失礼します…。ユーリと申します…どなたかいませんかー…?」
恐る恐る家の中へ入るユーリ。小さなランプがついていて、ぼんやりと明るい。家の中は、ごちゃごちゃと物が溢れた、とても整理整頓されているとは言い難い様子。足の踏み場もないくらい散らかった、いわゆる片付けができない人の家。一人暮らしが長く、家事の得意なユーリは、「うげぇ…」という顔をしながら奥へと入っていく。
よく耳を澄ますと、遠くで「シャー…」と水の音が聞こえる。誰か人はいるようだ。
ユーリ「あの…すみませーん…僕…ユーリと言います…。仕事が欲しくて…あの…」
その時、リビングの小さなテーブルの上に、脱ぎ捨てられたワンピースを見つける。そして、ユーリはあることに気付いてハッとする。その服は、大量の血で汚れていたのだ。
ユーリ「血…!というか、この服、もしかして…」
ユーリは、昼間の戦闘で魔女が着ていた服を思い出す。そう、ここに脱ぎ捨てられているのは、まぎれもなく魔女が着ていた服だった。魔女が次々と敵兵を焼き殺す姿を思い出し、恐怖に震えだしてしまうユーリ。
危険を感じ、とっさに家から出ようとするユーリ。だがその時、ガチャっと部屋の奥のドアが開く音がして、ユーリは音のほうを振り返ると…
そこには、火の魔女が立っていた。
しかも、入浴後なのであろう魔女は、大きなタオルを持っているものの、裸であった。その姿は官能的で美しく、天女のようで、ユーリは思わず見とれてしまう。
そして、あまりの美しい姿に、今日あれだけ我慢してきた、ため息が自然に漏れてしまう。
ユーリ「は…あ…」
ポスターを握った手が、思わず汗ばむ。
ユーリ(「男性募集」って…これ魔女が出していた募集だったのか…!)
恐怖と、そしてほぼ裸の魔女を前にした照れと、色んな意味で固まってしまうユーリ。必死に、絞り出すように喋る。
ユーリ「あ…あ…あの…。ポスターを見て…来ました、ユーリと言います…。ま…魔女さんをお手伝いする仕事だとは知らず…その…」
魔女は30歳くらいだろうか、ユーリより10歳ほど上に見える。
魔女に見とれながらも、やはり恐怖のほうが勝ち、じりじりと後ずさりするユーリ。だが、何かにつまづいて尻もちをついてしまう。
それは、昼間の戦闘で魔女が持っていた、異様に大きなカバン。一瞬カバンに気をとられたユーリの耳元で、いつの間にか近づいていた魔女が冷たい声がささやく。
魔女「そのカバン…雑に扱わないで」
恐怖のあまり声が出ないユーリに、魔女が冷たい口調で続ける。
魔女「…不採用です。子供ひとり守れない人はいりません」
ユーリはハッとして、昼間の市街戦で足がすくんでいた自分を思い出す。魔女は、情けない自分の姿を覚えていたのだ。
魔女はタオルで身体を隠しながら、冷たくつぶやく。
魔女「ユーリ…と言いましたね。申し訳ありませんが不採用ですので、帰ってください」
恐怖に固まるユーリだが、ふと、魔女の肩甲骨あたりに銃弾の傷があることに気付く。昼間、ユーリと少女たちを助けたときに付いた傷だ。
ユーリ「か…肩…。傷が…」
しかし、足がすくんで動くことができないユーリ。魔女が、少しいらだったような声でさらに続ける。
魔女「聞こえなかったんですか?不採用ですから早く帰っ……」
しかし言葉をすべて言い終わらないうちに、魔女がクラっとよろけて、へたへたと倒れこんでしまう。いくら魔女と言えども、昼間の戦闘で疲弊し、ましてや銃で撃たれているのである。
ユーリ「え…!?あ…あの…魔女さん…。魔女さん…!?」
魔女は倒れたまま、荒く呼吸をしながら動かない。とっさに駆け寄るユーリ。
ユーリ「魔女さん…!魔女さん、大丈夫ですか…!?」
――数時間後、すっかり夜も更けた小屋の中。
魔女が「ん…」と目を覚まし、魔女は自分がブランケットを掛けられてソファに寝ていることに気付く。ハッとして周囲を見渡すと、部屋はすっかり片付けられていて、キレイに血を洗濯された服が、部屋の中に干されている。そして、少し離れたところに、ユーリが座っていることに気付く。
ユーリ「良かった…目をさましたんですね…」
魔女は驚いた顔をしている。
ユーリ「あの…すみません…勝手に…掃除と洗濯…してしまいました…」
魔女「な…なに勝手に…あなたは不採用だと…!」
上半身を起こそうとする魔女を、ユーリが慌てて止める。
ユーリ「あっ…!ダメです!ダメです起き上がっちゃ…!」
魔女「え!?」
ユーリ「あの…その…傷の手当はしましたが…その…服まではどうしても着せられなかったので…」
魔女は、自分が裸であることに気付いて、みるみる顔が真っ赤になっていく。そして…
魔女「み…み…見……」
自分が全裸で介抱されたことに気付いた魔女は、恥ずかしさで混乱しながら火の魔法を繰り出してユーリを攻撃し、真っ赤な顔で怒っている。
魔女「あ…あなた!なんてことを…!この…この…変態…!!」
ユーリ「ちょっ…死んじゃう死んじゃう…!」
魔女は真っ赤な顔でハァハァと息を切らしながら、起こした上半身をブランケットで隠している。ユーリもドキマギしながら息を切らしている。
ユーリ「あの…僕もう帰りますので…!今日助けていただいたお礼をしたくて、思わず傷を手当てしてしまって…なんか…その、ごめんなさい…!」
ユーリはそう言うと、魔女のほうを見ないようにしたまま、逃げるように小屋を出ようとするが…
魔女「…待ちなさい!」
ユーリ「は…はい!」
ユーリは、魔女に背を向けたまま直立不動で固まっている。沈黙が流れる。そして、背後から魔女の声が聞こえる。
魔女「………とりなさいよ」
ユーリ「…え?」
魔女の声色がこれまでと違うのを感じて、ユーリがゆっくりと振り向くと…
恥ずかしすぎて泣きそうになっている真っ赤な顔の魔女が、ブランケットで体を隠したまま、うるうるとユーリを睨みつけている。
魔女「責任…とりなさいよ」
予想外すぎる魔女の言葉に、動揺するユーリ。
ユーリ「せ…責任…!?」
魔女「人間に裸を見られただなんて、魔女として一緒の恥よ…。だから、あなたを使用人として雇います。そうすれば、それは純粋な治療行為の上でのいたしかない事象だったということになるし…うん、それしかないわ…あなたを一生ここでコキ使って…ぶつぶつ…」
魔女が真っ赤な顔のまま、ぶつぶつとつぶやいている。ユーリは、魔女の急なキャラ変と、突如決まった採用に、頭がついていっていない。
ユーリ「ええと…つまり…採用…?」
魔女「そう言ってるじゃない!頭悪いわね!」
恥ずかしさで死にそうになっている魔女が、ユーリを罵る。
魔女「な…何してるの!早く服を持ってきなさい!」
ユーリも真っ赤な顔で、とっさに「はい…!」と返事をして、慌てながらタンスを開け始める。
ユーリ「えっと…服はどこに…」
タンスから服らしきものを引っ張り出すが、それは魔女の下着で。
魔女「きゃーーー!バカ!そこは違う!そこは見ちゃダメ…!」
ユーリ「そ…そんなこと言われたって、今日初めてこの家に入ったんですから…!」
こうして、普段は冷徹だが実は可愛いところのあるアラサー魔女の家で働くことになった青年ユーリ。「年上の敏腕美人上司が自分にだけ素を見せる」的な美味しさを読者に感じさせて、1話目おわり。
