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人の気持ちはわかるのに、自分の気持ちがわからなかった

私は、もともと何でも断れないタイプではありません。

嫌なことは嫌と言うこともあるし、必要なら人と距離を取ることもできます。

だから、自分のことを「人に合わせすぎる人」だと思ったことも、あまりありませんでした。

でも、この数年、自分のことを振り返る中で、少し違うことに気づきました。

私は、人の気持ちや事情を考えるのが、とても早い。

この人は今、困っているんだろうな。

ここで私がやったほうが、話が早いな。

この人には、きっとこういう事情があるんだろうな。

ここで断ったら、少しがっかりするかもしれないな。

そんなことは、わりとすぐに浮かびます。

一方で、

「じゃあ、私はどうしたい?」

と聞かれると、すぐに答えが出てこないことがありました。

相手の気持ちは想像できる。

相手の事情も考えられる。

何をしたら、その場がうまくいくかもわかる。

でも、

私は疲れているのか。

本当はやりたいのか。

今日は一人でいたいのか。

少し考える時間がほしいのか。

そういうことは、後から気づくことがありました。

だから、問題は「断れるか、断れないか」ではなかったのだと思います。

私は断ることもできます。

でも、相手や場面によっては、

自分の気持ちを確かめるより先に、相手の事情を考えていました。

ある人には、あっさり断れる。

でも、ある人には少し言いにくい。

ある場面では人に頼れる。

でも、別の場面では「自分でやったほうがいい」と思う。

相手や場所によって、私はけっこう違います。

以前の私は、そんな違いをあまり考えたことがありませんでした。

「私はこういう性格だから」

と思っていたからです。

でも、自分を少し人類学者のように眺めてみると、面白いことが見えてきました。

私は長いあいだ、人や社会を観察する仕事をしてきました。

人類学では、人の行動を見て、

「この人はこういう性格なんだ」

とすぐに決めることはしません。

その人は、誰といるのか。

どんな場所にいるのか。

そこでは、どんな人が喜ばれるのか。

何をすると、受け入れられるのか。

そんなふうに、その人がいる関係や場面も一緒に見ていきます。

なのに、自分自身については、

「私はこういう人だから」

で済ませていました。

でも、ある人にはできることが、ある人にはできない。

ある場所では言えることが、別の場所では言えない。

だとしたら、それは本当に「性格」だけなのだろうか。

もしかすると私たちは、長い時間をかけて、

この人の前では、こうしていたほうがいい。

この場所では、こういう人でいるとうまくいく。

そんなことを少しずつ覚えてきたのかもしれません。

そして、それを長く続けていると、

「こうしたほうがいい」が、いつの間にか「私はこういう人だ」に変わっていく。

そんなこともあるのだと思います。

振り返ってみると、私は相手の気持ちや事情を、とてもよく考えていました。

それ自体は、悪いことではありません。

今でも、人の気持ちを考えることは大切だと思っています。

ただ、

相手の気持ちや事情はこんなに考えているのに、

自分がどうしたいのかだけは、いつも置き去りになっていました。

だから最近は、何かを決めるときに、一つだけ問いを増やすようにしています。

相手はどうしたい?

その場では何が必要?

そのあとに、

「私はどうしたい?」

も聞いてみる。

すぐに答えが出ないこともあります。

「わからない」ということもあります。

それでも、

少し考えたい。

今日は疲れている。

今回はやってみたい。

全部は難しいけれど、ここまでならできる。

今は一人になりたい。

そんな小さな答えが出てくることがあります。

最近は、「自分の気持ちがわからない」ということも、以前とは少し違って見えるようになりました。

自分の気持ちがなかったわけではない。

ただ、人の気持ちや事情を考えることに慣れすぎて、

自分の声を聞く順番が、少し後ろになっていただけなのかもしれない。

そう考えると、自分を変えようとしなくてもいいのだと思えるようになりました。

人の気持ちを考える自分も、そのままでいい。

誰かの力になりたい自分も、そのままでいい。

ただ、その中に、

「私はどうしたい?」

という問いも、一緒に置いてみる。

今は、そんなことを少しずつ練習しています。

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武田和歌子 (Wakako TAKEDA)|人類学者 私の記事が役に立った、面白かった、笑ったと思った方のサポートお待ちしております!いただいたサポートは更に良い作品を作るためのインプットや、他の素敵なクリエーターさんへのサポートに使いたいと思います。