別れたい。妻は浮気をしているわけではない。ただ“推し”に負けた。
別れたい。
これまで妻に、不満はなかった。
家のこともやるし、仕事もちゃんとしている。
浮気もしないし、優しい。
誰に紹介しても、いい妻だと言われると思う。
それでも俺は、離婚したいと思うようになった。
理由はひとつ。
妻が、アイドルにハマっているからだ。
こう書くと、自分でもひどい理由だと思う。
でも、それでもこのまま続けることのほうが、もっと無理だと思っている。
変わる前の妻
もともと、そんな人じゃなかった。
付き合っていた頃の妻はアウトドアが好きで、
休日になれば「どこか行こう」と言い出して車で遠出をした。
キャンプや登山も好きで、外で過ごす時間を楽しむ人だった。
無駄遣いもしないし、落ち着いていて、
いわゆる“ちゃんとした人”だった。
だから結婚した。
この人となら穏やかに暮らしていけると思ったし、
実際しばらくはそうだった。
きっかけは自分だった。
自分の転勤が決まって、都内のマンションに引っ越した。
車も手放した。
それまで当たり前だった遠出やキャンプはしにくくなった。
妻は何も言わずついてきてくれた。
「都会も楽しそうだしね」
そう言って笑っていた。
でも、本音はわからない。
少なくとも、あの頃みたいに外で過ごす時間はなくなった。
だから、アイドルの話をし始めたとき、
正直ほっとした。
自分の都合で生活を変えさせた負い目があったからだ。
新しい趣味ができたなら、それでいいと思った。
むしろ、安心していた。
あのときは、まだ。
加速していく“推し活”
気づいたときには、生活の中心が完全に“推し”になっていた。
休日はライブやイベントで埋まり、
整理券のために朝から並ぶ。
同じCDを何枚も買う。
最初は1枚だった。
それが3枚、5枚と増えて、
気づけば同じタイトルが何十枚も積まれていた。
「いっぱい買わないとイベントに当たらないし、
売り上げ1位になって欲しいから」
そう言っていた。
ランダムグッズも同じだった。
開けて、推しがでなかったから、また買う。
その繰り返しだった。
正直、引いた。
でも強くは言えなかった。
今はまだ家計が回っているからだ。
ただ、思ってしまった。
——これ、このままいったらどうなるんだろう。
今は大丈夫でも、そのうち止まらなくなるんじゃないか。
その不安だけが、積み上がっていった。
周りに言えない
誰にも相談できなかった。
「妻がアイドルにハマっていてつらい」
そんなことを言っても、
きっと軽く流されるのがわかっていた。
それくらいで?
趣味じゃん。
理解してあげなよ。
どうせ、そう言われる。
実際、自分でもそう思う部分はある。
でも、だからこそ余計にきつかった。
正当化できない苦しさがずっとつきまとっていた。
だから、誰にも言えなかった。
もう一つの違和感
もう一つ、見過ごせないものがあった。
妻の推し活仲間だった。
イベントで知り合ったらしいそのグループは、
ほとんどが20代前半だった。
なかには10代の子もいるらしい。
妻より、明らかに若い。
SNSを見せられたとき、
笑顔で並ぶその子たちの中にいる妻を見て、
正直、違和感があった。
楽しそうなのはいい。
でも、その空気の中にいるうちに、
価値観ごとそっちに引っ張られていくんじゃないかと思った。
生活も、お金の使い方も、優先順位も。
実際、もう変わり始めていた。
そう感じていた。
会話が消えた
会話も変わった。
というより、ほとんど消えた。
俺が何か話しても上の空で、
次の瞬間には「この前のお渡し会でさ」と話題が変わる。
同じ空間にいるのに、
会話が成立していない感覚だった。
いるのに、いない。
そんな状態が続いた。
ふと頭をよぎった
ある日、何でもない夜だった。
特別な出来事があったわけじゃない。
仕事を終えて帰宅して、
いつも通りリビングに入ると、妻はソファに座っていた。
スマホを見ながら、笑っていた。
画面の向こうには、例のアイドルがいたんだと思う。
「今日さ——」
話しかけようとして、やめた。
どうせ、聞いてない。
そう思ってしまった。
少し前までなら、
何でもない話でもちゃんと聞いてくれていたはずだった。
でも今は違う。
話す前から、
「聞かれない」とわかってしまう。
その感覚が、思っていたよりきつかった。
しばらく黙って立っていたけど、
妻は一度もこちらを見なかった。
ただ画面を見て、笑っている。
その顔は、
俺と話しているときより、ずっと楽しそうだった。
その瞬間、頭の中にふっと浮かんだ。
——この人と、ずっと一緒にいる意味あるのか。
驚くほど自然だった。
怒りでもなく、悲しみでもなく、
ただ冷めた感覚で浮かんだ。
そのまま言葉にはならなかったけど、
その日を境に、考えるようになった。
離婚、という選択を。
決定的だった日
結婚記念日だった。
毎年、思い出の店を予約して食事をすると決まっていた。
プロポーズをした店だった。
久しぶりにちゃんと向き合って話せると思っていた。
しっかり話してやり直そう。
離婚なんて考えが消せると思った。
でも数日前、妻は言った。
「ごめん、この日どうしても行きたいイベントがあって」
それは、お渡し会だった。
悪気はなかった。
本気で仕方ないと思っている顔だった。
そのとき、はっきり理解した。
——ああ、この人の中で俺はもう優先順位が低いんだな、と。
正直に言えば、その瞬間に一気に冷めた。
妻として見られない
嫌いになったわけじゃない。
でも、妻として見られなくなっていた。
隣にいるのに、
ずっと別の男を見ている人と一緒にいるような感覚だった。
それを続けるのが、想像以上にきつかった。
誰も悪くないのに
離婚理由としては、弱すぎると思う。
浮気でもないし、暴力でもない。
ただ、価値観が合わなくなっただけ。
それだけで壊していい関係なのか、
自分でもわからなかった。
でも、だからといって続けられるとも思えなかった。
それでも、もう無理だった。
気づけば、家にいる時間が減っていた。
帰れば、妻はスマホを見ている。
その画面の中の“誰か”に向ける笑顔のほうが、
俺に向けられるものより、明らかに柔らかかった。
その現実を何度も見せられて、限界だった。
最後に思ったのは、シンプルだった。
——自分だけでは、もう無理だ。
Q1. 配偶者がアイドルにハマるのはよくあることですか?
珍しいことではありません。推し活はストレス解消や自己肯定感の維持につながるため、年齢や性別に関係なく広がっています。ただし、生活や人間関係への影響が大きくなると問題になるケースもあります。
Q2. 妻がアイドルに夢中で夫婦関係が冷めることはありますか?
あります。関心や時間の多くが「推し」に向くことで、夫婦間の会話や共有時間が減り、心理的な距離が生まれることがあります。
Q3. 配偶者の趣味が原因で離婚を考えるのはおかしいですか?
おかしくありません。趣味そのものではなく、それによって生活や関係性が大きく変わる場合、離婚を考える理由になることがあります。
Q4. 推し活にお金を使いすぎるのは問題になりますか?
家計に影響が出る場合は問題になります。現時点で問題がなくても、「今後どうなるか」という不安が関係悪化の原因になることもあります。
Q5. 同じCDを何枚も買う行動は異常ですか?
推し活の中では珍しくありません。イベント参加券や特典目的で複数購入する文化があります。ただし、頻度や金額によっては生活とのバランスが崩れる可能性があります。
Q6. 配偶者との会話が減ると関係はどうなりますか?
会話の減少は関係悪化の大きな要因です。意思疎通が減ることで誤解や孤立感が生まれ、感情的な距離が広がっていきます。
Q7. 配偶者より“推し”を優先されるとどう感じるものですか?
多くの場合、「軽視されている」「必要とされていない」と感じやすくなります。これは関係の満足度を大きく下げる要因になります。
Q8. 周囲に相談できない夫婦問題はどうすればいいですか?
軽く扱われやすい問題ほど、相談しにくい傾向があります。その場合は第三者や専門家に相談することで、客観的な視点を得られることがあります。
Q9. 価値観のズレだけで離婚することはありますか?
あります。大きなトラブルがなくても、価値観や優先順位の違いが積み重なることで、関係の維持が難しくなるケースは少なくありません。
Q10. 自分では解決できない場合、どうすればいいですか?
感情と生活が絡む問題は、自力での解決が難しいことがあります。状況によっては、第三者の介入やサポートを検討する人もいます。
