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社内だから本当に安全?「ゼロトラスト」という名前に込められた、新しいセキュリティの考え方

ここ数年、仕事まわりで耳にするカタカナが一気に増えました。

DX、SaaS、クラウド、ゼロトラスト…。

会議や資料に当たり前のように登場するけれど、
「なんとなく雰囲気は分かるけど、正直ちゃんとは説明できない」
そんな言葉のひとつになっていないでしょうか。

その中でも「ゼロトラスト」は、名前のインパクトが強めです。

ゼロ:0
トラスト:信頼

直訳すると「信頼ゼロ」。
少し物騒で、「誰も信じるな」というメッセージのようにも聞こえます。
わたしも社内で突然言われて、訳が分からない単語でした。

でも、実際のゼロトラストは、
人を疑い続ける冷たい思想ではありません。

もっと地味で、もっと現実的で、
そして「これからの働き方」を前提にした、わりと優しい考え方です。

その意味をきちんと捉えるには、
まずゼロトラストが提唱される前、私たちがどんな前提を“当たり前”だと思っていたかを振り返るのが近道です。



✅ゼロトラストが生まれる前の「前提条件」

少し前まで、多くの会社では、次のような前提がほぼ「常識」として共有されていました。

  • 同じ場所で働いている
    みんなオフィスに出社して、同じフロアや同じ建物で仕事をする。

  • 同じような端末を使っている
    会社支給のデスクトップPCかノートPC。
    OSもソフトも、だいたい情シスが管理している。

  • 同じ時間帯に働いている
    平日の日中が中心。深夜に仕事をするのは一部の人だけ。

  • システムも“社内にある”
    ファイルサーバーも業務システムもメールも、基本は社内サーバー。
    インターネットは「外の世界」であって、業務の中心ではなかった。

  • アクセスするのは“社員”が中心
    取引先や外部パートナーが社内システムに入るケースは少なく、
    「使う人=社員」という構図が強かった。

こういう前提があると、セキュリティの考え方はどうなるか。

「会社の中(社内ネットワーク)にいる人たちは、基本的に信頼できる」

いう発想になりやすくなります。

そこで登場するのが、有名な「城と堀モデル」です。

  • 社内ネットワーク=城の中(安全)

  • インターネット=外の世界(危険)

  • 出入口にファイアウォールやVPNという“堀と門”を置いて守る

門さえしっかりしていれば、中はだいたい安全だろう。
これが、ゼロトラスト以前の、ざっくりしたセキュリティの前提条件でした。

✅制度やルールが映してきた「当たり前」の変化

前提条件が同じなら、そこで決められるルールも似てきます。
技術の歴史だけでなく、社内の制度やルールの変化を振り返ると、時代の流れが立体的に見えてきます。

ざっくり、こんな変遷がありました。

◾2000年代:同じ場所・同じPCだからこそ成立していたルール

「みんな同じオフィスで、会社支給のPCで、平日日中に働く」が前提だったころは、ルールもそれに合わせて作られていました。

  • ログインIDを部署で共用しているシステムがある

  • パスワードも定期的にみんなで更新して共有する

  • システムに入れるのはそもそも社内からだけなので、
    「社外からのアクセス」はほとんど想定しない

  • データの持ち出しも、USBメモリに入れて持って帰るのが普通

  • 在宅勤務は例外的で、「テレワーク規程」なんてものはそもそも存在しない

ここには、

「同じ場所・同じ端末で働いている社員なら、まあ信頼できるだろう」

という前提が強く効いています。

だからこそ、

  • IDの共用

  • 広すぎる権限

  • USBでの自由な持ち出し

といった、今見るとヒヤッとするルールも、当時はそこまで違和感なく運用されていました。

◾2010年代前半:スマホとクラウドの登場で「禁止ルール」が増える

スマホやクラウドサービスが仕事にも入り込んでくると、
それまでの前提では説明しきれない場面が増えてきます。

  • 社外からもメールやグループウェアを見たい

  • 個人のスマホで業務チャットを使いたい

  • 無料のクラウドストレージに資料をアップすると便利

このとき、多くの会社で最初に出てきたのは、こんなルールでした。

  • 「USBメモリ持ち出し禁止」

  • 「私物PCからのアクセス禁止」

  • 「個人のクラウドサービス利用禁止」

  • 社外からシステムを使うときは、VPN必須

つまり、
新しい働き方やツールに対して、

「とりあえず境界(社内/社外)を強くすることで防ごう」

という“防御反応”が強く出た時期です。

会社としては安全側に倒したつもりですが、現場から見ると、

  • 便利なサービスが使えない

  • 自宅や出張先から仕事をしにくい

  • VPNが遅すぎてイライラする

といった「不便さ」として体感されやすいフェーズでもありました。

◾2010年代後半〜2020年代:リモートワークとSaaS前提のルールに

その後、SaaS やクラウドサービスが業務のインフラになり、
さらにコロナ禍をきっかけに、リモートワークが一気に広がります。

すると、さすがに「全部禁止」は現実的ではなくなり、
ルールも徐々に“使うことを前提にした設計”へ変わっていきます。

  • 在宅勤務・リモートワークを前提にした就業規則・テレワーク規程が整備される

  • どこからでもアクセスできる代わりに、
    多要素認証(MFA)の利用が必須になる

  • 1つ1つのクラウドサービスでユーザー管理をするのではなく、
    ID基盤(SSO / IDaaS)でまとめてログインを管理するようになる

  • BYOD(私物端末の業務利用)についても、
    「一律禁止」から、
    「管理アプリを入れた端末だけ許可」など条件付きで認めるルールに変わる

  • 「とりあえず管理者権限」は減り、
    **役割ごとの権限(ロールベースアクセス制御)**が意識され始める

ルールのトーンが、

「使わせないことで守る」

から、

「条件をつけながら、うまく使ってもらうことで守る」

に少しずつ変わってきたわけです。

とはいえ、この時点でもまだ発想の軸は、

  • 社内か社外か

  • 持ち出しか、持ち出しじゃないか

  • 社給か、私物か

といった「線を引く場所」を中心にしています。

ここからさらに一歩進めて、
「そもそも、その線引きに頼るのは限界では?」
と問い直したのが、ゼロトラストです。

✅その前提が、静かに崩れていった

ここ10年〜15年ほどで、私たちの働き方はガラッと変わりました。

  • 在宅勤務・リモートワーク・出張先・カフェからの仕事が当たり前に

  • 仕事で使うサービスの多くが、社内サーバーではなくクラウド(SaaS)に

  • PCだけでなく、スマホやタブレットからもメールやチャット、グループウェアにアクセス

  • 業務委託・副業・フリーランス・海外拠点など、
    「社員じゃない人」もシステムに関わるように

  • 取引先・グループ会社・パートナー企業と、システムやデータをつなぐことが前提に

もはや、「全員が同じ端末で同じ場所で同じように仕事をしている」とは言えません。

  • どこからアクセスしてくるか分からない

  • どんな端末でアクセスしているか分からない

  • その人がどの組織に属しているのかも、一定ではない

にもかかわらず、

「とりあえず社内ネットワークに繋がれば、あとはだいたいOK」

という昔の感覚のままでいるとどうなるか。

一度どこかから侵入されると、
社内のサーバーやファイルに横断的にアクセスされてしまい、
被害が一気に広がるリスクが高まります。

「全員が同じ端末で同じ場所で同じように仕事をしている」
という前提で作られたセキュリティモデルが、
現実の働き方と合わなくなってしまったわけです。

✅ゼロトラストは「信頼レベルをいったんゼロから始める」という思想

そこで出てきたのが『ゼロトラスト(Zero Trust)』という考え方です。

名前だけ聞くと「誰も信じるな」と言っているようですが、
実際の意味はもう少し丁寧です。

「最初から“安全だろう”と決めつけて信頼しない」
「毎回ちゃんと確かめてから、必要な分だけ信頼を足していく」

つまり、信頼レベルの初期値をゼロにするという意味での「ゼロトラスト」です。

具体的には、こんな考え方に置き換わります。

  • 社内ネットワークからのアクセスだからといって自動的に信じない

  • その都度、「誰が」「どの端末から」「どのサービスに」「どんなデータへ」アクセスするのかを確認する

  • その人の役割や仕事に応じて、必要最小限の権限だけを与える

英語では、ゼロトラストの世界をよくこう表現します。

Never trust, always verify.
(決して思い込みで信じず、いつもきちんと確認する)

ここで言う「ゼロ」は、
「人としてまったく信頼しない」という意味ではありません。

そうではなくて、

  • 社内だから

  • 同じネットワークだから

  • いつもそうしているから

といった“雑な信頼”の初期値をゼロに戻す、という話です。
簡単に言うと「ゼロベースで考える」ことです。

✅家の鍵を、「場所」で決めるか、「人と状況」で決めるか

少し生活のイメージで考えてみます。

たとえば、

  • どこの誰か分からない人が、
    自分の家の敷地の中を歩いている

このとき、
「敷地の中にいるから信頼できる」とは普通は思わないですよね。

  • その人は家族なのか

  • 宅配業者なのか

  • 近所の人なのか

  • 見知らぬ人なのか

“場所”だけではなく、“人と状況”を見て判断しているはずです。

昔のセキュリティは、

「敷地の内側にいる人は、だいたい家族だろう」
(加えて、敷地の周辺にいる人も悪い人はいないだろう)

という前提で動いていました。

ゼロトラストは、

「敷地の位置だけで判断するのはやめて、
ちゃんと“誰が・何をしようとしているか”で判断しよう」

という、ごくまっとうな方向に戻しているだけとも言えます。

✅これからのセキュリティを、どう捉えると楽になるか

ここからは、これから先のシステムセキュリティをどう捉えると分かりやすいかという視点で整理してみます。

① 「守る場所」から、「守る対象の組み合わせ」へ

昔は「社内ネットワーク」という場所を守る発想が中心でした。
これからは、

  • 誰が(ID / 身元)

  • どの端末から(PC・スマホ・タブレット)

  • どこから(オフィス・自宅・海外出張先)

  • どのサービスに(クラウド・社内システム)

  • どんなデータへ(機密情報・個人情報・一般情報)

アクセスするのかという、“組み合わせ”を守る世界になります。

つまり、

「社内にいる人をざっくり守る」から
「一つひとつのアクセスを吟味して守る」へ

視点が変わっていきます。

② 「絶対に侵入させない」から、「侵入されても広げない」へ

セキュリティの理想は、もちろん侵入されないことです。
ただ、現実として「絶対に破られない」はほとんど期待できません。

ゼロトラスト的な発想では、

「侵入されないこと」だけに賭けるのではなく、
「侵入されても被害が広がりにくいように設計しておく」

ことが重視されます。

  • 何でも見える共有フォルダをやめる

  • 管理者権限を、必要な人に必要なときだけ渡す

  • 重要なシステム同士を、ネットワークや権限で分けておく

こうしておけば、どこか1カ所が破られても、
「すべてが丸裸になる」事態を減らせます。

③ セキュリティは「情シスの儀式」から、「働き方のデザイン」へ

ゼロトラストというと技術用語に聞こえますが、
実際には人の働き方や組織のルールの話とセットです。

  • パスワードを使い回さない

  • 多要素認証(スマホでの確認など)を面倒がらずに使う

  • 私物端末と仕事用端末を分ける

  • 「ちょっとラクだから」とルールを無視しない

どれも情シス専用の儀式ではなく、
そこで働く一人ひとりの日常の選択です。

ゼロトラストは、
「仕組みとして雑な信頼をやめる」ための考え方ですが、
裏返すと、「人と仕事を大事に扱うために、ちゃんと確認する」発想でもあります。

✅なぜゼロトラストは「これから不可欠な思想」なのか

最後に、「今後どうなるからこそ、ゼロトラストが不可欠なのか」を少し先回りして見てみます。

  • 働く場所は、オフィス・自宅・コワーキング・海外、とますます分散する

  • 1人が複数の組織に関わる(副業・兼業・プロジェクトベースの仕事)が普通になる

  • システムはさらにクラウド化し、企業の境界をまたいでAPIでつながる

  • AIや自動化ツールが、業務データにどんどんアクセスするようになる

「ここから先は社内だから安全です」という線を引きにくい世界に、確実に向かっています。

そんな環境で、

「社内にいる人は基本信頼、外は基本不信」

という境界線モデルを引きずるのは、
シートベルトもエアバッグもない車で高速道路を走り続けるようなものです。

これからは、

  • 「原則MFA」

  • 「原則、役割ベースの最小権限」

  • 「原則、アクセスログが残る前提での運用」

といったルールが、「ちょっと進んだ会社の取り組み」ではなく、
交通ルールや就業規則と同じくらい当たり前になっていくはずです。

その土台にある考え方が、ゼロトラストです。

✅まとめ

雑な信頼から、ていねいな信頼へ

ここまでを、いったん言葉をそろえて振り返ると…

  • かつては「同じ場所・同じ端末・同じ時間」で働く前提だった

  • だからこそ、「社内にいる人はだいたい信頼できる」という雑なくくりで、セキュリティもルールも作られていた

  • 働き方とシステムの置き場所が変わり、その前提が静かに崩れていった

  • 「社内だから」「同じネットワークだから」といった環境ベースの信頼では守りきれなくなった

  • そこで出てきたのが、信頼レベルの初期値をゼロにして、
    「毎回ちゃんと確かめてから、必要な分だけ信頼を足していく」ゼロトラストという発想

ゼロトラストは、
「誰も信じるな」という冷たい思想ではなく、
 “雑な信頼”から“ていねいな信頼”へのアップデート
だと捉えると、少しだけ身近に感じられるはずです。

▶️あとがき

「分からないけど頷いておく」から「こういう意味なんだ」と言い換えられる状態へ

「ゼロトラスト」という言葉を、最初に資料で見かけたとき。
正直わたしも、「ああ、また横文字が増えたな…」くらいの感想でした。

会議で飛び交うカタカナは、
分かったふりをして頷くこともできるし、
なんとなく「セキュリティ強化のやつね」と解釈してスルーすることもできます。

でも、一度立ち止まって言葉の裏側をたどってみると、

  • かつての前提条件

  • 働き方の変化

  • ルールの変遷

  • それでも残った“違和感”

みたいなものが一本の線になって、
「だから今、この考え方が必要なんだ」という納得に変わっていきます。

分からないまま頷くのではなく、
自分なりに「こういう意味なんだ」と言い換えられる状態は、
それだけで小さな安心につながります。停滞や無駄も減ります。

ゼロトラストは、IT部門だけのテーマではありません。
在宅勤務をする人も、クラウドサービスを使う人も、
「仕事でPCやスマホを使っている」わたしたち全員に関係する考え方です。

今回の記事は、

「ゼロトラスト=怖い横文字」ではなく、
「これからの働き方を守るための、少していねいな信頼の設計」

と捉え直すきっかけにした記事です。役に立ったらならうれしいです。

これからも、こうした“よく聞くけれど、よく分からない言葉”を、
わたし自身の働き方や感覚に引き寄せて眺め直していけたらと思います。
横文字に振り回されるのではなく、うまく距離を取りながら付き合っていくための、小さな足がかりとして。

👍基礎から解説です

👍アーキテクチャや導入の入門書


最後に

このnoteでは、会社員(勤め人)目線で“なんとなく難しい”を“ちゃんとわかる”に変えることを目指しています。制度の裏側や仕組みの合理性を、やさしく、でも本質的に。このnoteが、みなさんの「なんとなく」を「なるほど」に変えるきっかけになれば嬉しいです。そんなことを思いながらこれからも発信していきます。

※本記事は、筆者個人の視点や経験に基づいた考察です。特定の立場や価値観を否定する意図はなく、あくまで一つの見方としてご覧いただければ幸いです。異なるご意見や感じ方があることも前提にしながら、思考のきっかけになればと思って書いています。

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