AI時代の課長と僕 〜デジタル格差を超える、ちょっといい話〜第1話:「ChatGPTって食べ物ですか?」
この連載は、実際の職場で起きたリアルを参考に、世代を超えた学びと成長の物語をお届けします。
あなたの職場にもAIに弱い「田中課長」はいませんか? そして、あなたは「山田くん」のようにAIに疎い上司を優しくフォローできていますか?
今回は田中課長がAIに触れるきっかけとなった物語をご紹介します。
早速、田中課長の奮闘ぶりと山田社員の献身的なフォローを見ていきましょう。
月曜日の朝礼が、いつもと違った。
「おはよう、みんな。今日はいい話があるんだ」
田中課長がいつになく自信満々の表情で切り出した。
僕は嫌な予感がした。
課長の「いい話」は、だいたい現場を混乱させる。
「最近、世間で話題のチャットGPTというものがあるだろう。あれ、うちの部署にも導入しようと思うんだ」
ああ、やっぱり。
朝礼メンバーの視線が一斉に僕に向けられる。
IT担当の山田、つまり僕の出番だ。
「課長、それ、もう無料で使えますよ」
僕がそう言った瞬間、課長の目が点になった。
「え? 無料? 買わなくていいの?」
「はい。スマホでもパソコンでも、登録すれば今すぐ使えます」
課長は信じられないという顔で僕を見つめた。そして、ポケットから例のメモ帳を取り出した。
課長はメモ魔なのだ。
何でもメモする。
「ちょ、ちょっと待て。じゃあ、予算申請しなくていいのか?」
「はい。完全に無料です」
「俺、経理部に100万円くらいって言っちゃったんだけど...」
朝礼がどっと笑いに包まれた。
「課長、AIってそんなに高くないんですよ」
僕は優しくフォローした。課長の時代、コンピューターは企業が何千万もかけて導入するものだった。
その感覚で考えれば、AIなんて途方もなく高額なはずだ。
「そうか...時代は変わったんだな」
課長はしみじみと呟いた。
朝礼後、課長が僕のデスクにやってきた。
「山田君、ちょっといいかな」
「はい、何でしょう」
「その、チャット何ちゃら…というやつなんだが...どうやって使うんだ?」
課長は珍しく、少し恥ずかしそうだった。55歳の課長にとって、「教えてくれ」と言うのは勇気のいることなのだろう。
「わかりました。じゃあ一緒にやってみましょうか」
僕は課長のパソコンの前に椅子を引き寄せた。
「まず、ChatGPTのサイトに行きます」
「サイト...ホームページか?」
「そうです。ここにアクセスして、アカウントを作ります」
「アカウント? ああ、会員登録みたいなものか」
「その通りです。さすが課長、飲み込みが早いですね」
お世辞ではない。
課長は理解が早い方だ。
ただ、用語が追いついていないだけなのだ。
「それで、メールアドレスを入力して...」
「待て待て」
課長が僕の手を制止した。
「これは、GTPでいいんだよな?」
「いえ、GPTです。ジー・ピー・ティー」
「ん? 俺もそう言ったぞ。ジー・ティー・ピー」
「課長、順番が違います。ジー・ピー・ティーです」
「そうか? まあいい。ジー・ティー・ピーで頼む」
僕は内心で笑いをこらえながら、画面を操作した。
こういうところが課長らしい。
一度覚えた順番を変えられないのだ。
「で、このGTPは何ができるんだ?」
「GPTです。えーと、文章を書いてもらったり、質問に答えてもらったり、アイデアを出してもらったりできます」
「へえ。便利だな。で、いくらするんだ?」
「課長、無料って言ったじゃないですか」
「本当に? 信じられんな。こんな便利なものが無料って」
課長は何度も首を傾げた。
「課長の時代にAIなんてなかったですもんね」
僕がそう言うと、課長は少し寂しそうに笑った。
「そうだな。俺が若い頃は、パソコンすらなかった。全部手書きで、電卓叩いて。それが当たり前だと思ってたんだけどな」
「でも、課長はちゃんと学ぼうとしてますよ。それってすごいことだと思います」
「本当か? 俺、ついていけてるかな」
「大丈夫です。一緒に頑張りましょう」
その言葉に、課長は嬉しそうに頷いた。
その後、課長は真剣にChatGPTのサイトを見つめていた。

「なあ、山田君」
「はい」
「これ、社長にも教えた方がいいかな」
「いいと思いますよ。でも、課長が先に使い方を覚えてからの方が」
「そうだな。俺が先生になるわけだ」
課長は誇らしげに胸を張った。
「あの、課長」
「なんだ?」
「一つだけ。GPTです。ティーピーじゃなくて、ピーティーです」
「ああ、そうだったな。GTP...いや、GPT」
「完璧です!」
僕が褒めると、課長は子供のように嬉しそうな顔をした。
その日の午後、経理部から電話があった。
「山田さん、田中課長から100万円の予算申請が来てるんですけど、これ何ですか?」
「ああ、それキャンセルしてください。無料で済みました」
「無料? 何を買おうとしてたんですか?」
「AIです」
「...課長らしいですね」
電話の向こうで、経理の人が笑っている声が聞こえた。
翌日、課長は「GTPじゃなくてGPTだからな!」と朝礼で宣言した。でも、午後にはまた「GTP」に戻っていた。
僕は、もう訂正するのをやめることにした。
【後日談】
その週の金曜日、課長がコーヒーを二つ持って僕のデスクにやってきた。
「山田君、ちょっと休憩しようか」
「ありがとうございます」
「なあ、君は私みたいな上司で大変だろ」
突然の言葉に、僕は驚いた。
「そんなことないですよ」
「いや、わかってるんだ。俺はデジタルに弱い。若い連中からしたら、足手まといだろ」
課長は自嘲気味に笑った。
「課長、そんなことないです。課長は誰よりも真面目に学ぼうとしてます」
「そうかな」
「はい。僕、課長のそういうところ、尊敬してます」
課長は照れくさそうに頭をかいた。
「君みたいな部下がいてくれて、俺は幸せだよ」
「僕も、課長みたいな上司で良かったです」
二人でコーヒーを飲みながら、夕日が差し込む窓を眺めた。
課長は変わろうとしている。年齢なんて関係ない。その姿勢が、僕に大切なことを教えてくれる気がした。
【次回予告】
「よし、じゃあパスワードを決めるぞ!」
「課長、123456はやめてくださいね」
「なんでだ! 覚えやすいだろ!」
第2話「パスワード10回間違えてアカウントロック事件」、お楽しみに。
執筆者より
田中課長と山田社員の成長物語に興味がある方は、ぜひ、第2話も読んでくれたらうれしいです。
デジタルの世界は日々進化しています。でも、大切なのは技術じゃない。学ぼうとする心と、支え合う気持ちなんだと思います。
次回も、課長と山田社員の奮闘記をお楽しみに。
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