誰かの願いが届くとき 50 双子
同じ日の午後、手土産の手作りのケータリングを持って、千里と帆乃は沙織と松田の住むマンションに来ていた。
家で仕事をしていた沙織が出迎えてリビングに入ると、地方から沙織の母と松田の義母が双子の世話に来ていた。
「こちらが、私の母と叔母です。
こちらが、詩音奏舎の宮沢社長の奥様で、千里さんと、映画の脚本家の帆乃さんです」
紹介が終わると、沙織の母と千里が賑やかに話を始めた。
「奥様、いつも娘と婿がお世話になりまして。
冬くんの仕事が本格的になるって聞いて、忙しかろうと、孫達の顔を見がてら遊びに来てたんです。
ああ、孫らも社長さんのお宅でお世話になって、本当にありがとうございます。
これ、家で採れたての野菜です。
持って帰って食べて下さいね。
あと、これもどうぞ~」
沙織の母は田舎から大量の野菜と菓子折りをお土産に持ってきていた。
「まぁ~嬉しい!
遠慮なく頂きます。
こちらこそ、沙織さんと松田さんにはお世話になっちゃって。
可愛いお孫さん達ですよねー
おめでとうございます」
延々と続く世間話を離れて、帆乃は双子の紫(ゆかり)ちゃんと息吹(いぶき)くんをそっと見に行った。
6ヶ月になる双子は、お互い顔を見合わせて何やら相談をしているようだった。
小さな赤ちゃん達は特にぷくぷくして全てがとても可愛らしい。
澄んだ瞳をじっと見つめていると、松田の義母が話しかけてきた。
「可愛かろう、帆乃さん。
抱いてみたい?
ホレ、遠慮せんと、怖がらんでの」
松田とよく似た話し方をする義母は、いかにも人好きのする優しい笑顔で接してくれる。
帆乃は紫ちゃんを落としそうで怖くて出来ないと思った。
「やめておきます。
私、赤ちゃんなんて身近にいなくて、どうすればいいか、、」
それを聞いた義母は笑って
「そんなら、一度抱いてみ?
大丈夫じゃて。
嫌じゃったら大泣きするけの。
ほれ!」
帆乃に向かって差し出された紫ちゃんは、キョトンとして慌てる帆乃の泳ぐ目をみつめた。
恐る恐る腕に抱えて胸に寄せると、紫ちゃんは帆乃の不安と心配を感じたのか、難しい顔をして身をよじりだした。
「ごめんね!上手く抱けなくて、、
あのね、今日は紫ちゃんと息吹くんにお願いがあって来たんだ。
わたしの映画に出て欲しいなぁって。
どうかな?
パパと一緒に出てくれるかな?」
帆乃は紫ちゃんを優しく揺らしながら、お話をした。
(赤ちゃんって、こんなにあったかくて柔らかくて懐かしい匂いがするんだ、、
とっても可愛いけど、意外と重い。
それに、どうしたら喜んでくれるのか分からない、、)
必死な帆乃がそんな事を思っていると、話がわかったのかどうかは分からないけど、紫ちゃんはじっと聞いていた。
松田の母がそれを聞いて、
「紫ちゃんや、良かったの!
映画ん出て可愛いとこ、ばばちゃんに見せてーや。
帆乃ちゃん、抱っこするの上手いが!
いつでも赤ん坊産めるなあ!」
そんな予定は全くないと帆乃は思ったが、何となくそんな日がいつか来るのかな、、とボンヤリ考えた。
それから、一同は双子を眺めなたりあやしたりしながら、ワイワイ賑やかにお喋りに花を咲かせた。
夕方、千里の家に戻った帆乃は、赤ちゃんを抱いたせいか、腕が筋肉痛と酷い肩こりになってしまった。
「千里さん、私には赤ちゃん無理、、
左腕が痺れてる、、
とても面倒みられないよ、、」
元気な千里は呆れたように笑って
「帆乃、体力つけないと!
家でパソコンばっかり相手にしてんでしょ、そりゃそうなるわ。
赤ちゃんなら、私も育ててみたいから、一緒に面倒みるよ!
ホラ、こっち来て一緒にストレッチしよ!
何なら、冬とトレーニングすれば?
きっと喜んで面倒みるよ、あの子」
嫌そうな顔をして帆乃も身体を伸ばしてみる。
「絶対ヤダ、冬とはしない、、
冬は何でも出来るから、惨めになる、、」
そんなことは無いだろうにと思う千里だが、帆乃が舞島くんから冬と呼んでいるのに気がついてほっこりした。
ひとしきり二人で身体を伸ばしたあと、帆乃はやる事を思い出した。
「これから、who youのブルーレイ観てもいい?
冬のこと知らなきゃ」
いつの間にか遠慮がなくなった帆乃を甘やかすように言った。
「いいよ。
スクリーン、用意してあげる。
なんかお茶飲む?
きっと冬に惚れるよー!」
むーんとした顔で反抗する帆乃を見て、千里はまた楽しげに笑った。
