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親を幸せにするために、生きてきた。

小さい頃のわたしは、親の顔色を見るのが得意だった。

母がため息をつくと、
胸の奥がざわつく。

父が黙り込むと、
何か悪いことをしたんじゃないかって考える。

だから自然と覚えた。
笑ってもらえるように。
困らせないように。
期待に応えられるように。

「いい子」でいようって。
それが当たり前になっていた。

大人になった今でも、その癖は残っている。
誰かに頼まれると断れない。
空気を読んでしまう。

嫌われるくらいなら、自分が我慢した方がいいと思ってしまう。

「これが、わたしの性格なんだ。」
ずっとそう思っていた。

でも、ある日ふと思った。
本当にそうなのかなって。


実家へ帰った日のこと。

母が何気なく言った。
「奈央は昔から頑張り屋さんだったね。」

優しい言葉だった。
でも、その瞬間。
心の中で、幼いわたしが泣き出した。

「ああ、まだ頑張らなきゃって思ってる。」
そんな声が聞こえた気がした。

不思議だった。
もう大人なのに。
仕事では冷静に判断できる。

後輩の相談にも乗れる。
それなのに、親の前では昔の自分に戻ってしまう。

どうしてなんだろう。
その夜、鏡を見ていた。

そこには今のわたしが映っている。
でも、その奥に、小さな女の子が見えた気がした。

ランドセルを背負って、一生懸命に笑っている。

「もっと頑張れば、お母さんは喜んでくれる。」
「もっと頑張れば、お父さんは安心してくれる。」

その子は、誰にも頼まれていない約束を、自分ひとりで抱えていた。

そのとき、ようやく気づいた。
わたしは親を愛していた。

でも同時に、
親を幸せにすることが、自分の役目だと思い込んでいた。

だから疲れていたんだ。
だから自分を後回しにしていたんだ。

親は親の人生を生きている。
わたしは、わたしの人生を生きていい。

この言葉は、頭では何度も聞いてきた。
でも、心はなかなか信じられなかった。

だから今日、小さなわたしに話しかけてみた。

「ありがとう。」
「今まで、本当に頑張ったね。」
「もう、親を幸せにするためだけに生きなくていいよ。」

「あなたは、あなたの幸せを選んでいい。」

そう伝えた瞬間、
胸の奥で、何かがふっと軽くなった。

親を愛することと、
自分の人生を生きることは、
どちらかを選ぶことじゃなかった。

自分を大切にできるようになったとき、
親への感謝も、もっと自然にあふれてくる。

そんな気がしている。

だから今は、少しずつ練習中。

誰かの期待ではなく、
自分の心に「今日もよくやったね」と言える生き方を。

焦らなくていい。
ゆっくりでいい。

今日という一日が、
自分の人生を取り戻す、小さな一歩になりますように。


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