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ピカソを「見る」のではなく、「見せ方」を体験する展覧会だった。@国立新美術館

「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」鑑賞レポ


「ピカソ展」と聞くと、どうしても《ゲルニカ》や《泣く女》のような代表作を思い浮かべてしまう。

私自身もピカソの作品はこれまで何度か見てきたが、今回展示されていた作品の多くは初めて目にするものばかりだった。

だからこそ、この展覧会は「有名作品を見に行く展示」ではなく、ピカソという作家を改めて知る展示だったように思う。

そして何より印象に残ったのは、ポール・スミスによる空間キュレーションだった。

ポール・スミスというフィルターを通して見るピカソ


今回の展示は、パリ国立ピカソ美術館のコレクション約80点を中心に、英国のファッションデザイナー、ポール・スミスが空間演出を担当している。

壁紙、色彩、パターン、展示レイアウト。

作品そのものを変えるのではなく、「どう見せるか」をデザインすることで、同じピカソでもまったく違う印象になる。

会場を歩いていて何度も思った。

美術館なのに、ファッションブランドの世界観の中を歩いているようだ。

作品だけではなく、空間そのものが展示の一部になっている。

その心地よさが、この展覧会最大の魅力だった。  

「壁の色」が作品を変える


今回、一番驚いたのは壁面デザインだった。

黄色いストライプの壁。

深いグリーンの壁。

クラシカルな花柄の壁紙。

無機質な白い空間。

普通の美術館なら白壁が当たり前だが、この展示では作品ごとに背景が変わる。

例えば、柔らかな色彩の女性像は黄色いストライプによって軽やかな印象になり、グリーンの壁に掛けられた作品は植物に囲まれた物語のように見える。

抽象作品も、壁紙との組み合わせで「部屋に飾られたアート」として自然に感じられた。

作品単体ではなく、

作品・空間・色彩を一つのデザインとして見せる。

これはファッションデザイナーならではの視点なのだろう。

初期から晩年まで、一人の作家の変化を追える


展示はおおまかに時系列で構成されている。

若い頃の写実的な肖像画。

キュビスムの実験。

陶芸。

版画。

晩年の自由奔放な筆致。

一般的には「キュビスムの人」という印象が強いピカソだが、実際には生涯を通して驚くほど表現が変わり続けている。

だから今回の展示では、

「これ、本当に同じ画家?」

と思う場面が何度もあった。

変化することを恐れない。

それこそがピカソという作家なのかもしれない。

印象に残った作品たち


《読書する女性》


今回もっとも惹かれた作品。

丸みを帯びた顔。

大胆に省略された身体。

柔らかな紫色。

キュビスム以降の造形なのに、不思議と温かさがある。

黄色い壁との組み合わせも絶妙で、ポール・スミスらしい遊び心を感じた。

初期の男性肖像


青みを帯びた静かな色彩。

若き日のピカソらしい繊細さがあり、後年の大胆な作品との対比が面白い。

「こんな絵も描いていたのか」と思わせてくれる一枚だった。

子どもを描いた作品


緑色の壁一面に植物のようなラインが描かれ、その中央に飾られていた作品。

空間全体が一つのインスタレーションのようで、絵だけを見るよりもずっと印象深かった。

陶芸作品


壁いっぱいに並ぶ白い皿。

その中にだけピカソの陶器が配置されている。

余白を活かした展示で、一点一点の存在感が際立っていた。

陶芸家としてのピカソはあまり知られていないが、自由な発想は絵画以上かもしれない。

ポール・スミスらしさを感じた展示

特に面白かったのは、自転車のサドルとハンドルを並べた展示。

ピカソの代表的な立体作品《雄牛の頭》へとつながる「見立て」の発想を、そのまま体験できるようになっていた。

ただ作品を見るだけではなく、

「なぜそう見えるのか」

まで考えさせる演出になっている。

これはまさにポール・スミスが得意とするユーモアだった。  

作者について


パブロ・ピカソ(1881〜1973)


20世紀を代表する芸術家。

スペイン・マラガ生まれ。

「青の時代」「バラ色の時代」を経て、ジョルジュ・ブラックとともにキュビスムを生み出し、西洋美術の価値観を大きく変えた。

絵画だけでなく、

彫刻
版画
舞台美術


など幅広い分野で活動。

約7万点とも言われる膨大な作品を残した。

今回の展示でも、その多才さがよく分かる構成になっている。  

ポール・スミス(1946〜)


英国を代表するファッションデザイナー。

クラシックなテーラリングに鮮やかな色彩や遊び心を加えたデザインで世界的人気を誇る。

今回の展示では作品を増やしたわけでも、説明を多くしたわけでもない。

代わりに、

色・壁紙・配置・空間

という「見せ方」をデザインすることで、ピカソの新しい魅力を引き出していた。

美術史の専門家ではなくデザイナーだからこそ実現できた展示だったように感じる。

最後に


この展示を見終えて思ったのは、

「作品を見る」というより、「作品との出会い方」を体験した展覧会だったということ。

ピカソの作品はもちろん素晴らしい。

しかし今回は、その作品をどう見せるかという視点まで含めて楽しめた。

美術館では作品そのものに目が向きがちだが、壁の色や照明、余白、展示方法ひとつで作品の印象はここまで変わる。

ポール・スミスは、そのことを自然に体験させてくれた。

ピカソを知っている人ほど新鮮に感じ、逆に「難しそう」と思っている人にも入りやすい。

そんな間口の広い、とても心地よい展覧会だった。

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