PTL番外編その2 トルーマン・カポーティ読書ガイド
カポーティは作品数が少ない。のであるが、人気作家ゆえ、習作未完成作までことごとく出版されてしまっている。そして、大体が翻訳もされてしまっているのである。善き哉。
偏愛の作家に限り読書ガイドを付ける、と言ってしまった手前、付けざるを得ない。いや、望むところなのだが、作品論の締切を勝手に命日に決めちゃったので、こっちもケツカッチンで、大変ですと言いたいだけ。
◎小説
◯遠い声 遠い部屋(長編) Other Voices, Other Rooms(1948)
河野一郎訳(1971.7)新潮文庫(単行本刊行は1955年)
◇遠い声、遠い部屋
村上春樹訳(2023.7)新潮社
※第一長編。初単行本。
◯夜の樹(短編集) A Tree of Night and Other Stories(1949)
川本三郎訳(1994.2)新潮文庫
・ミリアム Miriam
・夜の樹 A Tree of Night
・夢を売る女 Master Misery
・最後の扉を閉めて Shut a Final Door
・無頭の鷹 The Headless Hawk
・誕生日の子どもたち Children on Their Birthdays
・銀の壜 Jug of Silver
・ぼくにだって言いぶんがある My Side of the Matter
・感謝祭のお客 The Thanksgiving Visitor
※旧訳は、龍口直太郎の訳が新潮社から単行本として1970年に刊行されている。
◯草の竪琴(長編) The Glass Harp(1951)
大澤薫訳(1993.2)新潮文庫(単行本刊行は1971年)
村上春樹訳(2025.6)新潮社(「最後のドアを閉めろ」「ミリアム」「夜の樹」を併録)
※カポーティ自身の脚本でブロードウェイで舞台化されている。
◯ティファニーで朝食を(中編+短編) Breakfast at Tiffany's(1958)
龍口直太郎訳(1968.7)新潮文庫(単行本刊行は1960年)
村上春樹訳(2008.12)新潮文庫(単行本刊行は2008年2月)
・ティファニーで朝食を Breakfast at Tiffany's
・花盛りの家 House of Flowers
・ダイアモンドのギター A Diamond Guitar
・クリスマスの思い出 A Christmas Memory
※「花盛りの家」はカポーティ本人がミュージカル化している。
◯冷血(長編) In Cold Blood(1966)
龍口直太郎訳(1978.9)新潮文庫(単行本刊行は1967年)
佐々田雅子訳(2006.7)新潮文庫(単行本刊行は2005年)
※「ノンフィクション・ノベル」の大作。
◯カメレオンのための音楽(短編集) Music for Chameleons(1980)
野坂昭如訳(2002.12)ハヤカワepi文庫(単行本刊行は1983年)
・カメレオンのための音楽 Music for Chameleons
・ジョーンズ氏 Mr. Jones
・窓辺のランプ A Lamp in a Window
・モハーベ砂漠 Mojave
・もてなし Hospitality
・くらくらして Dazzle
・手彫りの柩 Handcarved Coffins
・一日の仕事 A Day's Work
・見知らぬ人へ、こんにちは Hello, Stranger
・秘密の花園 Hidden Garden
・命の綱渡り Derring-Do
・そしてすべてが廻りきたった Then It All Came Down
・うつくしい子供 A Beautiful Child
・夜の曲り角 Nocturnal Turnings
※『冷血』以後の短編の集成。
◯叶えられた祈り(連作) Answered Prayers(1986)
川本三郎訳(2006.8)新潮文庫(単行本刊行は1999年)
・まだ汚れていない怪獣 Unspoiled Monsters
・ケイト・マクロード Kate MaCloud
・ラ・コート・バスク La Cote Basque
※未完成連作長編。
◯真夏の航海(長編) A Summer Crossing(2005)
安西水丸訳(2015.3)講談社文庫(単行本刊行は2006年)
◇サマー・クロッシング
大園弘訳(2023.2)開文社出版
※1940年代に執筆された未完成長編。
◯ここから世界が始まる(短編集) The Early Stories of Truman Capote(2015)
小川高義訳(2022.10)新潮文庫(単行本刊行は2019年)
・分かれる道 Parting of the Way
・水車場の店 Mill Store
・ヒルダ Hilda
・ミス・ベル・ランキン Miss Belle Rankin
・もし忘れたら If I Forget You
・火中の蛾 The Moth in the Flame
・沼地の恐怖 Swamp Terror
・知っていて知らない人 The Familiar Stranger
・ルイーズ Louise
・これはジェイミーに This Is for Jamie
・ルーシー Lucy
・西行車線 Traffic West
・似た者同士 Kindred Spirits
・ここから世界が始まる Where the World Begins
※初期習作で単行本未収録作品の集成。
◯カポーティ短篇集
河野一郎編訳(1997.2)ちくま文庫(日本オリジナル)
・楽園への小道 Among the Paths to Eden
・ヨーロッパへ(『ローカル・カラー』)
・イスキア(『ローカル・カラー』)
・スペイン縦断の旅(『ローカル・カラー』)
・フォンターナ・ヴェッキア(『犬は吠える』)
・ローラ(『犬は吠える』)
・ジョーンズ氏(『カメレオンのための音楽』)
・もてなし(『カメレオンのための音楽』)
・窓辺の灯(『カメレオンのための音楽』)
・くららキララ(『カメレオンのための音楽』)
・銀の酒瓶(『夜の樹』)
・無頭の鷹(『夜の樹』)
※「楽園への小道」は、邦訳がこの文庫にのみ収録。
◯誕生日の子どもたち
村上春樹訳(2009.6)文春文庫(日本オリジナル。単行本刊行は2002年)
・誕生日の子どもたち(『夜の樹』)
・感謝祭の客(『夜の樹』)
・クリスマスの思い出(『ティファニーで朝食を』)
・あるクリスマス One Christmas
・無頭の鷹(『夜の樹』)
・おじいさんの思い出 I Remember Grandpa
※村上春樹訳の『あるクリスマス』『おじいさんの思い出』『クリスマスの思い出』は、文藝春秋より山本蓉子・装画のグリーティング用単行本が先に出ている。「おじいさんの思い出」「あるクリスマス」は現行の他の翻訳書には収録されていない。
◯The Complete Stories of Truman Capote(2004)
・The Walls Are Cold(1943)
・A Mink of One's Own(1944)
・The Shape of Things(1944)
・Preacher's Legend(1945)
・The Bargain(2004)
※この5編が今のところ、カポーティの小説作品の本邦未訳作品である。
◎エッセイ・評論
◯ローカル・カラー(紀行) Local Color(1950)
・ニューオーリンズ
・ニューヨーク
・ブルックリン
・ハリウッド
・ハイチ
・ヨーロッパへ
・イスキア
・タンジール
・スペイン縦断の車中
◯詩神の声聞こゆ(長編紀行) The Muses Are Heard(1956)
・砲声絶えるとき
・詩神の声聞こゆ
◯観察記録(人物評) Observations(1959)
・アイザック・ディネーセン
・メイ・ウェスト
・ルイ・アームストロング
・ジャン・コクトーとアンドレ・ジッド
・ハンフリー・ボガート
・エズラ・パウンド
・マリリン・モンロー
◯犬は吠える(エッセイ集成) The Dogs Bark(1973)
小田島雄志訳(1977.10)早川書房(※1988年に二分冊『ローカル・カラー/観察記録』『詩神の声聞こゆ』として再刊、2006年ハヤカワepi文庫版も分冊に準ずる)
・雲からの声
・白バラ
・『ローカル・カラー』全編
・フォンターナ・ヴェッキア
・ローラ
・高台の家
・ギリシア断章
・『観察記録』全編
・ジェイン・ボウルズ
・セシル・ビートン
・白昼の亡霊たち
・自画像
・『詩神の声聞こゆ』全編
・お山の大将
・文体ーーおよび日本人
◎評伝・作家論
◯カポーティ研究
稲澤秀夫…南雲堂(1970.12、増補版1985.3)
※日本では生前に唯一刊行された作家研究書。初刊が1970年なので、中期『冷血』までの作品のみ対象である。
◯カポーティとの対話(1984)ローレンス・グローベル
川本三郎訳…文藝春秋(1988.4)
※数年にわたるロング・インタビュー。カポーティの最晩年の貴重なドキュメント。酔いどれ放言し顰蹙を買い、それでも毒舌を吐き続けるカポーティ。その痛々しさが最もよく表れている。
◯失われし友情 カポーティ、ウィリアムズ、そして私(1987)ドナルド・ウィンダム
川本三郎訳…早川書房(1994.10)
※作家仲間ウィンダムによる亡き友人二人への回想録。前半「ある友情への脚注」がカポーティ編。
◯カポーティ(1988)ジェラルド・クラーク
中野圭二訳…文藝春秋(1999.4)
※カポーティ生前より、唯一お墨付きを得ていた評伝。大作だが、リーダビリティに優れた名著。
◯子供時代への懸け橋ーートルーマン・カポーティのアメリカ南部時代ーー(1989)マリアン・M・モウツ
大園弘訳…英宝社(2006.5)
※トルーマンの母方の従兄弟ジェニングス・フォーク・カーターからの聞き書きによる、カポーティとフォーク一族のエピソード集。
◯トルーマン・カポーティ(1997)ジョージ・プリンプトン
野中邦子訳…新潮社(1999.12)のち新潮文庫(2006.7、上下巻)
※カポーティに関する、ありとあらゆる知人友人からの聞き書きによる、「オーラル・バイオグラフィー」。
◯カポーティ 世界の作家・人と人物
越智博美…勉誠出版(2005.7)
※コンパクトにまとめられた評伝と、作品論。スルーされがちな『冷血』『叶えられた祈り』をちゃんと取り上げていて、好感が持てる。
◯トルーマン・カポーティの作品論集ーー「グロテスクなもの」との出遭いーー
内田豊…開拓社(2006.7)
※原文に基づく作品論。全作品を取り上げた包括的な作家論。後期の『冷血』『カメレオンのための音楽』をちゃんと論じている。左開きの造本に面食らうこと勿れ。
◯カポーティ小説の詩的特質 音と文彩
大園弘…春風社(201610)
※カポーティの原文に準拠した詩的レトリックの研究書。著者は後に『サマー・クロッシング』の再邦訳を手がける。こちらも左開きで原文引用過多。研究家向け。
◯カポーティを捕まえろ 人間探求の軌跡
片桐多恵子…文藝春秋(2023.12)
※初期短編と『遠い声遠い部屋』『草の竪琴』『ティファニーで朝食を』を中心にした作家論。色彩イメージから作品にアプローチする。
※作品論はどうしても初期作品に偏りがち。人気も後期作品よりは初期の方が、ということだろうか。作家としての才能は『冷血』のバカ売れで尽きてしまったと言われているが…
むしろ、『冷血』の殺人犯の一人に、生い立ちなど己との相似性を見出して入れ込み過ぎた上に、その処刑にも立ち会ったことで、その後の人生で華麗なレトリックを生み出すことが出来なくなったのではないか、と考えている。
映画『カポーティ 真実のテープ』については、私がコロナ下で要介護の両親を抱えていた時期で、上映もDVDパッケージも見逃してしまっていた。残念だ。アマゾン・プライムビデオで視聴できるが、正直、ストリーミングは気が進まない。動くカポーティを見られる機会は貴重なのだが…
エッセイ紀行の原題は、原著を未入手なので、勘弁して下さい。小説作品はいちおう、ペンギン他のペイパーバックが手許にあるので、適宜参考にしています。
カポーティ関連書の翻訳がたったの5冊ということに、とても驚いている。本国では今でもゴシップから書簡集に至るまで、ありとあらゆる類書が毎年出版されているからだ。フィリップ・シーモア・ホフマンがねちっこくカポーティを演じた映画も記憶に新しい。
今でもカポーティは、押しも押されぬアメリカの大スターなのだ。日本でも地味に村上春樹による新訳が推し進められているが、短編集『夜の樹』を文春と新潮でバラ売りするのはやめて、ちゃんと一冊の本で出して欲しい。
小説作品はほぼ全作品が日本でも簡単に読めるが(一部品切れているけど)、先程も書いた、未翻訳未刊行のエッセイ・評論・書簡集がまだまだ残されている。私の目の黒いうちに出してもらえるとありがたいのだけれど…
映画化に関しては、某ドリーな某作は、原作にない歌をでっち上げたものが、とても美しくて繊細で、むーんりばーでわいだざんなまいるだなー、としか申せませんw
カポーティの名を高からしめたのは感謝ですが、原作のエッセンスのかけらもないです。
私はタイニイ・テラーじゃないので、これ以上の悪口は慎みます。お口巾着。
