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EP20 ✟ NO Heaven NO Sanctuary Water born✟【生る(なる)】最終戦争② last Water WAR Gate-E 前線・ラセツ戦 改稿


ついに“四観”が前線に姿を現す。
火輪・識然・空華・黙照――それぞれの「正しさ」が、ツユリたちの「イヤだ」と真正面からぶつかり合う。

Gate-E 外周・上空戦線



 空が、燃えていた。

 Gate-E の上空。
 循環湖の蒸気が白い柱になって立ち上がり、その上を、金属と光が交錯して飛ぶ。

《IMON:敵ユニット──EX-02/03/04/06、計4。
 指揮機 EX-05《ラセツ》が Gate-E 支配軸に展開中》

 白いリングの真上に、赤黒い機体がいた。

 ラセツ。
 火輪が搭乗する、四観専用の「火」の構文機。

 肩の装甲が開き、
 細い光が何本も空に走る。
 槍でも、弾丸でもない。

 軌道から落ちてくる、光の雨。

《IMON:SUNFALL 先行照射をラセツが“誘導”──
 Gate-E 外殻を焼きながら、SEED-04 側へ角度調整中》

「クソッ……デカい照準器を、前線で振り回してやがる」

 オトワ機が、光の雨を縫って加速する。

 背後から、ツユリの機体が追いすがった。

「VENT、展開する!」

 ツユリ機の周囲に、水泡の幕が咲いた。
 瞬間、空気の流れが変わる。
 光の雨が、泡の層に触れた途端、進路をわずかにねじ曲げられる。

 何発かは、泡を突き抜けてくる。
 そのたびに、外装をかすめて装甲が焼けた。

「全部は受けきれない。
 死にたくないなら、ちゃんと避けて!」

「了解」

 シラハの声が、短く重なる。

「FLIP──」

 センサーフレームが、Gate-E とラセツの間に見えない“面”を描く。
 ラセツから吐き出されたビームの一部が、その面で折れ、
 EX-Unit の側面をかすめた。

《敵 EX-03──装甲損傷率 27%》

「一発入った」

「止まる気配はないけどね」

 カナネが、後方の席から息を飲む。

「ラセツの構文、Hydra 側の!OVRと直結してる。
 Gate-E を通して、SUNFALL の照準そのものを“手で動かしてる”感じ」

「だったら、その腕を折るだけだ」

 オトワは、目の前の赤黒い影を睨んだ。



ラセツ vs オトワたち




 ラセツが、こちらを向いた。

 視界いっぱいに、赤。
 装甲の継ぎ目から、白い熱が洩れている。



 火輪の声が、回線に乗る。
 落ち着いていて、どこか楽しそうですらある。

『蛇口をこじ開けて、Gate の喉元に殴り込み。
 やるじゃないか』

 オトワは、吐き捨てるように返した。

「あんたらが水を“利権”に変えた結果が、これだよ」

 循環湖の光が、視界の端で揺れる。
 SUNFALL の先行照射で、水面の一部が真っ白に沸騰していた。

『水は、ただの資源じゃない』

 火輪が答える。

『資源である前に、重力だ。
 水がある場所に、人は集まり、都市ができる。
 集まった人間は、自分たちの重さで星を軋ませる』

 ラセツの腕が動いた。
 長い刃が引き抜かれる。
 刀身に沿って、SUNFALL の光が纏わりついた。

『その重さに飲み込まれた時代を、いくつも見てきた。水を握れなかった文明は、全部沈んだ』

「だから握り締めて、
 気に入らない揺れ方の星は、レーザーで焼くのか?」

 オトワは、大気を切り裂きながら突っ込む。
 機体の槍に、水の粒子が凝縮していく。

「そんなことのために、お前たちはここまでのことを?」

 槍と刃がぶつかった。
 空間そのものが、ひび割れたように震える。

《構文衝突:SEED-04 ローカル/“ROUTE” vs HYDRA 構文/”!OVR”》
《局所空間──位相ズレ 0.09sec》

『これはな——』

 火輪の声は揺れない。

『贖罪だよ』

「は?」

『人間は、水を好き勝手に使ってきた。
 汚し、奪い、溢れさせ、干上がらせてきた。
 そのツケを、どこかで払わなければならない』

 ラセツの刀が、槍を押し返す。
 火花の代わりに、白い蒸気がはじけ飛んだ。

『SEED-04 は、その“支払い方”を世界に見せる舞台だ。星一つを火に変えることで、時代を守る。それが、この世界の代表たるエクレシアの……』

「勝手に代表者を名乗るな!」

 ツユリの機体が、斜め下から割り込んだ。
 膝のブレードで、ラセツの脚部装甲をかすめる。

「うちらは、水の星の子どもで、
 ここで生きてる。
 あんた達のエゴのために、自分の星を焼かれる筋合いなんて、どこにもない!」

 ツユリが拳を握りしめた瞬間、
 外周の泡幕が一瞬だけ厚みを増した。

《VENT 出力:120%(一時的オーバーライド)》
《Gate-E 外周──SUNFALL 光束の一部が屈折/分散》

 白い柱の角度が、わずかにズレる。
 循環湖の外縁部に、焼け残る水面が生まれた。

『……感情ログ、確認』

 エクレシア本部。
 構文ホールのモニタに、四機の子どもたちの脳波パターンが重なって流れる。

 識然が、それを見て目を細める。

「これだけの状況で、
 まだ怒る力が残っているのか」

「怒りはノイズだ。」

 黙照が、呟くように言った。

「ノイズを削り続けた結果が、
 今、世界を焼く SUNFALL だ」

「焼かなければ、多くが沈む」

 遠隔回線の向こうから、火輪の声。

「重力に縛られた愚民を、
 どこかで裁かなければならない。
 誰かが、“悪役”を引き受けないと」

「なら、せめて」

 オトワが、ラセツの刃を押し返しながら叫ぶ。

「堂々と顔を出して悪役をやれば良かったんだよ!
 ご大層な仕組みまで作って、数字と分配で世界を管理した挙句、スクリーンの前で“仕方なかった”とでも言うのか!」



乱戦──EX-Unit 総動員



《IMON:EX-02/04 右舷から接近》

 左右から、灰色の機体群が雪崩れ込んできた。
 四本脚の砲塔型 EX-02。
 長いアームを持った EX-04 が、Gate-E 外殻に直接クローを食い込ませる。

《EX-04:Gate-E 外殻に“釘”を打ち込み、SUNFALL 照準座標を固定中》

「させない!」

 シラハ機が、Gate-E のふちを滑るように走る。
 センサーアレイが、EX-04 の爪先を捕捉した。

「SEAL──
 Gate 側の“固める構文”を一瞬だけ逆転する」

 Gate-E の表面が波打つ。
 EX-04 のクローが、氷を踏み抜くように、ズブリと沈んだ。

《EX-04:固定失敗/姿勢制御崩壊》

 その隙を、港湾側の砲撃が襲う。

《雪浦港湾局:対軌道レールキャノン、装填完了》
《発射》

 地上から、一本の直線が空へ突き上がった。
 EX-Unit 群の一機が、胸部ごと抉り飛ばされる。

「やった……!」

 麻耶が、制御室で拳を握る。

《EX-06 撃破/Gate-E 外周の拘束力 12%低下》

「まだ、全然足りない」

 斎藤が、別のモニタを睨む。

《SUNFALL エネルギー集積率:92%》

「ここから先は一発ごとに、
 “水の星が何%残るか”」



ラセツの本気



 ラセツの装甲が、さらに開いた。

 胸部。
 そこに隠されていた円環ユニットが、
 灼けた太陽のように光り始める。

《HYDRA:PULSE/β──Gate-E 経由で SEED-04 全水系に注入開始》

 0.10Hz の薄い拍が、世界中の水を揺らした。

 循環湖。
 都市の貯水タンク。
 家庭の蛇口。
 地下水脈。
 全部が同じリズムで震え始める。

 ツユリの胸が、痛んだ。

「……やだ。
 身体の中の水まで、勝手に揺らされてる感じ」

「Hydra の“落ち着け”構文が、
 星ごと掛けられてる」

 カナネが、顔をしかめる。

「“あきらめろ”、“従え”、
 “揺れるな”、って」

『その通りだ』

 火輪が言う。

『嘆きも、怒りも、
 揺れの総量で見れば、同じノイズだ。
 ノイズばかりが積もれば、世界は壊れる』

「……だから、最初から揺れない、従順な人間だけを残したいのか?」

 オトワが、息を荒げながら笑う。

「そんなのは、生きてるって言わない」

『そうか?』

 ラセツの刀身が、こちらを指す。

『揺れることを正当化して、不平不満で
 凡庸な悲劇を繰り返してきたのが人間だ。
 お前たちが今ここでやっていることも、
 その一つに過ぎない』

「“凡庸”かどうかは、
 世界の人々が自分たちで決める」

 ツユリが、泡幕を薄くしながら叫んだ。

「うちらの、この揺れを、“あってよかった”って言ってくれる人が、一人でも残るなら──それで十分だよ!」



打ち合いの頂点



 オトワ機が、一気に距離を詰めた。
 槍を捨てる。
 両腕で、ラセツの刃を抱え込むように受け止める。

《装甲損傷率:65% → 81%》

 警告音が、耳の奥で赤く点滅する。

「カナネ、今!!」

「分かってる!」

 カナネ機のコアが光り、
 Gate-E の喉奥へ向けて同期波を放つ。

「ROUTE──
 Hydra の!OVR を、一瞬だけ“空振り”させる。
 うちらの“イヤだ”のログを、優先キューに噛ませる!」

《IMON:Hydra 指令系の一部に SEED-04 ローカルログが割り込み》
《内容:“イヤだ”/“怖い”/“それでも守りたい”》

 ラセツの動きが、わずかに止まった。

『……何だ?』

「こっちの想いを、
 あんたらの計算に混ぜてやっただけだ」

 オトワは、ラセツの胸部ユニットを蹴り上げる。
 0.10Hz の鼓動が、一瞬だけ乱れた。

《HYDRA:PULSE/β──同期率 0.99 → 0.91》

 その隙間に、シラハ機の斬撃が滑り込む。
 センサーアレイのラインが、ラセツの関節を正確になぞった。

「ここだ!」

 膝関節の継ぎ目。
 SEAL を一点に集中させ、
 金属の分子レベルの「結び」を逆に解く。

 ラセツの片膝が、落ちた。

《EX-05《ラセツ》──脚部アクチュエータ出力 47%低下》

 空中で、巨体がわずかにバランスを崩す。



名もなきものが“視る”瞬間



 その瞬間、世界の輪郭が、少しだけ歪んた。

 空と空の間。
 SUNFALL の光束と、Gate-E の白いリングの間。
 そこに、目には映らない“隙間”が生まれる。

 そこから、視線だけが落ちてきた。


 まだ、像になりきってもいない。
 名も、意味も持たない揺れ方。

 名もなきもの。

 それは、誰にも呼ばれないまま、
 ただ、この戦いを“視ていた”。

 蛇口を握ろうとする子どもたち。
 星ごと焼こうとする構造側。
 どちらにも属さない揺れ方で。

 その視界の端に、
 オトワの、ツユリの、カナネの、シラハの、
 「イヤだ」というログが、かすかに残像として焼き付く。

 記録には残らない。
 構文には刻まれない。

 だが、その残像は、
 ずっと後の時代──
 火の星で《クサナギ》が立ち上がるとき、
 どこかで響くことになる。



落下の前



《SUNFALL:本照射モード移行》
《エネルギー集積率:100%》

 構文ホールの警告音が、
 ひときわ鋭く鳴り響いた。

「ここから先は、止まらない」

 識然が、静かに言う。

「SEED-04 は、別の道に傾く。
 それでもなお、“誰が何を守ろうとしたか”だけは、全部記録する」

「その記録を、
 誰が読むんだろうね」

 黙照が、小さく呟いた。

 ラセツの胸部ユニットに、
 SUNFALL の光が接続される。

 空が、白く割れた。

 オトワは、その光を正面から見た。

 恐怖もある。
 絶望もある。
 それでも──

「一問」

《IMON:はい》

「見てて。
 星が焼かれる瞬間に、
 俺たちが何をどう選んだか」

《IMON:了解》

《すべて記録します》

 水の星が、火の星へと変わり始める。

 そのただ中で、
 少年達の機体はまだ、
 Gate-E の喉元にしがみついている。


つづく(次が最終話)

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