なぜアニメや物語は、心を回復させるのか? 精神科医が語る“フィクションの力”
今回は「アニメや物語はなぜ治癒になるのか?」というテーマで、フィクションやファンタジーが心に与える力についてお話ししようと思います。
たとえば、引きこもりや不登校の子どもが「家でアニメばかり見てるんです」と親御さんが悩まれることがあります。
でも僕は「いいんじゃないか」と言うことがあります。
なぜなら、それは本人にとって学びになっている可能性があるからなんです。
◾️ 今できることから始める
精神科の治療では、ゴールから逆算して考えると苦しくなり、うまくいかないことが多いですね。
「正社員になってほしい」というゴールから、「3ヶ月で外出、半年でバイト、1年でフルタイム」といった逆算をしても、たいていうまくいかないことが多いように思います。
大事なのは、今できることを大事にしつつ、少し苦しいこと(成長につながること)をするというバランスなんですね。
苦しすぎず、楽すぎない、この「ラーニングゾーン」に留まることが大切なです。
その結果、偉大な成果を出す人もいれば、引きこもりのまま生活保護になる人もいます。
それでも、その人にとってはそれがベストなラーニングゾーンだったということです。
◾️ 好きなことから始まる学び
何を学ぶかは、本当に何でもいいんです。
やりたいこと、好きなことから始めるのが一番です。
「料理ばかりしていて、勉強してくれない」と親が悩んでも、その料理のスキルが将来、自炊による節約につながり、生活の安定、ひいては心の安定につながることもあります。何が将来活きるかは分かりません。
興味があるときが一番吸収できるので、アニメや漫画、小説、映画に熱中することも、大きな学びになるんですよ。
僕自身も、医者になってからは見なくなりましたが、中学・高校時代はSFや映画など、物語を熱心に吸収していた時期はもちろんあります。
◾️ 物語と治癒のつながり
先日、『チェンソーマン』の話をした動画で、「物語が治癒になる」ということを知らない人が多いと感じました。
物語の深い見方や、それが心に与える影響について、みんな教わったことがないですよね。
僕自身の臨床経験上も、アニメや漫画、映画を見ている中で、患者さんが治癒したり成長したりした実例は多くあり、臨床的にも矛盾しません。
まず「そういう事実がある」というところからスタートしていいと思います。
臨床の場でも、物語の話をすることは、患者さんの内面を語るきっかけになったり、知識やシミュレーションになったりします。
また、物語には治癒の効果もあります。
漫画の中で敵キャラをやっつけるのを見ることによって、カタルシス効果が起き、自分の中のトラウマが癒えたり、過去のいじめ体験を乗り越えられたりすることがあるんです。
◾️ 物語のメカニズム
では、なぜ物語が心に影響を与えるのか。そのメカニズムには主に二つの要素があります。
1. シミュレーション
物語は、言ってしまえばシミュレーションなんです。
「このキャラクターとこのキャラクターを戦わせたらどうなるだろう?」と考えるように、物語を通してIFストーリー(もしもの話)を体験し、その結果をノウハウとして自分の心の中に溜めていくことができます。
群像劇を深く理解することは、シミュレーション能力を高めることにつながります。
2. メタファー(心的現実)
もう一つの要素はメタファーです。
物語のキャラクターは、主人公を補完する形で出現することが多いです。『ドラゴンボール』で言えば、天真爛漫な主人公・悟空に対して、劣等感を抱えるライバル・ベジータがいるように、対となるキャラクターが設定されます。
悟空がベジータを倒す物語は、読者にとって「傲慢さをやっつけるカタルシス」や「傲慢さは良くない」という学びになります。これは、現実の模倣であるシミュレーションに対して、心的現実(心の中の現象)、つまり無意識寄りの世界を表しているんです。
物語はしばしば退行された世界(赤ちゃん返りした世界)を描きます。
モブキャラがあっさり倒されたり、主人公が万能であったりするのは、現実の複雑さから逃れ、少しやっちゃいけないことをやれる内的世界を体験したいという、人間の心理を表しているのかもしれません。
精神分析の診察室も、患者さんが悪口を言ったりわがままを言ったりできる「退行された世界」であり、ここで心の底にある問題を解決することが、現実での解決につながっていくのです。
◾️ 物語の多層的な読み込み
物語を読む上で、作者や物語を作ってくれた仲間たちの存在を意識することも大切です。
「なぜ作者はこんな物語を僕らにくれたんだろう?」という感謝の気持ちを持つことで、物語の解像度を高め、治癒を深めることができます。
アニメセラピーや映画療法の醍醐味は、この三つの要素をグルグルと考えることです。
現実的なシミュレーション
メタファーとしての内的世界
作者(ないし制作チーム)の内的世界
このぐるぐるの解像度を高めれば高めるほど、治癒は進んでいくと言えるでしょう。
◾️ バランスと治療者側の限界
ただし、「誰が一番偉いか」といったオタク論争は必要ありません。
いわゆるチャーハン論争と同じで、自分が納得すればそれでいいんです。
自分がそこから学べれば、それで十分なんです。
ただ、自分に都合よく読みすぎることは、治癒にはつながりません。
ラーニングゾーンに留まっていればいいのですが、誤読が陰謀論化し、他人の意見を受け付けなくなるのは良くありません。
また、治療者側の限界として、物語療法や映画療法を実践するには、治療者側がある程度、その分野が好きで、現在進行形で物語を摂取している必要があります。
音楽セラピーやアートセラピーと同じで、その世界で物事を考えられる人でなければ、細かいニュアンスを掴みきれない、という側面があるんですね。
ということで、今回は「アニメや物語はなぜ治癒になるのか?」というテーマでお話ししました。
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