掌編小説『あづい。』
「あづい。あづい…。あ~、あづい。」
ミーーーン!!
ミンミンミンミンミンミン!!
朝七時、目覚まし時計より先に、ミンミンゼミが活動を開始した。
「始業、早すぎるだろ…。」
私は寝ぼけ眼でカーテンを閉めたが、鳴き声は勢いを増した。
ミーーーン!! ミンミンミンミンミン!!
「そんなに張り切る仕事か?」
私が窓を開けてみると、庭の木の幹に一匹止まっていて、胸を張り、腹を震わせ、全身全霊で鳴いている。
「朝礼ですか?」
セミは答えない。
ミーーーン!!
「あぅ。不意打ちか! 反則だぞ!」
すると、鳴き声が止まった。
しん…。
「お?」勝ったのか。
私はニヤリと笑った。
その瞬間、隣の庭木から、
ミーーーン!!
さらにその隣の家から、
ミーーーン!!
向かいの電柱から、
ミーーーン!!
そのうち、四方八方から、
ミンミンミンミン!!
ミンミンミンミン!!
ミンミンミンミン!!
「団体かよ!」
私は耐え切れず、窓を閉めた。
すると今度は、ベランダの網戸に一匹止まった。
ガリッ。ガリガリガリ。
「お、お前、まさかそこで鳴くんじゃないだろうな!」
ガリガリガリ。
「鳴くなよ! 絶対鳴くなよ!」
ミーーーン!! ミンミンミンミンミンミンミンミンミンミン!!
「長い! 近い!」
私は新聞紙を丸めて追い払った。
最後のミーーーン!でとどめを差される前に飛んでいってくれた。
「ふう…。」
安心したのも束の間だった。
ブーン。
また戻って来た。
「うっ。また来た!」
ブーン。もう一匹。
ブーン。三匹。
ブーン。四匹。
ブーン。五匹。
「増えてる! 仲間呼んだのか! 鳴くなよ! 絶対鳴くなよ! 鳴くんじゃねーぞ!」
だが、願いは届かなかった。
ミーーーン!!
ミンミンミンミンミンミン!!
ミーーーン!! ミーーーン!!
ミンミンミンミンミンミン!!
ミーーーン!! ミーーーン!! ミーーーン!!
ミンミンミンミンミンミン!!
ミーーーン!! ミーーーン!! ミーーーン!! ミーーーン!!
ミンミンミンミンミンミンミンミンミン…。
ミ-ンミーンミーンミーンミーン…。
「近いぃぃ! 長いぃぃ! 多いぃぃ!」
その日、私は見事に目覚めることが出来た。
