#哲学問題私の答え
こちらに参加させて頂きます。
※問題そのものの引用は省略します。
うーむ、これはややこしい。
ややこしいというか、ぱっと見で言うと、Aさんの復讐を手伝ったのに自分の分は断られたBさんの方が気の毒な、いい人そうな感じがする。Bさんに復讐を手伝わせておいて、自分が頼まれた時は断ったAさんの方が狡猾で、冷酷な印象だ。
だが。夕飯の国産若鶏むね肉カツレツ用(カレー味)をフライパンで焼きながら熟考した結果、私は「卑怯、つまり誠実さに欠けるのはBさんの方であり、Aさんの方が倫理的という意味ではマシなのではないか」という結論に達した。
何故そうなったか。
私が考慮したのは、復讐が道徳的にどうかとか、AさんBさんの人柄がどうかとかの話は一旦置いておいての、「取引としての誠実さ」だ。
ちょっと私の意見を書かせて頂きたい。
皆様は、誰かに復讐を依頼されたことはあるだろうか。
私はない。例えば小学校の頃、「○○君に××された~」と嘆くクラスメートの女の子を見て義憤に駆られ、○○君にゲンコツの一つや二つをお見舞いしたことはある気もするが、明示的に仕返しや復讐を依頼されたことは多分ないと思う。
逆も然りだ。同じく小学校の頃に同じような経緯で、誰かが私のためにゲンコツの一つ二つ繰り出してくれたことはあったように記憶しているが、それ以上の年齢になってからの、ハッキリした「復讐」はしたことがないし、頼んだこともない。ちょっとした意趣返しとして嫌味を言う、ぐらいがせいぜいである。
という具合に、「明示的に悪と言えるほどの復讐を依頼する/される」という事態は多分、かなりの激レアのはずだ。少なくとも普通の人にとっては、そうそうしょっちゅうお目にかかるような事態ではない。
ということは、AさんがBさんに復讐を依頼した時に、「近い将来、逆に自分もBさんに復讐を依頼される可能性」は、想定の範囲外だったとしても仕方がない。むしろ考えない方が自然なのではないか、と思う。
ならば、である。
最初にAさんがBさんに復讐の手伝いを依頼した時、Aさんは何を報酬として支払うつもりだったのか。1回目の取引の対価は何だったのだろうか。
問題には金銭などの条件は提示されていないので、Bさんの協力は、その意味では「無償」であったと思われる。
しかし一切の対価なく、例えば無条件の愛などを根拠にして、AさんとBさんが互いの協力を得られる関係性ではなさそうだ。
であれば、これは取引として考えることが出来る。恐らくAさんはこの1回目の取引において、「Bさんへの信頼や好意」を報酬・対価として支払うつもりで話を持ち掛けたのではないか。
これが金銭の貸し借りや、引越しの手伝いを頼む程度の「よくある事」なら、大抵の人が不文律として「困ったときはお互い様」という概念を使用する。
つまり今回は「貸し」としておき、次回似たような事が逆の立場で起こった時に、自分がしたのと同等の事柄を、相手に「返して」もらうのだ。この間金を貸したのだから、自分が困った時にはその人に貸してもらう。前回手伝ったのだから、今回は相手に手伝ってもらう。そういう取引が無言の内になされるので、「返さない」奴は対価の不払い・踏み倒しであり、不義理な奴だと見なされる。
だが、似たような事が起こり得なければ、対価は大抵「信頼や好意を得られること」に留まるだろう。自分が結婚する予定がないのに友人の結婚式のご祝儀を出すとき、車を持っていない上にガソリン代をくれそうにない相手を自分の車に乗せる時、そういう時の対価は大抵「相手の信頼や好意」である。そういう関係性は長期的にはモヤモヤを産むケースも多いと思うが、一旦そこは置いておく。
そういう理屈で言えば、「復讐の協力を依頼する」というのは「困ったときはお互い様」の概念を適用するのが困難なレベルの、特殊な依頼である。
似たような事がまた起こるとは考えにくく、金銭などの提示がない以上、この取引の対価は無言の内に「相手の信頼や好意」に設定されていたはずだ。
つまり1度目の取引、AさんがBさんに復讐を依頼した時、Aさんが支払う予定だった対価は「Bさんへの信頼や好意」だったと考えられる。
だが、Bさんはそれを断った。「信頼や好意」では復讐の協力をするには足りないとAさんに示した。そこで、Aさんは改めて「私を信じているなら協力しろ」という要求をした。
ここで、Bさんが復讐に協力することで得られる対価は、「BさんがAさんを信じていると、Aさんに対して証明できること」に明示的に変わった。
Bさんはこの条件で取引を承諾した。個人的にはBさんの判断はどうかと思うが、とにかく取引は成立してしまった。
そしてBさんは復讐に協力することで、「Aさんを信じていると、Aさんに対して証明」できた。つまり対価を受け取ったのである。
Aさんから見ての1度目の取引は、ここで完結している。そう見ることが出来る。
しばらく経ってBさんは、Aさんに「Dさんへの復讐への協力」を依頼した。
ここで言及されていない時系列が気になる。
Bさんが「Dさんに復讐したい、Aさんに協力して欲しい」と思ったのは、1度目の取引の前だったのか、後だったのか、だ。
もしも前だったなら、Bさんは1度目の取引の対価として「Aさんに、自分の復讐にも協力してもらえるはずだ」と想定していたことになる。しかも、Aさんにそれを明示していない。
1度目の取引において、もしもBさんが「良いですよ。その代わり、私がDさんに復讐する時に協力してくれますか?」と発言していたら、AさんはBさんに協力を依頼しないという選択肢を持てたにも拘らず、だ。
AさんがBさんに依頼したのは、対価が「好意や信頼」で済むと想定していたからである。「自分がBさんの復讐にも協力する」という対価を支払う覚悟は、Aさんは持っていなかった。
想定が足りていなかったAさんにも落ち度はあるし、そもそも「好意や信頼」「信じている証明」などというものを対価にして、Bさんに復讐をやらせようという人柄には大いに疑問が残るが、互いに合意がなされた以上、一度目の取引において、特にAさんに瑕疵はない。
つまり、Bさんの「復讐を手伝ってやったんだからお前も手伝え」というのは、Aさんから見ると「これ試食良いですか?」「良いですよー!」というやり取りの後、差し出されたお菓子を食べてから立ち去ろうとしたら「食べたんだから商品をちゃんと買え」と言われたようなものだ。
支払いが済んだと思っていた(試食なら「試す」自体が対価でもある)のに、後から対価を追加して要求された。だから断る。ごく自然の成り行きである。
一方でBさんの方はと言えば、「自分も復讐したい」と思ったのが1度目の取引以前だったなら、かなり腹黒い。Aさんが対価を誤認している――少なくともBさんがDさんに復讐する計画があるとは認識しようがないことを分かっていたのに、それを正さなかった、ということになるからだ。
一度目の復讐を手伝うことで、2度目の復讐への協力を断りにくくさせる。そんな打算があったという話になる。
とはいえ、Bさんが最初は断っていたことを考えると、この可能性は高くなさそうでもある。Bさんが復讐を思い立ったのは1度目の取引の後だったと考えた方が自然だ。
だが、そうだったとしても、Bさんは取引上、あまり誠実とは言い難い。
上で述べたように、1度目の取引が成立し、復讐がなされた時点で、Bさんは対価を受け取ってしまっている。
Bさんの方がその時点で何を対価と認識していたかは不明だが、「Aさんを信じているという証明」か「Aさんからの好意や信頼」のどちらかであったはずだ。そしてどちらにせよ、1度目の取引の場でBさんが納得してしまっていた以上、1度目の取引は、Cさんへの復讐が終わった時点で、支払いまで完全に終わってしまっている。
1度目の取引が終わってしまってから、復讐の対価について不満だと、対価はまだ受け取っていないに等しいという理屈で、2度目の復讐への協力を要求するのは、対価を二重取りすることになる。
この場合、Bさんの側には、1度目の取引の対価を受け取ったという自覚がないだろう。「復讐への協力」という重い事柄で、「信頼や好意」「信じているという証明」のような対価しか得られないとは思っていなかった、かもしれない。
しかし、「私を信じているというなら復讐を手伝え」というAさんの要求を呑んでしまった時点で、1度目の取引は成立してしまっている。そんな理不尽な要求を呑んでしまうような、二人の間のパワーバランスにそもそも問題があるとは思うが、取引という観点で見るならば、後から理不尽なことを言い出したのはBさんの方だ。
2度目の取引は、Aさんが断ったことにより不成立となった。
よって、Bさんによる対価の二重取りは、実際には行われていない。未遂である。取引として見れば、この二人の間では「正常に」1回目が成立し、「正常に」2回目が不成立になっただけだ。
従って、卑怯かどうか、倫理的にどうか――という判断をするならば、取引の観点では双方ともに問題ないが、強いて言えばBさんの方が、対価の二重取りをしようとした点で「卑怯」と呼べる。
「私を信じているなら復讐を手伝え」という文脈で、支払う予定の対価を明示した上で依頼をしたAさんの方が、明示していなかった対価を後から増やして要求しようとしたBさんよりも、取引上はギリギリ誠実だと言えるのである。
また、倫理的にもAさんの方が「見知らぬ他人への復讐に加担しなかった」点で若干マシであると言える。
以上がこの問題に対する私の考えである。
復讐という罪についてや、CさんDさんの人権を最後まで完全に無視した、AさんBさん間の取引に限定した思考ではあるが、Aさんの肩を持つ人間がいても良いかな、ということで、この考えを私の回答としようと思う。
個人的にはAさんみたいな人は嫌いだし、Bさんも後から恩着せがましく「この間、お前に協力してやっただろ!!」なんて言うぐらいなら最初から手伝うなよ、とも思ってしまうのは内緒です。
