『あの日、僕らが壊したタイムマシン』【第3話】
【第3話】
青川の家に到着しインターホンを押すと、母親らしき声が聞こえてきた。
「はーい、どちら様でしょうか?」
「突然すみません、私伊野瀬冬花と言います」
「伊野瀬…あら!冬花ちゃん!?待ってて、今鍵を開けるから」
そう言って母親は、3人を部屋に入れてくれた。
「朔良は今出かけてるんだけど、もうすぐ帰ってくると思うから」
「すみません、僕たちまでお邪魔してしまって」
「とんでもない!まさか時田さんと祈山さんがうちに来るなんて。朔良も喜ぶと思うわ。それにしても、冬花ちゃんはすっかり美人さんになったわね」
「いえいえ、そんな…ありがとうございます」
伊野瀬は少し照れていたが、嬉しそうだった。
「最後に会ったのは冬花ちゃんが中学生の頃だったかしらね」
「そうですね、それからおじいちゃんが亡くなって、青川さんたちが引っ越したのもあって、すっかり会わなくなってしまったので」
「…今日朔良に会いに来たのは、おそらくあなたたちの研究が関係してるのよね?」
母親の表情が、少し真剣になったのが分かった。
「それは…」
伊野瀬は言葉に詰まった。「どこまで話していいの?」とでも言いたそうな顔で時田の方を見た。その表情を察した時田が、代わりに話し始めた。
「娘さんの開発したエトワールボヤージュは、貴重な技術の結晶です。詳しくは言えませんが、僕たちは今TSシステムの応用について研究していて、そのためには青川さん独自の技術が必要なんです。おそらく、今この世で青川さんだけが持っているその技術が」
母親は、その言葉を待っていたと言わんばかりの表情をしたように見えた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「…少し、朔良の話をしても、いいかしら」
エトワールボヤージュの開発時は顔と名前を公開しておらず、彼女自身のメンタルの強さもあって、あの一件以降も普段通りの生活を送っていることを話してくれた。
「今は高校2年生でね、頼まれれば知り合いの研究を手伝ったりはしているの。ただ、自分から新しく何かを作ったりすることはなくなったの。本当に頼まれたことをその通りにやるだけの補助的な役割…その手伝いであの子結構稼いでて、『もっとお母さんに楽させてあげるからね』って笑顔で言ってくれるんだけど、どこか満たされてないような顔をする時があるの。だから、本当は自分でまた何か生み出したいんじゃないかって。多分、気にしてないように振舞ってはいるけど、あの事故の件をずっと引きずってるんだと思う。だから、もしあの子が手を差し伸べられるのを待っているように見えたら、もう一度連れ出してあげてほしいの。未開の地を切り開く研究の世界に」
「分かりました。私たちに任せてください」
伊野瀬がすぐに力強く返した。時田と祈山もそれに同意の意を込めて頷いた。
* * *
それからしばらくして、玄関が開く音と「ただいま」という声が聞こえた。
「ねぇお母さん、誰かお客さん来てるの…?って、冬姉ちゃん…?」
「朔良に話があるみたいよ。じゃあ、私は買い物に行ってくるから外すわね」
部屋が4人だけになったところで、時田たちはタイムマシンの開発に関する話を始め、青川が使用した素材の力を借りたくて訪ねてきたことを説明した。
「いや、あたしは…そんな大した素材は使ってないです…冬姉ちゃんたちが評価してくれたのは嬉しいですけど…エトワールボヤージュは、所詮中学生が作った程度のものです…」
「いや、俺は知ってるぞ。君の発明は多くの命を救っていたはずだ」
「知ってるでしょう…?あの発明が起こした事故の数々を…」
「それは…君の警告を無視した人々のせいじゃないか」
「あたしが悪いんです…最初にあの企業による支援を受け入れたあたしのミスです…そもそも、あんなもの、作らなければよかったんです…」
母親には申し訳ないが、仲間に引き入れるのは難しそうだと、時田と祈山は思った。
「いきなり押しかけてすまなかったね、じゃあ僕らはこれで…」
時田がそう言いかけたとき、パチーンという音が部屋に響いた。時田も祈山も驚いた顔をしていた。伊野瀬が青川の頬を叩いたのだ。青川も何が起こったのか理解できず、数秒固まったあと口を開いた。
「えっ…冬姉ちゃ……え……?」
「い、伊野瀬?」
「伊野瀬さん…?」
伊野瀬の顔は、とても怒っていて、それでいて今にも泣きそうなくらい悲しい顔をしていた。時田たちはこんな伊野瀬を今まで見たことがなかったため、動揺していた。
「“エトワールボヤージュを作らなければよかった“なんて…そんなこと、二度と言わないで!」
伊野瀬は震える声でそう言った。
つづく
