見出し画像

中国地方スーパー、逆襲の構造【第1回】カルフール跡地を「二倍の売上」に変えた比優特、家家悦の物流力

中国の食品・小売業界を眺めていると、「実店舗のスーパーはもう終わった」という声を頻繁に耳にする。大手全国チェーンの閉店が相次ぎ、即時配送やライブコマースが存在感を増す中では、そう見えるのも無理はない。

しかし、この見立てには大きな見落としがある。全国チェーンが縮小する一方で、特定の省や都市に深く根を張った地方チェーンは、むしろ勢いを増しているという事実である。

本シリーズでは、家家悦、紅旗連鎖、中百集団、胖東来、比優特という5社を手がかりに、中国の地方スーパーがなぜ、そしてどうやって強くなっているのかを3回に分けて読み解く。切り口はそれぞれ異なるが、共通しているのは「全国一律の勝ちパターンはもう存在しない」という事実である。

各地方スーパーのロゴ。 出所:Baidudu

第1回で取り上げるのは、その中でも最も分かりやすい構図、すなわち全国チェーンが退場した売り場を、地方チェーンがどう飲み込んでいるかという話である。


01.店舗を閉じても売上は落ちない——中国スーパーに起きている静かな逆転

黒竜江省の資源都市・鶴岗(かくこう)は、中国で「不動産価格が全国一安い街」として繰り返し話題になってきた場所である。かつて炭鉱で栄えたこの街は、資源の枯渇とともに人口流出が続き、数万円台のマンションがネット上でたびたび話題になるほどの縮小都市になった。

ところが、人口90万人規模のこの街から生まれた地場スーパー「比優特(ビーヨウトー)」は、いま東北三省31都市に100店超を展開し、2025年度の売上高は100億元(約2350億円)を突破している。

比優特スーパーの店頭と紹介。出所:比優特公式サイト

全国チェーンが撤退を重ねる中国の小売市場で、比優特のように地方発のスーパーが逆に規模を拡大している構図は、一社に限った現象ではない。

中国連鎖経営協会(CCFA、中国のチェーンストア業界団体で、毎年主要小売企業の売上高・店舗数を集計し公表している)の統計を追うと、この数年の変化がよく見える。

2023年、上位100社の売上高は前年比7.3%減、店舗総数は16.2%減という大きな調整を経験した。2024年になると、売上高の減少幅は0.3%まで縮まった一方、店舗総数はなお9.8%減っている。

つまり、売上の落ち込みは底を打ちつつあるのに、店舗の淘汰はむしろ続いているという、やや珍しい組み合わせが起きている。これは業界全体が縮小しているのではなく、非効率な店舗が退場し、生き残った店舗一つひとつの稼ぐ力が相対的に上がっていることを意味する。

日本でも、長らく絶対王者とされてきたイオンより、地域密着型のオーケーやヤオコー、ロピアの方が営業利益率で上回るという逆転現象が近年指摘されているが、中国で今起きているのは、これと同じ構造がより急速な形で進行している姿だと見てよい。


02.「地方の強さ」とは何か——全国チェーンの前提が崩れた瞬間

ここでいう「地方の強さ」とは、単に地元で知名度が高いという意味ではない。

特定の都市や県域で他を圧倒する店舗密度を持ち、地元の仕入れ先や物流業者に対して強い交渉力を持ち、住民の消費の流れそのものを左右できるだけの存在になっているかどうかが分かれ目になる。

2000年代から2010年代にかけて、中国の大型総合スーパーは全国チェーンが土地さえ確保すればどこでも同じ型で出店できるという前提のもとで拡大してきた。しかしその前提は、来店頻度の高い生鮮・総菜と、即時配送への対応力が競争の中心に移るにつれて崩れた。

全国チェーンが同じ物件から退場したとき、その空白を埋められるのは、たいてい別の全国区大手ではなく、地元密着型のプレーヤーである。比優特と、山東省の家家悦は、その中でも対照的な手法でこの立場を築いた二社として見ておく価値がある。

比優特と家家悦の店内の様子。 出所:REDBOOK


03.カルフール跡地を「二倍の売上」に変えた比優特のやり方

比優特の拡大の中身を見ると、この構図がよく分かる。

同社がここ5年間に開いた新規店舗79店のうち、68店は家楽福(カルフール)、永輝スーパー、華潤万家、ウォルマートなど他チェーンが撤退した跡地への出店だった。

2025年には37日間で14店を連続開業し、永輝スーパーが東北地方から撤退する過程で手放した12店舗を一括で引き継いでもいる。

象徴的なのは、あるカルフール跡地で「以前の半分の売り場面積で、以前の二倍の売上」を実現したという事例である。全国チェーンが去った場所は、比優特にとって単なる空き物件ではなく、すでに顧客の来店動線ができあがった「仕込み済みの商圏」だった。

比優特がここまで踏み込めた背景には、店舗網の作り方そのものの転換がある。

同社は2019年以降、値下げを前提に仕入れ構造を見直し、まとめ買い・大量在庫を前提にした従来型の倉庫型店舗から、日々・全品目・小口・需要即応型という高頻度低在庫の補充体制に切り替えた。

従来は週単位でまとめて仕入れ、店の奥に大きなバックヤードを構えて在庫を抱え込むのが一般的だったが、比優特は毎日必要な分だけを配送する体制に切り替えることで、そのバックヤードそのものを縮小し、浮いた面積を売り場に転用した。

これが、同じ床面積で以前の二倍を売るという成果につながっている。

「区域大倉」と呼ばれる広域物流拠点を整備し、同業他社20社余りと共同で「真市美」という共同調達の仕組みまで作った。

創業は1996年、鶴岗での小さな化粧品店から始まり、2014年の「鶴岗を出る」という戦略転換、2017年のハルビン本部設置、2021年の瀋陽本部設置という三段階の拡張を経て、今の規模に育っている。

比優特の拡大の軌跡。出所:編集者作成

地元メディアが比優特を「東北の胖東来(パンドンライ)」と呼ぶこともあるが、両社の強さの源泉はまったく別のものであり、この呼び名はむしろ注意して受け取る必要がある。その違いは、このシリーズの次回で改めて取り上げる。


04.店舗より先に物流を作った家家悦、50年がかりの陣地戦

もう一つの代表例が、山東省を地盤とする「家家悦」である。家家悦の成長の仕方は、比優特とは対照的である。

比優特が全国チェーンの退場によって生まれた空白を素早く埋める機動戦型だとすれば、家家悦がとってきたのは、物流網という後方インフラを先に固めてから店舗網を積み上げる、地道な陣地戦型である。

家家悦スーパー。 出所:Baidu

同社は山東省を中心に9か所の物流団地を構築し、常温・低温・加工の機能を一体化させることで、域内3時間で商品を届けられる配送圏を作り上げた。

店舗網も総合スーパー、社区生鮮スーパー、農村向け小型店、菓子専門店、折扣店(ディスカウント業態)と業態を細かく分け、地域ごとの世帯構成や所得水準に合わせて出店フォーマットを使い分けている。約百店規模でベーカリーを新設するなど、来店頻度を上げる仕掛けにも力を入れている。

2025年末時点で1074店を展開し、売上高は179.57億元(約4220億円)、純利益は前年比52.1%増の2.01億元(約47億円)に達している。前身は1974年設立、山東省内でも最小規模だったという砂糖・酒類の卸売会社であり、創業者の王培桓氏がここから50年をかけて地域一の小売グループを作り上げた歩みは、比優特の急拡大とはまた違う、積み上げ型の成功例として見ておく価値がある。

家家悦の店舗数、カバー範囲、会員数。 出所:家家悦公式サイト


05.アプリではなく、密度と配送速度が競争を決める

比優特と家家悦、二つの会社の出発点も手法もまったく異なるが、たどり着いた結論には共通点がある。

店舗数そのものよりも、後方の供給網と配送体制をどれだけ精密に作り込めるかが、地方スーパーの競争力を決めているという事実である。

中国では現在、美団(Meituan)などが即時小売(クイックコマース、注文から30分前後での配達を前提にした小売形態)を急速に広げており、2025年6月時点で全国の実店舗ほぼ100万店と連携し、都市型小型物流拠点「閃電倉(都市部に分散配置する小型配送拠点、いわゆるダークストア)」を3万か所以上整備したと公表している。

美団の即時小売紹介。 出所:美団公式サイト

この動きは一見、実店舗を持つスーパーにとって脅威に映るが、比優特や家家悦のようにすでに高密度な店舗網と物流機能の両方を備えている企業にとっては、即時配送はむしろ自社の強みをそのまま生かせる土俵でもある。

今後の競争を決めるのは、アプリを持っているかどうかではなく、店舗密度・在庫精度・配送速度をどれだけ一体で動かせるかという、地味だが模倣しにくい実行力である。

美団と家家悦の合作事例。 出所:美団公式サイト


06.卸す側の戦略も、都市単位で組み直す時代へ

この変化は、メーカーや代理店側の実務にも直結する。

これまで多くのメーカーは、全国チェーン数社との条件交渉を窓口にして中国全土をカバーするという発想で流通戦略を組んできた。

しかし比優特や家家悦のような地方チェーンは、全国規模こそ大手に及ばなくても、特定の省や都市圏でのシェアでは全国チェーンを上回ることが珍しくない。

新商品の価格帯やパッケージ、販促方法を、まずこうした地方の有力チェーン単位で試し、そこでの売れ行きを見てから全国展開の可否を判断するという、いわば地方発の逆コースを取る余地が広がっている。全国一律のテストマーケティングよりも、こうした地方チェーンを起点にした検証の方が、実際の店頭の反応をつかみやすい場合すらある。

政策面の後押しも見逃せない。

中国商務部など9部門は2025年、都市の「一刻钟便民生活圈(15分生活圏)」を今後3年かけて県域まで広げる方針を打ち出しており、地元密着型の中小型店を優遇する制度環境が続く見通しである。

都市の「一刻钟便民生活圈(15分生活圏)」の通知。 出所:中国人民政府公式サイト

あわせて、2026年3月には食品小売チェーンの本部に食品安全の一元的な責任を課す新規則も施行される。総菜の温度管理から仕入れ先の追跡まで、本部が統一基準で管理できる体制を持つ企業ほど対応しやすく、標準化が遅れた中小の個人商店にとっては負担が増す内容でもある。

規模と標準化を両立できる地方チェーンにとって、これは追い風であると同時に、次の淘汰の基準になる可能性がある。


07.全国チェーンの看板が消えた場所ほど、次の主役が動いている

日本の食品・飲料メーカーにとって、この構図から読み取るべきことは小さくない。

全国チェーンが退いた売り場は、必ずしも市場そのものの縮小を意味しない。むしろ、その物件と客足を、地元で信頼を積み上げてきた別のプレーヤーが素早く引き継いでいるだけである場合が多い。

中国事業において「全国チェーン数社と組めば全土をカバーできる」という発想は、もはや前提として成り立たなくなりつつある。地域ごとに異なる勝者が生まれている以上、卸先の開拓や販促の設計も、全国一律ではなく都市・省単位で組み直す必要が出てきている。

棚を確保する相手が、全国の大手から、比優特や家家悦のような地方の実力者へと移りつつある地域は、今後さらに増えるはずである。

全国チェーンの看板が消えた場所ほど、実は次の主役がすでに動き始めている場所である。その主役の名前と手口は都市ごとに違うが、共通しているのは、店の数を追うのではなく、裏方の供給網を先に鍛え上げてから拡大するという順序である。

日本企業が中国の小売地図を読むときも、どの都市でどの地方チェーンがこの順序をすでに実行し終えているかを見極めることが、次の一手を考えるうえでの出発点になる。

比優特と家家悦が示しているのは、あくまで「地方の強さ」を成り立たせている二つの型のうちの、物件と物流をめぐる型にすぎない。同じ中国の地方チェーンの中には、信頼という無形の資産そのものを武器にする企業や、便利さと生活サービスの密度で住民を囲い込む企業もある。

次回はその一社、河南省の胖東来を取り上げる。


References

  1. 中国連鎖経営協会(CCFA)「中国超市TOP100」関連発表、2024~2025年、業界団体公式発表

  2. 家家悦集団股份有限公司「2025年度決算報告書」2026年、上場企業公式決算資料

  3. 比優特商貿有限公司公式サイト「関于我们」、企業公式サイト

  4. 联商網「比优特董事长孟繁中:企业最大的隐患是没有创新」、業界専門メディア

  5. 腾讯新聞「90万人的鹤岗,养出年入50亿的超市」2024年3月、経済メディア

  6. 財経头条「"东北胖东来"比优特年入50亿,"动态折扣化"成杀手锏」、経済メディア

  7. 新浪科技「比优特接盘永辉12店,冲击"百家门店、百亿目标"」2025年3月、経済メディア

  8. ITmedia ビジネスオンライン「「オーケー」「ヤオコー」「ロピア」はなぜ好調なのか? 絶対王者・イオンよりも利益率が高いワケ」2026年2月、業界専門メディア

  9. 美団 2025年即時小売拡大に関する公式発表、2025年6月、企業公式発表

  10. 平安証券「家家悦董事长王培桓简历」、証券会社公開資料



筆者紹介

厳 偉(Wayne Yan)

  • 株式会社コーポレイトディレクション上海オフィス 副総経理

  • 日中食品経営研究会 発起人・主宰

  • FBIF食品飲料イノベーションフォーラム 日本研究首席戦略アドバイザー

  • 中国飴酒会Ideas新商品イノベーションコンテスト 審査員

  • 複数の日本大手食品企業 中国事業戦略アドバイザー

【日本企業向け】

市場参入の道筋づくりから、商品の現地適応、チャネル戦略の設計までを一貫して支援。試行錯誤のコストを抑え、意思決定のリードタイム短縮に寄与します。

【中国企業向け】

日本企業の経営思考や商品開発の方法論を読み解き、日中食品経営研究会やCDI東京本社のネットワークも活かしながら、両国企業間の具体的な事業提携や資本連携を橋渡しします。

日中食品経営研究会

日中食品産業の経営層が「顔の見える対話」を重ねる、中国国内唯一のハイエンド私的勉強会です。

本会は、株式会社コーポレイトディレクション上海オフィス副総経理 厳偉の発起により、上海公共政策研究センター理事長で前復旦大学日本研究センター副主任の張浩川教授、マカオ城市大学社会心理学専門家の法卉博士とともに立ち上げました。「産学連携」を土台に、業界の最前線で起きている変化を経営視点で読み解く場を目指しています。

毎月開催するクローズドの会合には、実質的な経営判断を担う方のみご参加いただけます。これまでに、ハウス食品、ヤクルト、カルビー、キリン、明治、味の素、サントリー、グリコ、亀田製菓、キューピー、日東紅茶、AGF、カゴメ、伊藤食品、インダスソース、三井物産といった日本を代表する食品・流通企業のトップマネジメントが参加。中国側からは、妙可藍多、スターバックス、メトロ、HotMaxx(好特売)、莫小仙、水獺吨吨、松鮮鮮、零食有鳴、鳴鳴很忙、叮咚買菜などの経営陣、そしてニールセンIQ、小風景科技、高岩科技といった業界関係者が出席しています。

定例会に加え、工場見学や日本への視察ツアー、テーマ別座談会なども随時実施。公式WeChatでは、日中両言語で業界動向と経営事例を発信しています。

ご参加・連携に関心をお持ちの方は、お気軽にDMにてお問い合わせください。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー