はじめに/序章だけ読む|「滅び」と生きる 宮崎県椎葉村の生態変化、生存戦略、種間関係の動態 (合原 織部著 京都大学学術出版会)
口上
奥野克巳先生と読む「聞き流す、人類学。読書会」のラインナップが発表になりました。告知も兼ねて、「はじめに/序章だけ読む」シリーズをはじめます。
10/20 ピーター・ティール『ゼロ・トゥ・ワン』
11/10 宇沢弘文『社会的共通資本』
12/1 合原織部『滅びと生きる』
12/29 ファルク『シベリアの狩猟儀礼』
1/5 ヴィクター・ターナー『儀礼の過程』
1/26 ジョン・デューイ『経験と教育』
詳細・申込はこちら:https://research-on-the-anthropocene-in-japan.blogspot.com
書誌と作者紹介
書名:『「滅び」と生きる――宮崎県椎葉村の生態変化、生存戦略、種間関係の動態』
著者:合原 織部
出版社:京都大学学術出版会
刊行:2025年5月/A5上製・約280頁/ISBN 978-4-8140-0591-8
書誌確定情報:CiNii/NDL(ISBN・判型・頁数等) (CiNii Research)
出版社告知(概要・目次抄):京都大学学術出版会公式note(2025/4/25掲載) (note(ノート))
著者略歴(要旨):法政大学 人間環境学部 講師。京大大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了、博士(文化人類学)。椎葉村をフィールドに「先祖の田」や猟犬・養蜂・ジビエ等の民族誌研究を継続。 (ヨドバシ.com)
要約(序章 該当部分のみ)
序(冒頭の趣旨)
舞台:宮崎県椎葉村。「日本の三大秘境」と称される山村だが、過疎化・高齢化・自然環境の変化が進行。2000年代以降、イノシシ・シカ・サルによる獣害やニホンミツバチの減少が顕在化し、生業(林業・焼畑・原木シイタケ・狩猟・採集・稲作等)に影響が出ている。
問題設定:従来の山村研究は①「滅びゆく山村」(過疎化+獣害=衰退)と、②アナ・チン流の「破壊された土地に生成する協働」という二極の捉え方に二分。だが双方とも現場の複雑な多種交渉と人々の知恵・技の具体を捉え切れていない、という違和感から本書の問いが立ち上がる。
方法的立場:山村の生業(猟・養蜂・稲作・ジビエ等)を個別主題で切り分けず総体として描き、複数種の相互作用(人間・野生動物・昆虫・植物・道具・制度)を民族誌的に明らかにする。国家・県・村による政策介入とその「気まぐれ」な影響もマクロ要因として視野に入れる。
1 山村の変容を捉える視座
1-1 「滅びゆく山村」という言説
代表的視座:過疎化で農林の担い手が減り、人と自然の境界が緩む→野生動物の侵入(encroachment)→耕作放棄・衰退という連鎖(John Knight ほか)。研究は人間中心の主体視により、現場で新たに生じる多種間の偶発的交渉を捉え損ねてきた。
本書の指摘:野生動物優勢という単線図式では説明し切れない——シカの食性変化が蜜源植物・ミツバチ減少に連鎖し、シカ肉利用(食当たり問題含む)や猟のあり方を変えていく等、多層の波及がある。
1-2 「滅びゆく山村」に見え隠れする問題系
(1) 獣害研究の人間中心性:被害認識や地域観念を重視する一方で、サル/イノシシ/シカと人の双方向的交渉や、立場(農家/猟師)差を織り込めていない。機具開発も技術(生態学)と社会(現場実装)の接合が弱い。
(2) カテゴリーの固定化:「野生」「害獣」「半家畜/家畜」といった区分、ならびに猟犬やニホンミツバチの扱いが固定的に論じられ、**状況依存で変わる存在論(犬=家畜/パートナー/神)**が捉え切れていない。
(3) ジビエ事業の前提:人間が完全管理するという前提が強く、狩猟文化や複数種関係の地場性を踏まえないと機能しにくい。
2 「荒廃した土地」に生成する複数種の交渉
2-1 「アッセンブリッジ(寄りあつまり)」
参照概念:アナ・チンのアッセンブリッジ(人新世的破壊の中での遭遇・協働)を批判的に参照。希望の物語に傾倒せず、現場の交渉の具体へ降りることを強調。
2-2 「伝統的な生態学的知識(TEK)」
立場:TEKを静的な伝統知としてではなく、実践と関係の変化に伴う動態として再記述する(例:養蜂・猟の手順・儀礼・道具の運用が、生態変化や政策変更に合わせて更新される)。
3 本論の内容と構成(序章内の案内)
第I部:椎葉村の生活世界と稲作(「先祖の田」)の歴史的生成。
第II部:獣害と儀礼・有害捕獲・サル害(交渉としての被害)。
第III部:猟犬の「変身」、ニホンミツバチ養蜂のハイブリッド・コミュニティ。
第IV部:シカ肉の商品化(県内各地のジビエ事業比較、椎葉ではドッグフード生産)。
→ 個別章の寄せ集めではなく、山村における生業の総体として多種交渉を追う。
4 調査・調査地の概要(序章末の概説)
複合的生業の構図:農林・猟・採集・養蜂に加えて、**外貨稼得(賃金労働・年金)**を組み合わせる複合生業。サル害は現金収入に直撃しないが、日常の食と耕作の持続性に影響。
主要テーマの調査方法:養蜂は村域39名への参与観察+インタビュー。ジビエは県内複数自治体のシカ肉生産/椎葉のドッグフード生産を比較し、参与観察と聞き取りを併用。
5 登場人物について(序章末)
登場人物の位置づけ:著者は狩猟・耕作・養蜂に実地参加しつつ、個人名を伏せた匿名化のもとで語りと実践を丹念に記録(※紙面末で登場人物の整理)。
論点整理(序章から引けるキーイシュー)
二項対立の超克:
「滅び」or「希望」の二択を外し、破壊下に生成する多種交渉と技の再編に焦点。人間中心主義の脱臼:
主体=人間という前提を崩し、猟犬/ミツバチ/サル/シカ/道具/制度を含む関係の網として生業を見る。国家・政策の「気まぐれ」な関与:
戦後植林・メスジカ保護・近年の科学管理/商品化政策など、上位制度の介入→現場に実装を丸投げという非対称。カテゴリーの可変性:
「野生/家畜」「害獣/資源」「伝統/近代」等の固定観念を、出来事に応じて変わる関係配置として再記述。
用語解説(最小限)
アッセンブリッジ(assembly):破壊された環境で生じる、種横断の一時的かつ状況依存的な寄りあつまり。本書は概念を参照しつつ、具体的交渉の記述を優先。
TEK(伝統的生態学的知識):地域で継承される環境知。固定遺産ではなく動態として実践の中で更新される、と本書は捉え直す。
Encroachment(侵犯):人と自然の境界が緩み、野生動物が集落へ侵入する状況を説明する枠組み(Knight)。本書は単線図式の限界を指摘。
批判分析(序章段階での読み)
貢献:
総体としての生業+多種交渉の網に光を当て、現場の細部(猟犬の地位変容/ミツバチと道具の関係/シカ肉の流通と食当たり)を通して、「滅び」言説の粗さを丹念に崩す設計は今日的に強い。
方法論的含意:
国家・市場・科学管理を「背景」に退けず、マクロの装置が現場でどう折り畳まれるかを追う姿勢が良い(政策の「気まぐれ」性への批判)。
懸念/問い:
「希望」物語への慎重さは共有しつつ、アッセンブリッジやTEKの代替枠組(例えばSTSの装置化・実在論的転回系の用語)との照合が、後章でどこまで緻密に運用されるか。
記述の可視化:猟犬やサルの個体差・道具の故障/逸脱など、うまくいかない場面も疫学的に積み上がっているか(序章では方法意図は示されている)。
「この本はどのような本か」(未読者向けオーバービュー)
要するに:
椎葉村という「秘境」を、滅び(衰退)でも牧歌的伝統でもなく、破壊と生成が同時進行する場として描く民族誌。
人・動物・昆虫・植物・道具・制度がその都度の関係配置を組み直し、生業のやり方・意味・価値が変わっていく。その**変化の実践知(TEKの動態)**を掬い上げる。
研究の芯は、「総体としての生業」×「複数種の交渉」×「政策・市場の介入」を同時に読むこと。「滅びゆく山村」という型通りの理解を現場のディテールから捉え直す試みである。
参考文献(参考文献リスト形式・本文で言及/参照した一次情報)
合原織部『「滅び」と生きる――宮崎県椎葉村の生態変化、生存戦略、種間関係の動態』京都大学学術出版会、2025年。[本文(序章・目次・図版等)に基づく要約・引用]
National Diet Library(NDLサーチ)「『「滅び」と生きる』書誌情報(出版年・ISBN・頁数)」2025年。 (国立国会図書館サーチ(NDLサーチ))
CiNii Research「『「滅び」と生きる』書誌情報」2025年。 (CiNii Research)
京都大学学術出版会(公式note)「『「滅び」と生きる』出版案内(目次抄・著者プロフィール)」2025年。 (note(ノート))
Research on the Anthropocene in Japan(ブログ)「聞き流す、人類学。読書会」告知群。 (research-on-the-anthropocene-in-japan.blogspot.com)
ハッシュタグ(20)
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※本ノートは「はじめに/序章だけ読む」の範囲に限定して作成しています。以降の各章(猟犬・養蜂・サル害・シカ肉商品化)の詳細なケース記述は、続編で深掘り可能です。
