【第142回】ビジネス書との出会い:人に好かれることは「科学」である。FBI流・最強の人間関係構築術『元FBI捜査官が教える「情報を引き出す」方法』
この**【ビジネス書との出会い】**シリーズでは、私が出会い、人生やビジネスの視点を変えるきっかけとなったビジネス書を、毎回1冊ずつレビュー形式でご紹介していきます。
書籍と著者
本日ご紹介するのは、元FBI行動分析官ジャック・シェーファー氏と、心理学者マーヴィン・カーリンズ氏による**『元FBI捜査官が教える「情報を引き出す」方法』**(原題:The Like Switch: An Ex-FBI Agent's Guide to Influencing, Attracting, and Winning People Over)です。
どんな本か: 敵国のスパイを二重スパイに寝返らせるという極限の任務をこなしてきたFBI捜査官が、他人に好かれ、信頼され、自発的に情報を話してもらうための「人間関係構築(ラポール)」の技術を科学的に解説した一冊。
著者の権威性: シェーファー氏はFBIで防諜捜査やテロリストの尋問を担当してきた人間心理のプロ。共著者のカーリンズ氏は、【第54回】で紹介した『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』も手掛けたプリンストン大学の心理学博士です。
以前紹介した本との関連: 前回【第141回】でCIAの「情報戦」を学びましたが、今回はFBIです。CIAが「情報を引き出す」ことにフォーカスしていたなら、本作は情報を引き出すための大前提となる「どうすれば相手から好意を持たれるか(The Like Switchを入れるか)」という根本に切り込んでいます。
導入:初対面で「この人、いいな」と思わせる人の正体
あなたの周りにもいませんか? 初対面なのに一瞬で人の懐に入り込み、誰とでもすぐに打ち解けてしまう人。 私たちはそれを「天性の人当たりの良さ」や「生まれ持ったカリスマ性」だと片付けてしまいがちです。
しかし、著者は断言します。 「人に好かれることは、天性ではなく『科学』である。特定のシグナルを発すれば、人間の脳は自動的に相手に好意を抱くようにできている」
FBI捜査官は、ターゲット(スパイ)に接触し、友人となり、最終的に祖国を裏切らせます。これを「偶然の相性の良さ」に頼っていては仕事になりません。本書は、相手の警戒心を解き、脳の「好意のスイッチ(ライク・スイッチ)」を意図的にオンにするための、極めて実用的で体系化されたメソッドです。
本書の核:友情の方程式と「友好シグナル」
本書の最大のハイライトは、人間関係が構築されるプロセスを数式化した「友情の方程式」です。
【 友情 = 近接性 × 頻度 × 期間 × 強度 】
近接性:相手との物理的な距離。
頻度:相手と接触する回数。
期間:一緒に過ごす時間の長さ。
強度:言葉や非言語による感情の強さ。
FBIはターゲットを確保する際、いきなり話しかけません。まずは「近接性」と「頻度」を高め、ただ視界に入るだけの状態を続けます。そして警戒心が薄れた頃に、以下の**「3つの友好シグナル(強度)」**を相手に送ります。
眉をピクッと上げる(アイブロー・フラッシュ):出会いがしらに眉を0.6秒ほど上げるだけで、脳は「敵ではない」と認識します。
首を傾ける:頸動脈という急所をあえて晒すことで、相手への信頼と安心感を示します。
本物の笑顔(アイソメトリック・スマイル):口角だけでなく、目尻にシワが寄る本物の笑顔。
言葉を交わす前に、この非言語のシグナルを出すだけで、相手の潜在意識はあなたを「味方」だと認識するのです。
現代ビジネスへの応用 / 実践:「第三者」を使って褒める
では、私たちは明日からどうすればいいのでしょうか?
「第三者からの賛辞」を利用する: 相手に好かれたいとき、直接「〇〇さん、仕事が早いですね!」と褒めるよりも、「経理のAさんが、〇〇さんの書類はいつも完璧だって褒めてましたよ」と伝えてください。直接褒められると「何か裏があるのでは?」と警戒する人でも、第三者を通した賛辞は素直に受け入れ、伝えてくれたあなたへの好意も跳ね上がります。
共感の公式を使う: 相手が話をしているとき、「そうですね」と単に相槌を打つのではなく、「あなたは〇〇だから、〜と感じているのですね」と、相手の感情を代弁(ラベリング)してください。人は「自分を理解してくれた」と感じた相手に、最も深い情報を開示します。
まとめ:好意とは、最高のビジネス戦略である
「人に好かれようとするなんて、媚びているみたいで嫌だ」と思うビジネスパーソンもいるかもしれません。
しかし、人がモノを買うとき、契約を結ぶとき、最後に背中を押すのは「この人のことが好きか、信頼できるか」という感情です。論理やデータだけで人は動きません。 相手の脳のスイッチを理解し、警戒心を解き、安心感を与える。このFBI流の科学的なアプローチを身につければ、営業、交渉、社内政治まで、あらゆるビジネスのハードルが劇的に下がるはずです。
▼ 合わせて読みたい
『元FBI捜査官が教える「情報を引き出す」方法』で学んだ「関係構築の科学」を、さらに深く、広く応用するための必読リストです。今回は、直近の交渉術だけでなく、過去の古典も交えて選定しました。
【第54回】『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』 [選定理由:補完] 本書の共著者カーリンズ博士が手掛けたもう一つのFBI名著。本作が「相手に好かれるためのシグナルを『出す』方法」なら、こちらは「相手の隠し事のシグナルを『読み取る』方法」です。この2冊で、非言語コミュニケーションは完璧になります。
【第27回】『人を動かす』 [選定理由:源流] 「相手に重要感を持たせる」「聞き手にまわる」といったデール・カーネギーの不朽の原則。FBIの科学的なテクニックも、根底に流れている哲学はこの古典と完全に一致しています。合わせて読むことで、テクニックが「人格」へと昇華されます。
【第141回】『CIA諜報員が駆使するテクニックはビジネスに応用できる』 [選定理由:比較] 前回紹介したCIAの技術。FBIが「好意(ライク・スイッチ)」を使って関係を築くのに対し、CIAは「誠実さと返報性」を武器にします。両組織のアプローチの違いを知ることで、情報戦の引き出しがさらに増えます。
【第73回】『コールド・リーディング [第二版] 人の心を一瞬でつかむ技術』 [選定理由:応用] 初対面の相手の心の壁をスッと突破し、「昔からの親友」のように感じさせる技術。友好シグナルで相手の警戒心を解いた後、この話術を使えば、相手はあなたに何でも話したくなるはずです。
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