AI市民が文句を言う町--立川こしら、仮想東金市長就任。ゲーム実況とNotebookLMで地方自治を再編集する--
独占ロングインタビュー
「東金を一回、仮想空間で壊してみる」
立川こしらが“仮想東金市長”として未来をゲーム実況する理由
――まず率直に伺います。友人が東金市長選に出る。そのタイミングでゲームを使って「仮想東金市」をつくり、自分が市長になって実況する。しかもそこへAI音声で“東金市民の声”を重ねる。この発想、かなり異質です。どこから始まったんですか。
異質って言われると、まあちょっと安心しますね。
普通に見えてたら逆に困るんですよ。
だって、選挙のたびに普通のことを普通に言って、普通に終わってるから、地方政治ってなかなか体温が上がらないわけでしょう。
「未来の東金を」
「市民のために」
「子どもたちのために」
もちろん間違ってないんですよ。
間違ってないけど、言葉として完成しすぎてる。
完成してる言葉って、人の頭に残らないんです。
だったら一回、道路を引いてみる。
税率を動かしてみる。
住宅地を広げてみる。
そうするとすぐに結果が出る。
渋滞する。
住民が怒る。
病院が足りない。
税収が足りない。
つまり政治って、本来は“正しいことを言う場”じゃなくて、
何を選んで、何を後回しにするかの連続
なんですよ。
それを言葉だけで語ると抽象になるけど、ゲームにすると逃げ場がない。
――つまりゲームが政策の翻訳装置になる。
そうです。
たとえば現実の市政で「道路整備」って言われても、聞いた側はすぐ眠くなる。
でもゲーム画面で一本道路を増やした瞬間に、
「あ、そこ繋げると逆に詰まるのか」
って分かる。
これが大きい。
政治って、本当は複雑なんだけど、複雑なまま出されると人は離れる。
だから一回、遊びの形にする。
落語だって同じなんですよ。
長屋の話をしてるけど、実は人間の仕組みを説明してる。
笑いながら聞ける形にしてるだけ。
――しかも「候補者本人」ではなく、「立川こしらが仮想市長」になる。
そこが一番大事です。
本人がやると全部“公約”に見えるんです。
「ここに学校作ります」
「ここに道路作ります」
そうなると、現実と結びつきすぎてしまう。
でも落語家がやると違う。
最初からちょっと失敗する空気がある。
視聴者は安心して見られる。
「あ、また無駄な橋作った」
「なんでそこに工業地帯置いた」
笑いながら見られる。
でもその笑いの中で、
「工業地帯って住宅の近くに置くとこうなるのか」
「税収増やしても住民が減るのか」
って、自然に理解が入る。
これは説教より強い。
――落語家が政治を語ると説教くさくなる危険もあります。
だから直接語らないんです。
俺がやるのは、
政治を“失敗可能なもの”として見せること
です。
政治って完成品みたいに扱われすぎるんですよ。
でも本当は毎日未完成。
今日決めたことが三年後に裏目に出る。
道路一本だってそう。
その不確実さをゲームはちゃんと持ってる。
しかも容赦ない。
住民がすぐ怒る。
税収もすぐ減る。
現実より優しいようで、意外と厳しい。
――そこへさらにNotebookLMのAI音声を“市民の声”として入れる。
ここは今の時代ならではですよね。
昔ならナレーターを呼んでた。
あるいは自分で全部喋ってた。
でも今はAIに読ませると、妙に現実味が出る。
たとえば、
「市長、また農地が減っています」
「高齢者施設より先に道路ですか」
「駅前再開発より下水道では」
これ、人間が怒鳴ると角が立つんです。
でもAIが冷静に言うと、逆に刺さる。
感情がないぶん怖い。
――AIを“東金市民”にするのは象徴的です。
だって今の社会そのものですから。
現代って、
大量の声を一人の言葉に圧縮して聞く時代でしょう。
SNSもそう。
行政もそう。
議会もそう。
みんな大量の意見があって、それを誰かが整理してる。
NotebookLMはまさにその縮図。
大量の情報を要約して、一つの声にして喋る。
つまり、
AIの声って、現代の世論に近い
んですよ。
――東金という土地でやる意味はどこにありますか。
東金って、ちょうどいいんです。
大都市じゃない。
でも完全な過疎でもない。
つまり日本の多くの地方都市が抱えてる問題が、全部コンパクトに入ってる。
車社会
駅前の弱さ
若者流出
高齢化
郊外化
空き地
全部ある。
だから東金で成立する話は、全国に通じる。
――地元だからこそ見えるものもありますか。
ありますね。
地元って不思議で、
子どもの頃はただの風景なんですよ。
でも年を取って見ると、
「あれ、ここってこんな配置だったか」
って思う。
店の位置。
道の広さ。
人の流れ。
全部、意味が見えてくる。
たとえば昔は何も考えず通ってた道が、
「あ、ここ一本詰まるだけで全部止まるな」
って見える。
地元って感情があるから、観察が深くなる。
――候補者の応援というより、地域そのものへの介入に見えます。
そうですね。
応援だけなら名前を言えば済む。
でも名前を言った瞬間、狭くなる。
今回やりたいのは、
選挙をイベントにしないこと
なんです。
選挙って一週間だけ熱が上がって、終わる。
でも本当はその後の四年が本体でしょう。
だったら四年を想像できる形が必要。
ゲームはそこに向いてる。
――失敗も見せる前提ですか。
むしろ失敗しか面白くない。
最初から全部うまくいく実況なんて誰も見ない。
住民が怒る。
病院足りない。
税金足りない。
工業地帯臭い。
ここで初めて、
「あ、市長って面倒だな」
ってなる。
この“面倒さ”を体感することが一番大事。
――落語家が都市運営をやると、どこか一席の構造にも見えます。
そりゃそうですよ。
落語って、
最初に状況を作る。
少しずつ崩す。
最後に回収する。
都市運営も同じです。
最初は住宅地。
次に道路。
次に学校。
最後に予算破綻。
全部伏線です。
――しかも実況という形がある。
実況って今の語り芸なんですよ。
昔の講談に近い。
目の前で起きてることに言葉を与える。
だから相性がいい。
ゲーム実況って、ただゲームしてるんじゃない。
状況に意味を与える芸
なんです。
――過去にもメディア変化をかなり早く取り込んでこられています。
まあ、取り込まないと先に飽きるんですよ。
昔からそうで、
新しい道具が出たら、とりあえず触る。
ゲーム実況に価値が出る前から、
「うまいプレイじゃなく人格が商品になる」
って見えてたんです
つまり、
上手い人だけじゃなく、
失敗する人にも価値がある。
これは落語と同じ。
――今回も“上手い市政”ではなく“考える市政”。
そう。
完璧な市長を見せる気はない。
むしろ、
迷う
間違える
やり直す
ここを見せる。
現実の政治もそうだから。
――最後に。この企画を見た東金市民に何を持って帰ってほしいですか。
二つですね。
一つは、
文句を言うなら、一回見てから言おう
これ。
道路一本にも理由がある。
病院一つにも予算がある。
それを知るだけで、文句の質が変わる。
もう一つは、
未来って、誰かが勝手に作るものじゃない
ってこと。
市長一人じゃない。
住民が見てない町は、必ずぼやける。
見てる町だけ輪郭が出る。
だからせめて、
笑いながらでもいいから見てほしい。
――仮想東金市長・立川こしら、その先は。
その先ですか。
たぶんまた余計なもの作りますよ。
現実の東金にはない巨大施設とか。
でもそれでいいんです。
一回夢を見る。
そのあと現実を見る。
その順番のほうが、人は考えるから。
編集後記
立川こしらの活動は一貫して、
「新しい道具を芸にする」ことにある。
ネットが無敵になる道具だと語った時代から 、
一人でメディアを持つ発想へ進み 、
今回ついに地方自治そのものを“実況可能な物語”へ変換し始めた。
選挙を語るのではない。
都市を一度、演じる。
そこに落語家がいる意味がある。
プロフィール
立川こしら(たてかわ・こしら)
立川こしら
1975年、東金市生まれ。落語立川流真打。1996年に立川志らくへ入門、2012年真打昇進。古典落語を軸にしながら、配信、海外公演、ゲーム実況、AI活用まで領域を広げる“デジタル以後の落語家”。海外公演はオーストラリア、スペイン、アメリカ、インドなど各地で実施。近年は、地方とメディア、伝統芸能とテクノロジーの接点をテーマに、落語の外側から落語を更新する企画を多数展開している。著書ではITと落語を横断する語り口でも知られ、ネットや新技術を「芸人が一人で世界を持つための道具」と捉える視点を持つ
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「チップってさ、ほんとにありがたいのよ」
面白かった?ちょっと刺さった?
だったら気が向いた時だけでいいから、チャリーンと一発。
それだけで、「お、まだまだやれんじゃん俺」って気持ちになるからさ。
もちろん、スルーでも全然OK。
読んでくれただけで充分うれしいから。ありがとね!