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幻獣戦争 1章 1-1 再起する夕暮れ②

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序章 1章 1-1再起する夕暮れ②

「……本部長、我が軍には、いえ世界を見渡しても彼以上の先導者は居ない。私はそう思っております」
 若本君は努めて冷静に述べる。
「確かにそうかもしれない。しかしだな――」
「本部長。私は息子や孫にこの戦争を引き継がせたくありません。それは本部長も同じではありませんか?」
 渋る私の言葉を遮り若本君は語気を少し強め言ってきた。
「……そうか。君もそうなのだな」
 その言葉に私は白旗をあげる。その通りだ。私は私が生きているうちにこの戦争を終わらせたい。息子は間に合わなかったが、せめて孫には戦争のない世の中を生きて欲しいと思っている。これを言われてしまったら私は二の句を紡げない。

「しかし、傷ついた彼をもう一度担ぎ上げてしまったら、今度こそ本当に倒れてしまうかもしれん。そうなったらどうする気かね?」
「彼が倒れても我々が全力で支えれば良いだけです。既に準備は水面下で行われております。詳細は別の資料を後程持参致します」
 私の苦し紛れの問いに若本君は冷静に回答する。
「……まだある。最大の問題だ。彼をどうやって説得する?」
「それは私がこれから説得します」
 私の最大の問いに若本君はあっさりと答えた。
「そうかね、なら頑張りたまえ。首尾よく事が運んだら私のところに彼を連れてきてくれ。久しぶりに彼の顔が見たい」
「はっ! それでは失礼致します」
 私がそう言うと若本君は僅かに顔をほころばせるが、直ぐに引き締め敬礼すると執務室から退室していった。
「さて、彼に連絡しておいた方が良いな」
 私は持っていた資料をデスクに置き、備え付けの電話に手を掛ける。彼は何と言うだろうか?

 目を覚ますと俺は椅子に座らされていた。
 辺りを見渡しここが何処かを確認する……窓のない白一色壁に、学校でよく見かけるわかりやすいデスクと後ろに入口らしきドアがあるだけ。ここが取調室なのは間違いないようだ。ついでに腕に手錠もかけられていない……この間取り、自衛軍の施設だな。戦略機に乗っていたから当たり前の話ではある。問題はここがどの基地かという点……いや待て、自衛軍でこんな取調室の類があるのは情報部が設置されている所だけだ。九州で情報部が置かれている施設は一つしかない――
「九州要塞か……」
 思わずそう呟く。俺は意識を失っているうちに古巣に連れ戻されたらしい。となると、知っている人間がやってくる可能性がある。どうしたもんかな。

「目は醒めたかね、比良坂さん」
 対策を考える間もなく入口のドアが開き俺は目を向ける。現れた男は40代くらいで片手にノートを携えている。
「あんたは?」
 軽い調子で声をかけてきた男に問う。男は答えず整然とデスク向かい側の席に座り、ノートをデスクの手元に投げ、間を置かずしてわざとらしくわかるように大きくため息を吐く。
「私の名前は、若本(わかもと)勇司(ゆうじ)。君の取り調べを頼まれた者だ」
 男はデスクに片手を置き疲れた口ぶりで名乗る。
「俺は取り調べを受けるような事はしていないはずだがな」
 俺はデスクに手を置き軽い調子で言う。そう、実際していない。ただ、残念な事に処罰を受けることはしてしまっている。

「名前、比良坂(ひらさか)舞人(まいと)。15歳で自衛軍士官学校へ入隊。学科はそこそこ、実技はずば抜けて優秀。18歳で佐官教育課程士官大学へ編入、極めて優秀な成績で卒業。任官後は北海道、東北、関西、九州の数々の戦区において奇跡的な戦果を挙げる。隊員達の間では英雄と呼ばれ、神格視する者も少なくない。が、3年前突如退官。現在28歳、熊本県にある弾薬製造工場で従業員として働いている。この経歴に間違いはあるかね?」
 勇司は俺の言葉を無視して淡々と述べ訊き返してきた。
「一つ間違いがある。俺が辞めたの3年前ではなく、4年前だ」
「そうかね。だが、そんな事は正直どうでも良い」
 おどけてみせる俺に勇司はニヤリと笑みを浮かべ突き放す。
「だろうな」
「民間人の君が軍の兵器を勝手に使った。これは重罪だ」
 俺が頷くと勇司はわかっているだろうが、と告げてきた。

「5年以上10年未満の禁固刑だな。喜んで牢に入るよ」
「だろうな。私が君の立場でもそう答える。塀の中の方が安全だからなぁ。しかし、軍に大人しく堀の中に入れるほど余裕があると思うかね?」
 あっさりと返答する俺に、勇司は何処か芝居じみたように肩をすくめ訊き返してきた。
「重犯罪者と同様に幻獣の餌にでもするのか? どちらでもいいぞ」
 俺の質問に勇司はさらに大きくため息をつく。そこで気づいた。こいつも英雄をやっているんだなと。

次回に続く


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