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幻獣戦争 1章 1-3 嵐を呼ぶ天才⑩

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序章 1章 1-3 嵐を呼ぶ天才⑩

 九州要塞で幻獣出現の報を受けた私は朱雀君達と別れ、熊本赤十字病院総合グラウンドに敷設された射撃指揮所を訪れていた。事は一刻を争う。迅速に攻撃陣地の形成と地域住民の避難を終えなければ彼が危ない。

「住民の避難状況は?」
 仮設されたテントの中の入り口近くに陣取る私は、テーブルに設置した無線機器を使い各所と指示連絡をするために詰めている士官達に向け問いかける。

「まだ全体の3割程度です」
 私の傍近くにいた士官が手短に報告を返してきた。
「幻獣の襲来までもうそんなに時間は残されていないわ。手が空いてる者は住民避難の応援に回して、急がせなさい」
私がそう応じると士官はすぐさま無線機器を使い連絡を始める。
「水原一佐、水前寺地区の――」
 テントの奥側の席に座る別の士官が続いてそう声をかけてきた。
「応援を2名回して、タンスの脇に落ちてると伝えて」

 直ぐに私は制止して即答する。老婆がペンダントを探している光景が視えたからだ。この体、人間を辞めた影響で私は様々な能力を得ている。あの日、彼と共に戦って死んだ佐渡島で私は彼を助けるため精霊と契約を果たした。命の替えても、何としてでも彼を援けたかった(たすけたかった)。その求めに応じてくれた精霊の力を行使して、私は彼の助けになる事が出来た。しかし、精霊と契約した結果、私は触れるつもりがなかった彼の心に触れてしまい、彼は私達を失った喪失と悲しみで心に深い傷を負っていた。それだけなら慰める事もできたが、それよりも彼はずっと心中で幻獣と戦い続ける事に対して悩んでいた。

《――いつか、本当に守りたい仲間達を失うかもしれない》

佐渡島でそれが現実となり、彼はとてつもない後悔に苛まれていた……そんな彼に対して、私はどんな顔をして会えば良いか分からなくなった。私が傍で支えたところで彼は立ち直れる状態――いや、隣に行ってしまったら彼はまた無理をする。それが今度こそ取り返しのつかない事態を招くかもしれない。

 そう思うと私は怖くなった。彼を失うのが怖くて仕方が無くなり……私は彼の前から姿を消す事にした。その決断が良かったのかは、私自身、よくわからない。けれど、時が流れ彼は再び軍に戻ってきた……いや、戻されてきたと言うべきかもしれない。いずれにしても、弱りきっている彼を今度は私が守る番だ。かつて彼がそうしてくれたように……

「一佐――水原一佐、よろしいですか?」
「――何かしら?」
 問いかけられた士官に平静を装いつつ応じる。そうだ、今はこんな事を考えている状況ではない。
「はい。木山川沿いに展開している車両の配置はどうしますか?」
「そうね……10式戦車を軸に間に16式機動戦闘車を配置。自走とMLRSは布田川沿いに一部を配置して、間に合わない車輛は要塞から直接断続的に砲火を集中出来るようにして頂戴」

 私に目を向けながら問う士官に答え士官は『了解』と、頷き連絡を始める。
「一佐、よろしいですか?」
 また後ろから別に士官に声をかけられ、私は振り向き入口傍に居る士官に目を向ける。
「この子が避難の際に保護者をはぐれたようなのですが……」
 士官は困り顔で手を繋いている幼い少女に目を向け言ってきた。
 士官の隣で泣きそうな顔をしている少女の頭に私は手を置く。
「両親なら第3避難施設よ。この子を心配しているから早く言ってあげなさい」
 視えた映像と声を聴き私は士官に微笑み告げた。

「……了解!」
 士官は少女から手を放し敬礼すると、少女を抱きかかえ足早に去って行った。その光景を私は微笑ましく見送る。
「一佐! 神代試験隊……いえ、比良坂陸将達が現地に踏みとどまるそうです」
「何ですって!」
 先程問いかけてきた士官が新たな情報を伝えてきた。私は驚きながら詳細な状況を知るため、指揮所奥に座る士官に足を向け、別の士官が指揮所中央のテーブルに地図を敷く。大人しく神代博士達を退避してくれて構わないのに――彼はいつも無理をする。誰もそんな事を望んでいないのに…… 

ここまでお読み頂きありがとうございます! 

次回に続く


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