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幻獣戦争 1章 1-2 不在の代償④

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序章 1章 1-2 不在の代償④

「そうですね……まずは欧州から説明させて頂きます。現在の欧州は、幻獣の本拠地と目されるラング帝国とランス王国を境に国境沿いで激しい防衛戦が繰り広げられています。そのため人的資源の損失が著しく敗戦が近い事が予想されています」
 続けて陸曹は地図中央ラシア大陸全体を赤くマーキングする。欧州……幻獣戦争始まりの地であり70年余続く激戦地。欧州一丸となって頑強に抵抗を続けている他方で、幻獣が欧州人民を嬲り続ける地とも言われている。幻獣の戦力から鑑みれば既に欧州は瓦解していてもおかしくはない。
「次に大陸ラシア連合ですが、満州崩壊後河北から済州が激戦地となり劣勢を覆せないまま戦線が押され、首都を大陸から門島に遷都する情報があがっています。同様に我が国と同盟関係にあるスラビア連邦は、ノーム州に撤収後防衛戦力の一部を樺太と大陸ラシア連合に合流させ共に戦線を支えています」

 陸曹は説明を終えると大西洋の先、東部メリア大陸を赤くマーキングする。幻獣戦争勃発前までは世界最大規模の軍事力と経済力を有していたメリア連合だ。我国とも同盟関係にあるがその実情は侵略に近い形になっている……さて、どうなっていることやら。

「それから、スラビア連邦にノーム州を居住地として提供したメリア連合についてですが、幻獣の侵攻によりメリア大陸西部全域が主戦場となり、殲滅のため使用した戦術核の影響で西部地域全域は汚染された大地と化しています。しかし、現在も大陸西部全域で幻獣との戦闘は続いており、国民の安全確保のために日本へ居住地の提供を要求。現政府との外交交渉が難航しております」
「やっこさんの我儘ぶりは今でも健在なわけか。先の世界大戦では負けたわけでもないのに横須賀、三浦を盗られた挙句もっとよこせか……他にも要求してきているんじゃないか?」
 困った口ぶりで呟く俺に陸曹は頷き報告を続ける。そう言えば退官する前も連合とは揉めていると言う噂を耳にしていたが、4年経っても丸くなっていないわけか。悲しいというか寂しいものがある……仲間割れをしている場合ではないと思うのは俺だけなのかもしれないな。

「はい。神霊(フォース)機関(エンジン)の技術(ブラック)情報(ボックス)開示や国連軍(メリア連合軍)が速やかに展開できるよう国内法の改正など、かの国の要求は止まる事を知りません」
「神霊機関の技術情報? 各国で生産できるよう殆ど開示していたはずじゃないのか?」
「陸将のお言葉通り製造に必要な情報は提供しております。しかし、どうもメリア連合は精霊に頼らない神霊機関の開発を目指しているようで、いくつかの工程で実現不可能な技術が使われていると誤解しているようです」
「確か神霊機関のコアユニットは、精霊か精霊を媒介できる術者にしか作れないはずだが、連合には術者と呼べる人間が居なかったな」
「はい。そのためコアユニットだけは我々が製造し輸出という形式をとっています。ですが、連合の技術者は正しい認識をできる人間が居ないようです」

「ふふっ陸曹も中々言うじゃないか。しかし、核か……確か欧州も使っていたな」
「はい。欧州では開戦初期に運用され多くの犠牲者を出しています」
「核を使っても尚、奴らと対等に戦えない。このどうしようもない事実が連合の焦る理由なんだろうな」
 陸曹の回答に俺は寂しく呟く。開戦当初は砲弾ひとつで消えていた存在が砲弾をものともしない存在になり、倒しても復活する存在となった。今でこそ封魔鉄と精霊のおかげで何とかなってはいるものの、およそ生物の理から外れた存在に人類は勝利し得るのか? そんな疑問が多くの人間に焦りを生ませているのだろう……誰だって逃げたくなるさ。

「――トリア共和国との仲はどうなんだ?」
「変わらず友好な関係を築けております。南極方面から侵攻してくる幻獣に手を焼いているようですが、日本、ひいては世界の兵站を担っている自負はあるようで生産拠点の被害は出ておりません。また、幻獣による通商破壊も現時点では発生しておらず物資の供給に問題はありません」
 俺の問いに陸曹は、日本より南方に位置するトリア大陸をマーキングして答える。現世界において最も被害が少ないトリア共和国。南極方面に位置するこの国は幻獣戦争勃発後、世界のエネルギー、食糧、産業の供給国として世界中の国々から出資を受け開拓され、現在では世界の胃袋、生命線として戦場と現存する国々を支えている。特に日本との交易関係は深く、トリア共和国との供給ラインが絶たれたら、戦況はより厳しいものになるだろう。

「それが唯一の嬉しい情報か。メリア連合と政府の動向は注視しておいた方が良いか」
「はい。それから確認はとれておりませんが、どうやら連合はスラビア連邦に居住地提供の対価として、戦力の提供を迫っているようでして現在情報部が調査中です」
「なるほどな。家賃を払えと迫っているわけか。連邦もさぞ肩身が狭いだろうな」
 陸曹の追加情報に俺は呆れ気味に頷く。連合はこの状況下で世界征服でもやる気なのだろうか? 世界征服した後に待っているのは幻獣による破滅だけだと思うんだがなあ……それとも奴らを殲滅できる算段でもあるのだろうか? いや、あったら自国を放射線まみれにするわけがない……

「報告は以上です。陸将、今後の予定ですが……」
「座学以外に何かあるのか?」
「はい、パイロット訓練です。若本陸将補から『勘を取り戻せ』と、言伝されています」
 陸曹は俺の問いに答える形で述べた。
「そうか――編制に時間かかるようだな」
「いえ、それも来週までには完了させる予定だそうです」
 そう察した俺の呟きに陸曹はそう補足する。
「あいつ本当に手際が良いが、無茶苦茶だな」
 俺はこれまでの事を思い返しぼやく。復帰に昇進、やることは通常の手続きからかけ離れすぎている。
「陸将が戻ってきた時点で十分無茶苦茶だと思いますが?」
「ははっ言うじゃないか。これからも新人達をよろしくな」
 そんな俺を陸曹は苦笑しつつ茶化してきた。俺はその事実に同意する。確かに無茶苦茶だ。とても軍隊がやる事じゃない。

「はっ! 新兵の教育は私の使命です」
「そうか……では、失礼するよ」
 胸を張る陸曹を見て俺は立礼し座学室を後にした。
 使命か。彼女の使命がそうなら俺の使命は世界を救うことなのか? 考えても答えなんぞ出てこないか……
 

次回に続く


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