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幻獣戦争 2章 2-1 不死鳥は灰の中で怯える

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幻獣戦争 2章 2-1 不死鳥は灰の中で怯える

 隠岐の島攻略作戦が正式に決定され、初陣となる九州要塞新生第一戦闘師団は作戦準備に追われていた。
 中でも特に戦略機部隊の隊員達は短い時間の中、大隊長である小野一樹一佐の指揮下で、新型戦略機10式ミカヅチの慣熟訓練に日々汗を流していた。

10式ミカヅチはロールアウトした機体が少数であり、隊員達は実機による訓練と、シミュレーターによる訓練を午前と午後に分け、小隊単位で訓練する毎日で、訓練が終わると文字通り1日が終わりを迎える。
 その日、僕はいつも通り訓練を終え仲間と共に夕食を済ませた後、シミュレーションルームで一人精密射撃の訓練に勤しんでいた。

「――クソっ、これじゃダメだ」
 僕は観戦席で自分のリプレイを確認して愚痴る。ターゲットから弾道が微妙に逸れている。大型幻獣の撃破を託された日から、僕は訓練が終わった後、こうやって独自に射撃プログラムの改善と射撃訓練に励んでいた。実際の的はかなり大きいので、正直ここまでする必要はないかもしれない。

 だけど、失敗すれば責任を被るのは僕ではなく陸将だ。僕を信頼して託してくれたんだ。絶対に失敗するわけにはいかない。僕は、観戦席で射撃プログラムを修正のために持ち込んでいるノートPCを徐に開く。

「ターゲットはオーガ型ですか……えらく難易度をあげていますね?」
 声がして振り向くと、観戦モニターに映している僕のリプレイを眺める一樹一佐が立っていた。
「一樹さん! どうしたんですか?」
 僕は慌てて立礼する。いつも思うけど忍者みたいな人だな本当。
「うーん……どうした、ですか。そうですねえ……頑張っている部下を冷やかしに来た。というのはどうです?」
 一樹さんは悪戯っぽく微笑み答える。どうですって……冗談でも質が悪いですよ。一佐。

「それ冗談ですよね?」
「勿論。そんな事よりどうしてオーガ型なんですか? 標的は大型幻獣でしょう?」
 僕の問いに即答すると改めて一樹さんは質問する。
「その通りです。でも、大型幻獣が鈍重とは限らないし位置を誤魔化してくるかもしれない。しかも長距離から射撃するので、標的はこのくらいのサイズが丁度良いんです」
「なるほど。しかし、射撃プログラムを弄るのは結構ですが、今の貴方に必要なのは別の物だと僕は思いますがね」
 僕の言葉に一樹さんは微笑んだまま僕を見て指摘する。

「別の物?」
「貴方の言う通り、狙撃は当日の天候によって微妙に環境が変わります。現在では天照による補正もありますが、ジャミングされてしまったらそれまでです。なので、最終的には本人の経験と勘による修正が必要になります。だから、この訓練自体は間違ってはいない。しかし、大切なところを見落としている」
 いまいちピンと来ていない僕に一樹さんはそう言葉を続ける。

「何を見落としているんですか?」
「貴方の心、自信です」
「自信……ですか」
 一樹さんの指摘に僕は思わず困り気味に言葉を漏らす。そんな事言われても、僕はそんなに買い被られる人間なのだろうか?

「陸将は貴方の能力を見抜いている。僕は知りませんが、貴方が訓練生だった時代、陸将は貴方の実力を裏付ける何かを見ている。だから、他の者がケチをつけようが君を選んだんです」
「えっ? ブリーフィングで何か言われたんですか?」
 一樹さんの言葉に思わず僕は訊き返す。陸将に迷惑がかかっているのだろうか?

「貴方を変えるべきじゃないかと提案されましたよ。陸将は応じませんでしたがね。ですが、このままでは作戦が失敗してしまうかもしれない――今ここで、貴方に試練を課します」
「……」
 困ったそぶりを見せ言う一樹さんに僕は沈黙して言葉を待つ。何をやらせる気だろうか?

「今モニター映っているオーガ型をもう一度狙撃してください。失敗した場合、貴方を選抜メンバーから外します。ああ、修正したプログラムもなしですよ。そんなものなくても貴方なら出来るはずです」
 一樹さんは笑みを消し真顔で告げる。言葉と態度からしてそれが本気なのは直ぐに理解できた。僕は開いていたノートPCを手渡しシミュレーターに乗り込む。

「……貴方は大事な局面において、失敗をしない。それを陸将は知っているんですよ」
 朱雀がシミュレーターに乗り込んだことを確認して、私は観戦モニターに目を移し呟く。

 シミュレーターに乗り込んだ僕は、前と同じシミュレーションを開始する。動くオーガ型を狙撃するごく単純なものだが、通常と違うのは天候がランダムという点だ。機体の起動チェックシーケンスが始まり、シミュレーションプログラムが開始される。地形は瓦礫の市街跡地。天候は嵐。標的のオーガ型は40キロ先をジグザクに走っている。

 風速20メートル、大雨。僕は目を瞑り深呼吸を2度、3度繰り返し、目を開けコックピットモニターに映る標的を拡大する――絶対に失敗するわけにはいかない。僕は陸将の信頼を裏切りたくない! もう一度目を瞑る……標的を打ち抜くイメージが浮かび上がる。

「……当たる」
 僕は目を開き、イメージ通りプログラムを調整しトリガーを握る。深くゆっくりと息を吐き、トリガーを引いた――滑空砲から放たれた弾丸は、風と雨を斬り裂き動くオーガ型を貫通する。この日、初めて僕は動く標的に弾丸を命中させることが出来た。

 プログラムが終了し、僕は一度深呼吸してからシミュレーターを出て観戦席に戻る。すると、リプレイを見ていた一樹さんが、僕に振り向き笑みを浮かべノートPCを差し出してきた。
「今の気持ちを、忘れないでくださいね」
「――はい!」
 一樹さんの言葉に僕はノートPCを受け取り敬礼した。
 

ここまでお読み頂きありがとうございます! 

次回に続く


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