幻獣戦争 1章 1-2 不在の代償⑦
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序章 1章 1-2 不在の代償⑦
勇司と別れ格納庫に着いた俺はその足で機体が置かれている整備区画へ向かう。整備区画は自衛軍重要区画のため、IDカードによる認証がなければ開けることが出来ない扉で固められている。俺はその扉の前に立ちIDカードを扉のリーダーにかざす。ピーっと音がして扉のロックが解除され整備区画への道が開いた。因みにパイロットスーツを着ていた場合は、生体認証で自動的に開くようになっていたはずだ。無論昔の話だが恐らく今でもそうだろう。
整備区画の長い廊下を抜け出ると、機体が置かれている区画に辿り着く。ところかしこに懐かしい兵器が並ぶ光景が目に飛び込んでくる。手前には、最新型の10式戦車とその戦略機版、90式戦略機が並び、奥の方には74式、87式、89式、装甲車両が区画を分けて整然と並んでいるのがわかる。やはり兵器が並ぶ姿は壮観だ。
俺はその足で90式戦略機が置かれているスペースに向かい、正面に立ち見上げる。整備中の隊員達が、突然やってきた俺を不思議そうに見るが構わず眺める。昔懐かしい俺の愛機だった90式は、74式と違い武骨なデザインで胸部、腕、足、各部に装甲が増設され多少角ばったボディになっているが、それに見合うだけの防御力を備え、右手から肩に移った一二〇ミリ滑空砲は多くの幻獣を打ち抜いてきた。
また、変形機構をオミットすることによって、脚部と肩部にコンテナミサイルを搭載して推進力と積載力を向上。大型バックパックを装備させることができるようになった。後期生産型はこのオミットタイプが重宝され多くの90式が改修されていった。また、それに伴い、一二〇ミリ滑空砲も取り回しが良くなるように大型バックパックへ搭載され、滑空砲以外にも大口径のガトリングや多連装ロケット砲など、様々なバリエーションが生まれていった。この90式で培った技術は10式に継承され、90式より小型で大火力を実現した。
俺が最後に乗っていた頃は当時愛機だった10式をぶっ壊されて、基地に残ってた90式を無理やり改修して戦ったけな……懐かしいが、やはり思い出すと辛くなる。
「色々あったなぁ……」
俺は90式を見上げたまま感慨深くポツリと呟く。
「おや、ここは民間の方は立ち入り禁止ですよ?」
不意に皮肉交じりの声を掛けられ、俺は声の方へ振り向く。視線の先にはパイロットスーツを着た男が立っていた。帰還したばかりなのか、ヘルメットをわき抱え男は俺に近づいてくる。
「……」
「……おかえりなさい」
かける言葉が出ない俺をよそに男は隣に立つと、同様にかけて良い言葉がみつからないのかそう言った。
「……ただいま」
「良かったんですか? 戻ってきて」
一言返す俺に男はやさしく問いかける。
「正直に言えば、良かったとは言えないな」
俺は短く答えた。
「舞人、貴方が決めて戻ってきたなら僕は何も言いません。ですが、もしそうじゃないなら――」
「なあ一樹。どうも俺の周りには諦めが悪い奴らが多いらしい」
俺は一樹の言葉を遮り言う。小野(おの)一樹(いつき)一等陸佐、俺の親友にして生き残っている唯一の戦友だった男。肩の階級腕章からするとその地位になる。どうやら昇進しているらしい。4年もたてば昇進もするか……
「ええ。人類も精霊も諦めが悪いんですよ……でも、一番タチが悪いのは舞人、貴方ですよ」
俺に微笑みを向け一樹は言う。
「俺がか?」
「何も諦めていない癖に諦めたフリをしているんですからね」
俺は一樹に、どうして? と目を向ける。すると、一樹は俺の核心を突くよう告げる。
「俺は――」
「だってそうでしょう? 現にこうやって復帰しているんですからね」
一樹は俺の言葉を遮って言うと微笑んだ。
「ふっはは……そうだな。俺はタチが悪いんだろうな」
「若本陸将補から貴方が復帰したと連絡を受けたとき、なんの冗談かと思いました」
微笑みに釣られ笑う俺に一樹は肩をすくめ言う。
「だろうな」
その言葉に俺も同意する。自分でも信じられないくらいだ。
「正直、僕らを嵌めて殺す気なのかとさえ疑いましたよ」
「お前にとって勇司はどういう人間なんだよ……」
冗談と受け取れない例えで言う一樹に俺はうんざりする。
「そのくらい驚いたという事ですよ……水原さんの事は聞いてますか?」
「聞いたよ。なあ、どんな顔をして会えば良い?」
あっけらかんに答え改めて訊ねてくる一樹に俺は相談するように問う。
「気にしなくて大丈夫ですよ――ああ、一人で会うのが怖いんでしょ?」
一樹は微笑んだまま気づいたように疑問を投げかける。
「俺は、別に……」
「図星ですね。何年貴方の相棒をしていると思っているんですか……ははっ。大丈夫、私も同席しましょう」
反射的に肩を揺らす俺の狼狽ぶりに一樹は悟ったように笑い答えた。
「そうか! ありがとう」
「そんな所は昔とちっとも変わりませんね。本当」
俺の豹変ぶりに一樹は困ったように呟く。今も変わらず本当に頼りになる。
「ははっ。すまん」
「良いんですよ……本当に舞人なんですね」
バツ悪そうに軽く答える俺を、何処か安堵した素振りで一樹は呟く。
「どういう意味だ?」
「本当に無事でよかった。悪しき夢に憑りつかれているかもしれない。そう思っていたんですよ」
俺は意味が解らず訊き返すが、一樹はそう言って胸を撫でおろしているようだった。皆に心配をかけてしまっているんだな……本当にすまない。
次回に続く
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