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幻獣戦争⑥

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序章 絶望が希望に勝利した日――⑥

 全てが終わり、私は塊と化した10式戦略機のコックピットから這い出て、残骸の山に立ち外気を感じる。眼下に広がる戦略機の残骸と砲撃による窪地は、この場で戦闘があった事を裏づけ、吹き荒ぶ風と共に運ばれてくる焼け焦げたような臭いが、これが現実だと実感させる。

 私の祈りはあの大型幻獣の動きの殆どを封じ、彼に力を与え、結果彼を救うことが出来た。しかし、彼の心はそうではない。私達は戦闘に勝利して戦争に敗北したのだ。

「……これからどうするべきかしら?」
 先ほどまで乗っていた自機の残骸に目を落とし私は自問する。このままひょっこり彼の下に戻れば、彼はまた無理をする。彼のためを思うなら戻るべきじゃない。この与えられた力で私は何を成せば良いのだろうか?

「――当てがないなら私達に協力しない?」
「――誰!?」
 下の方から唐突に声を掛けられ、咄嗟に身構え相手を探す。声の主は真反対の残骸の山から、ひょっこり顔を覗かせ私を見上げていた。こんな所に人? ありえない……まさか幻獣? 

 私は腰のホルダーから銃を抜こうと手をかけた――

「まった! 私は敵じゃないから落ち着て頂戴!」
「敵じゃないなら何なのよ!」
 ホルダーに手をかけようとしたところで、声の主は慌てて手を挙げ瓦礫の山から自分の姿を露にする。白衣を着た女性のようだが会った事がない。

「こんな所に民間人がいるわけがない――何者よ!」
「簡単に言うなら……貴方と似た存在ってとこかしら。敵じゃないから警戒を解いてくれない?」
 ホルダーに手をかけたままの問う私に女性は手を挙げたままそう答える。

「私と同じ存在なら銃なんて無意味よね……要件を伺おうかしら?」
「助かるわ。私は、あの人と言うか、あの御方と言った方が良いのかしら? まあ、貴方を蘇生して使徒化した人とは、力は劣るけど同種の存在よ。この国に古くから協力を続けているわ」
 私がホルダーから手を放し警戒を解き問うと、彼女も両手を降ろし仰々しく自己紹介する。この国に古くから協力している存在……つまり彼女は精霊の一人と言いたいのかしら?

「その存在が敗軍の兵に何の御用なのかしら?」
「敗軍……ね。確かに貴方の言いたいことはわかる。けど、まだ終わってはいないわ。彼は生きているもの」

「私達のことを何も知らない貴方が何を期待しているか知らないけど、彼はもう立ち上がれない。私達も彼が居なければ戦うことはできない。今日ここで人類の希望は潰えたのよ!」
 彼女の無遠慮な希望に私は思わずそう言い放つ。私は彼女に苛立っているのだろうか? それとも自分にだろうか?

「私達も今日この結果を見るまで貴方達と一緒だったわ……私達はもっと早くに手を貸すべきだった……癪だけど、あいつの、若本の言う通りだったわ」
「この状態で手を貸すことを決めるって、貴方達何を見ているの?」
 彼女の言葉に私は訳が分からず問い返す。今更手を貸してももう手遅れよ。それよりも、若本って情報部で噂されている彼のことかしら?

「言いたいことはわかるわ。私達もついさっきまでそうだったから、でも今は違う。貴方の力でもあるけど、彼は自分の力で死の運命、いや事象を上書きして自分の死を回避した。これは人類を超える可能性がある人間にしか恐らく出来ない。前例からすれば間違いなく、彼は今回の世界的災害の終端点。解決できる存在よ」
「ごめんなさい。貴方が言っていることがまるで理解できないわ。だけど、仮に彼が救世主のような存在だったとしてそれが何よ? 見殺しにした貴方が勝手に期待して良い問題じゃないわよ!」
 彼女の言い草に私はますます苛立ち語気を強め反論する。彼が救世主ならどうしてもっと早くに手を貸さなかったのよ! 彼を絶望のどん底に叩き落して何がしたいのよ! ふざけんじゃないわよ!

「彼が今無理なのも、貴方の怒りも、私達が身勝手なのも全部理解しているわ。だから、準備するのよ。これから先の未来に備えて」
「……未来に備える?」
「そう。可能性は潰えていない。いつか彼が再起する日が来るかもしれない。その時のために今から準備するのよ。それに協力してくれないかしら?」

「――無駄になるかもしれないわよ?」
 彼女の申し出に私は真意を量るように問う。彼が再起する前にこの国が亡ぶ可能性すらあるのに、本当にやるつもりなのかしら?
「それでもやるわ。彼が未来を切り開いてきたように私達も彼と世界の未来ためにもう一度奮起するのよ」

「……わかった。どうせ行く当てもないし貴方達の傍で見定めさせてもらうわ」
「おっけー。それじゃあ、迎えを呼ぶわ」
 私が皮肉ぎみに同意すると彼女は意を介さず頷き、何もない空間に通信端末を作り出し手に取った。えっ?

「えっ? ああ、このくらいの芸当は朝飯前よ」
「……」
「――もしもし若本……うん。交渉は成立よ。迎えを寄こして頂戴。えっ? 疲れるから嫌に決まってるじゃん。それじゃよろしく!」
 私もあんなこと出来るのかしら? そんな事を考え絶句していると彼女は早々に交渉を終えた。

「えっ、ええ。よろしく」
「それじゃ海岸までちょっとお散歩しましょうか。道すがら色々教えてあげるわよ」
 私が気後れ気味に頷くと、彼女はそう言って通信端末をポケットにしまい海岸へ向かって歩き始める。私も残骸の山を下り彼女の下へ駆け寄より後に続いた。

 こうして私達の戦いは終わりを迎えた。これから先の事はわからないが、時間が彼の傷を少しでも和らげてくれる……そんな淡い希望を胸に秘めて、逝ってしまった皆の分までもう少し頑張ってみよう。それが生かされた私の役割なのかもしれない。
 

次回に続く


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