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幻獣戦争⑤

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序章 絶望が希望に勝利した日――⑤

 急速に力が抜け、コックピットシートに体が沈み俺は笑い続ける。機体は両腕を失い結局生き残ってしまった。

 何が仲間を守るために戦っていただ! 守るどころか守られていただけじゃないか! 止めるべきだった! 辞めるべきだった。こうなる前に! 草薙さんを! 信介を! 秀吉を! 信康を! 黄泉を! 説得するべきだったんだ……こうなる前に、こうなる前に!

「何で俺は戦い続けたんだ? あの人に託されたからか? 世界を救えると思ったからか? 違う! 仲間の未来を守りたかったんだ! その結果がこのザマか!」
 コックピットに俺の言葉が虚しく響き体が反応するように項垂れる。

 幻獣を駆逐することが仲間の未来を守ることだと……できるわけがないのに、できると……仲間が望む姿をいつの間にか演じきってしまっていた。
「はははははははは! あはははははははははははははは!」

 自分の滑稽さが堪らなく俺は笑い続ける。ひとしきり笑い終えると、涙が頬をつたっていることに気づく……俺は泣いているのか……ああああああああああああああ! そこから先の事はよく覚えていない。気づいたら目の前に母艦があった。

 推進剤も殆ど残っておらず、歩いて母艦に戻ってきたのだろう。識別信号も喪失している状態でよく残っていてくれたものだ。本来ならKIA 扱いで撤収されていてもおかしくはない。俺はペダルを踏み、母艦の戦略機発艦口である後部甲板に残りの推進剤を使い飛び乗る。

 わざわざ空けてくれている後部甲板に着地。機体の膝を折り降りやすい態勢に整えると、整備士達が我先にとホースを持って現れ機体に水を放水し始める。その仕草がコックピットモニターからも見てわかり、本当に帰還したことを理解する。

 コックピットモニターに表示されている機体ステータスの殆どの部位が真っ赤に染まっている。機体のボロボロ具合がこちらからでも一目でわかり、外はもっと酷く見えているのかもしれない。俺は主機の火を落とし端末を操作してドアブロックを解除する。

 プシュぅという音と共にドアブロックが開き、簡易階段が自動で作られ甲板に接地。俺は機体から降りながら海風を感じ、共に運ばれてくる焼け焦げたような臭いに生きていることを実感する。

 甲板に降り立った俺は佐渡島に振り向く。夕陽が島に沈んでいく姿がどうしようもなく美しく、夢ではない現実に打ちのめされる……この結末はあまりに残酷だ。

「……おかえりなさい」
「……」
 呆然としている俺に後ろから声を掛けられ、振り向くと右腕を吊っている一樹が立っていた。

「俺はこんな結末を迎えたくて戦っていたわけじゃない」
「……ええ」
 抑揚のない俺の言葉に一樹は表情を歪ませ頷く。俺は今どんな顔をしているのだろうか? 散々喚いたせいか何も感じない。

「……何がいけなかったんだろうな」
「……」
 懺悔にも似た吐露に一樹は沈黙を返す。適当な言葉を紡いだところで、何も解決しないことを理解しているのだろう。

「――もう、ここまでにしないか? 俺はお前や教え子達まで失いたくはない」
「……」
「……艦長に報告してくる」
 俺の問いに一樹は答えようとしなかった。軽く息を吐き、俺は艦橋へ向かうべく一樹の脇を通り過ぎる……俺達の戦いはここで終わったのだ。

 彼の問いに僕は答えられなかった。どう取繕ったところで今の彼には何もとどかない。あの涙の痕が、呆然とした顔が彼の心を表している。僕達は幻獣に今日完全に敗北したのだ。

 もう立ち上がることはできないかもしれない……この忌々しい怪我さえなければ、僕が傍に居れば、この結末は回避できたかもしれない。しかし、この結果が今の僕にできる精一杯だった。

 希望は潰え、絶望がより一層深まる。この先僕達に逆転の機会が訪れるだろうか? 彼はもう一度立ち上がれるだろうか? それは僕にもわからない。
「……貴方の未来は貴方が決めてください」
 僕は小さく呟き、夕日が沈む佐渡島に目を向けた。

 まだ居るであろう彼女の選択に期待して。

次回に続く


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