幻獣戦争 1章 1-3 嵐を呼ぶ天才⑫
2023.04.06『幻獣戦争』より発売
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序章 1章 1-3 嵐を呼ぶ天才⑫
「頼んだぞ。それから、第3警戒ラインに展開している海上艦隊を第1警戒ラインまで後退。航空にCAPを要請をしておいてくれ」
「――了解!」
俺の指示に一佐は素早く走り去っていた。多少越権行為ではあるが後は向こうが連絡してくるだろう。その時話せば良い。俺は執務室に戻り自分のデスクに腰を降ろす。この基地の執務室も基本的には要塞の執務室と変わらない造りになっている。違う点があるとすれば、デスク右壁側にコミュケーション用のスクリーンがある点だろう。
デスクに腰を降ろして直ぐ備え付けの電話が鳴り受話器を取る。
「――どうした?」
「海野海将と城島空将から通信が入っております」
「わかった。こちらに回線を回してくれ」
連絡を寄こしてきた士官にそう告げ、俺は電話に用意されている赤いボタンを押し受話器を戻した。すると、デスク右側にあるスクリーンに白と青の制服を着た壮年の男性達が映しだされる。
「要件は分かっています。緊急事態とはいえ越権行為をお許し願いたい」
俺は襟を正し映し出された二人のそう謝罪する。第3戦闘師団というより自衛軍の軍統制は実は少しややこしい統制なっている。戦闘師団自体は陸海空の戦力をまとめた構成となっているが、実は陸海空それぞれの部隊において三者三様のトップが存在しており、部隊全体を動かす場合、事前の協議が必要となる。1個にまとまっているようで現実はまとまっていないのだ。
「状況は伺っております。それよりも警戒ラインを下げてしまって大丈夫でしょうか?」
スクリーン左側に映る白い制服を着た海野海将が問いを投げかける。
「仮にですが、要塞の戦力が潰されてしまった場合、幻獣は南下してくる公算が高いでしょう。現在万が一に備え県境に防御陣地の形成を急いでいますが、幻獣が南下してきた場合自ずと海上戦力の支援が必要になります。ここはやむを得ないでしょう」
「いえ、馬場陸将の意図は理解しております。我々が問題視しているのは、メリア連合がこれを機に攻めてこないかと言う点です」
俺の言葉にスクリーン右側に映る青い制服の城島空将が見解を述べる。確かに可能性としてはあるが、奴らにそこまで戦力を割く余裕があるだろうか? 中央の連中に国連軍と言う形で侵略行為を実施している連中が、こちらに目を付けてくることは可能性としては低い。
「確かに可能性としてはないわけではないでしょうが、現在の情勢下では限りなく低いでしょう。仮にですが、奴らが攻めてきても相手は人間です。化け物どもよりも楽な相手だと思いますよ?」
「はっはっ、確かに連中を相手にするより遥かにマシですな」
俺の皮肉に海野海将が軽く笑い言う。
「なるほど。陸将の方針は理解しました。しかし、何といいますか、中央の連中は面倒な統制が好きなようですな」
「こんな事なら、第2戦闘師団のように指揮統制を試験的に統合してしまった方が良かったかもしれませんなあ」
城島空将の言葉に俺は素直に頷く。確かに同じ地位の人間が雁首揃えて話し合うのはあまりにも非効率。一人の指揮官に幕僚として加われば済んでしまう問題だ。
「それをすると中央の官僚共はお得意の政治闘争と言いますか、階級の上げ下げをしないと気が済まないのでしょう」
「奴らが現実を見ていないのはいつもの事です。しかし、本当に応援を送らなくても宜しいのですか?」
「確かに防御陣地を形成した上で応援を送るのが最良です。ですが今回は時間が足りない。奴らの襲来が明日なら私も応援を送る事に反対はしません。が、恐らくこうしている間に戦端は開かれているでしょう。それを考えますとやはり遅い」
城島空将の指摘に俺は冷静に答える。そう、既に遅いのだ。襲撃が明日ならまだやりようはある。恐らく第2師団の連中も似たようなことを考えているだろう。
「歯がゆいですな。援護の一つすら出来ないとは」
「何、事態をそう深刻に捉えなくても良いでしょう。私はこれでも楽観視してましてね。化け物殺しが何とかしてしまうと思っているんですよ」
悔しがる海野海将に俺は軽く微笑み言う。そう、化け物殺し。近年数々の戦場で勝ち続けた比良坂が現場にいるのだ。どういう経緯で復帰したかは知らないが、幻獣共があいつを倒せる可能性は低いと俺は思っている。
「化け物殺し……なるほど、比良坂殿に期待しているのですな」
「ええ。対幻獣戦において奴ほど適確に勝利してきた男はいませんからな」
城島空将の言葉に俺は頷く。
「では、我々はあくまで保険ということですか」
「そうです。無用の心配かもしれませんがね」
「はっはっは――では、我々も無用の心配に精を出すこととしましょう」
海野海将は軽く笑い言うと通信を終えた。
「では、我々は万が一に備えAWACSも同行させておきましょう」
城島空将はそう言葉を残し通信を終えた。
二人が居なくなり俺は椅子に体を預け天井を見上げる。
「万が一……か。頼んだぞ比良坂」
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次回に続く
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