もしも不老不死が実現したら|不老不死の社会で、人はなぜ動かなくなるのか
こんにちは、ユラです。
もし、あなたが
もう老いることも、死ぬこともないと分かったら。
今日の予定は、
変わりますか。
不老不死が実現した社会では、
人はもっと自由になるのか。
それとも、動かなくなるのか。
「終わりがない人生」は、
私たちの選択をどう変えるのか。
そんな未来を、少しだけ覗いてみましょう。
不老不死が実現したとき、
最初に変わったのは、医療ではなかった。
制度だった。
「……寿命欄、どうします?」
担当者が、画面を見ながら言った。
申請フォームの最後に、
新しい項目が追加されている。
——想定活動年数
「年齢じゃないんですね」
「はい。
年齢は、もう意味がありませんから」
不老不死は、
「死ななくなる技術」として発表された。
老いない。
病まない。
事故さえ避ければ、終わりがない。
最初は、祝福された。
「これで、やっと落ち着いて生きられる」
「焦らなくていい」
「選択を間違えても、やり直せる」
誰もが、そう言った。
数年後、
履歴書の書き方が変わった。
「30年の経験」では、足りない。
「200年の経験」も、
評価にならない。
長さは、
もはや価値ではなかった。
「この人、すごい経歴ですね」
「はい。
でも、全部“途中”です」
「途中?」
「どの仕事も、
辞める理由が
“飽きたから”しか書いていない」
不老不死は、
時間を無限にした。
その代わり、
区切りを奪った。
結婚制度は、
静かに崩れた。
「一生一緒に」は、
重すぎた。
「とりあえず、
50年」
そんな契約が増えた。
更新制。
途中解約可。
誰も怒らなかった。
子どもを持つかどうかも、
変わった。
「今じゃなくていい」
「いつでもできる」
そう言い続けて、
誰も決めなかった。
「急ぐ理由がないと、
人は動きませんね」
誰かが言った。
「はい」
「でも、
急がされるのも嫌だった」
「難しいところです」
学校は、
閉じなかった。
卒業しなくなっただけだ。
「学び続ける場」になった。
在籍年数、無制限。
「この人、
まだここにいますよ」
「何年目ですか?」
「112年目です」
「……ベテランですね」
「はい。
でも、
いつでも辞められます」
不老不死は、
人を縛らなかった。
縛らなかったからこそ、
動かなくなった。
ある日、
申請が届く。
——活動終了の申請
「……終了?」
「はい。
制度上の“終了”です」
「死ぬわけでは?」
「いいえ」
「じゃあ?」
「社会的に、
何もしない状態になります」
理由欄には、
こう書かれていた。
——やり切った感じがしないまま、
ここまで来てしまいました
不老不死は、
命を伸ばした。
でも、
「いつ終わるか分からない人生」は、
始めどきを、
どんどん先送りにした。
もしも、
本当に終わらないなら。
人は、
「今やる理由」を
どこに置けばいいのだろう。
終わりがない世界では、
覚悟だけが、
ずっと未完のまま残っていた。
