駐妻で超社交的で育児中の友人に贈りたいエッセイ6冊+α
いや、あの、先に言い訳すると、私、エッセイは割と大好きなジャンルでして。
ポッドキャストを一緒にやっている相方でもあり友人でもあるかやこさんにオススメのエッセイがあるかと尋ねられた結果、そんなの膨大にあるよ!となって別建てで1記事書くことにしました。
駐妻で超社交的で育児中で、江國香織さんの小説と緻密な世界観のファンタジーが好きな彼女がいいな、と思う本が1冊でもあるといいなという願いを込めて。
悩みに悩んで6冊に絞ったオススメエッセイ
多和田葉子『溶ける街 透ける道』
デュイスブルク、トゥールーズ、クラクフ、トロムセ…数々の文学賞を受賞する純文学作家で、世界を股にかけて活躍する多和田葉子氏が1年で巡った欧米諸国の街々の、手触り感のある風景を綴ったエッセイ。まず単行本の装丁が美しいのでそれだけでも所有欲が満たされる逸品なのですが、一つ一つ街を訪れるたびに描写される情景描写が幻想的でうっとりします。
たとえばこんなふうに。
シュットガルトは、すり鉢状の町である。車で外から町に入る場合、まず高台から鉢の中を見下ろし、その中心に向かって一気に走り降りて行く感じだ。それが夜だと、光のふりかけをかけたどんぶり御飯のようで、なかなか美しい。
街の息吹を身体に染み込ませるような、この読書体験は他の旅エッセイにはない魅力なのではと思います。
紹介した6冊の中では唯一本棚のスタメンとして今もすぐ取り出せるところに保管しています。付箋がたくさんついていて、好きな街の表現を時々見直してときめきます。
ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』
駐妻ではなく、現地の男性と結婚して、英国で子育てするお母さんと息子の日々のちょっとした出来事からの気付きをまとめたエッセイ。
これぞエッセイの醍醐味!とでもいえばいいのか、出来事と思索のバランス、口語的描写による読みやすさと的確な表現力のバランスがよく整ってる作品だと思います。
また息子くん周辺で生まれる小さな違和感を見逃さず、お母さんである著者と一緒に受け止めつつ、すくすく成長している様子が微笑ましくもなります。
これは、境遇は違うけど、海外で子育てという、私よりリアルな実感をもって読めるだろうかやこさんならどう思うんだろうシリーズその1。
片桐はいり『わたしのマトカ』
この文庫版の針葉樹林柄だけで萌えるんですけれども。
中身もいいです。俳優片桐はいりさん初めてのエッセイなのだけれども、本業が文筆業でない人の初めてのエッセイということを全く感じさせないくらいには、本当に巧い。
映画の撮影で滞在したフィンランドでの1ヶ月。当時の私の感想には「冬に食べるシチューのようなほっとする読み心地」とあります。そんな秋のカフェとかでまったり読みたい本です。
経験しないとわからない、何を食べてどんな人と出会ったのか、フィンランドサウナってどんな感じなのか、といったことが丁寧に描写されていて、経験フェチのかやこさんの文章に触れた感覚にも相通じるところがある気がします。
たとえば、クラブに潜入して東洋人一人きりである心細さを、
アジア人もエスニックな人も見かけない。ほとんど真っ白の銀世界だ。(略)樹氷のように立ち並んだ人たちの目が一直線にこちらに向かっている。
と描きます。
こんな、経験してないと出てこない、そのうえでベースとしての言葉選びのセンスの良さが光るフレーズが随所にあってたまらないのです。
川上未映子『きみは赤ちゃん』
まず第一に川上未映子さんが、大好きなんです、私。
エッセイも小説もいいので何かは入れたかったのですが、私よりリアルな実感をもって読めるだろうかやこさんならどう思うんだろうシリーズその2としてこれを入れました。「世界クッキー」とどちらにするかでめっちゃ悩みました。
「妊娠」という自分の身体に起きる摩訶不思議な体験をこんなふうに表現できる観察力と感受性と言語能力、本当に憧れます。
9割方はつらく苦しい妊娠出産育児の日々について書かれており、最初は子どもを生むことに恐ろしく暗澹たる気持ちになりましたが、読み終えると不思議と残り1割で綴られた息子への愛おしさ、そしてこの上ない幸せな気持ちばかりが残り、あぁ生きるってそういうことなんだなとしみじみ。まんまと泣きました。エッセイで泣くってあまりないことだったのですが。
感極まって、本をプレゼントすることってあまりないのですが、妊娠中だった親友にプレゼントしたこともあります。多分喜んでくれていたと思います。
星野源『そして生活はつづく』
何も考えずに選ぶと共感度の高さから女性の作品ばかりになってしまいそうなので、あえてダイバーシティの観点から(笑)男性のエッセイも。
ラジオもやってる星野源さんはエピソードトークの達人の1人だと思っているのですが、そんな彼の綴る日常のエッセイはこれがまたいいんですよ。特にこの作品は初めてのエッセイで、まだガッキーと結婚するなんて人生のビジョンを全く持ててなかっただろう時期の話。なんとか自分の生み出すもので食べていけるようになりたいと必死だったころの話。
数あるエピソードの中でも私が大好きなのは、未解決のままの謎のブラジャー事件。どうしようもなくくだらないんですがちょっと怖い話でもあって、読んでみてほしいです。
お腹痛くて友達できなくて二足のわらじを不器用に履きながら、沢山のことを思索し、そしてすごいエネルギーを注ぎ込んでいろいろなものを生み出していく、その姿勢は、情けない部分を赤裸々に見せていることも含めて、とっても尊敬できるなぁと思いました。
川上和人『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ』
こんなタイトルですが川上さんは鳥を愛しすぎてて最高です。
5選で終わりにしようと思っていたのですが、あとからこの本のことを思い出して、番外編的に加えたくなりました。アイドルよりも遭遇率が低い鳥類学者の友達が欲しくなる本。いつか恐竜が好きという娘ちゃんにも読んでもらえたらなぁと。
最前線でフィールドワークするゴリゴリの鳥類学者でありながら、子ども科学電話相談で鳥に関する質問に優しく楽しくわかりやすく答えてくれる一面もある川上先生。
ちょっとうっとうしいくらいに、文章がお茶目で“くせつよ”なんですが、そこで離脱せずによくよく読んでみると、鳥類学を起点に設定される論点や研究過程自体が興味深くて、知的な魅力にもあふれています。
キョロちゃんのフォルムから生態を予測しフィールドワークの大切さを説く章とか大好きです。
内省しすぎて頭の中が忙しい私の理解が進む本
積極的にオススメはしないんですけど、かやこさんとはちょっと別のタイプの(どちらかというと私側の)思考が知りたい、と万が一思っていたりしたら、と思ってオススメしたい本も2冊だけ紹介させてください。
若林正恭『完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込』
これは私のオールタイムベストエッセイ。
人生どん底っていうか、すべての自信がなくなったその瞬間に出会って、私まだ未熟でいいんだって自分をちょっと赦せた本です。30歳で社会人のスタートラインでもいいんだ、と。
若林正恭さんは「人見知り芸人」というジャンルを築いた方。お笑いコンビ「オードリー」において、当時は「春日じゃない方」芸人だなんて呼ばれていました。オードリーはけっこう遅咲きで、20代はどうしようもなく売れなくて、苦労してきていて、さて30歳になってようやくM-1で大成功!
まともな社会人経験もないままに、急にお仕事だらけの毎日で多忙になって、有名人になって、そこでぶちあたるコミュ力の壁…という。
そんな若林さんが自意識過剰にもうじうじ思い悩み、少しずつ社会的な人間として成長していく5年間のビフォーアフター的変遷がぎゅぎゅっと詰まっています。
若林さんのエッセイはその後に出したものも全部読んでいます。キューバの旅エッセイも泣かされたなぁ。
岸本佐知子『気になる部分』
私はいつもちっとも行動にうつさないけど頭の中はありもしない妄想で大冒険をしているタイプなのですが(そんなタイプあるのか知らないですが)。そういうタイプの極致がこの売れっ子翻訳家として、もはや大御所といっても過言ではない岸本さんなのです。出来事というよりは考えたことがぶっとんでいるエッセイです。
たとえば、《本当は自分はただの猿なのではあるまいか?》という心配、ポジティブになるために寝る前にお花畑を想像しても、最後には阿鼻叫喚の地獄絵図と化してしまうネガティブ思考の話など。
どうせ妄想を働かせるなら私もこのくらいになりたいって思い、折に触れて読み返しています。
どこからが妄想でどこからが事実なのかだんだんわからなくなってくる中盤あたりで「国際きのこ会館」での、きのこづくしのホラーみたいな一泊二日のエピソードが語られるのが、この本のハイライトだとひそかに思っています。
初読の際に実家であまりににやにやしながら読んでいたので、何読んでいるのかと家族に尋ねられ、すごい熱量でおもしろエピソードの1つを語ったら、母も弟も一緒に笑った後に、他のエピソードも気になったのか、この本を読んでいました。
今、読みたいエッセイ
最後に、100冊くらいあるこれから読みたいエッセイ系書籍の中で、今ちょっと熱いなと思ってる2冊を入れて、結局合計10冊を紹介する形で締めさせてください。
最果タヒ『「好き」の因数分解』
内容紹介にこんなふうに↓あるのですが、最近、好書好日のポッドキャストでバタヤンさんがゲストに来ていた時に紹介していた1冊がこの本でした。
無理して長い本を読むんじゃなくてこういうのをちびちび読む読書もいいよね、という感じで話していた気がします。
好きを飛び越えた私そのもの、もしくは、私さえ飛び越えた、生きることであると信じているから。48の「好き」を、3層のテキストで書き分けるという挑戦。
エッセイなのかというとちょっと違うかもしれないのですが、好きなものを熱く語っていきたい私としては、同年代詩人としても大活躍中の最果さんがどんな言葉で好きなものについて語っているのかとっても気になります。
ミア・カンキマキ『清少納言を求めて、フィンランドから京都へ』
【遠い平安朝に生きた憧れの女性「セイ」を追いかけて、ヘルシンキから京都、ロンドン、プーケットを旅する長編エッセイ】らしいのですが、最近、私の中で清少納言ブーム到来中なので、異国に生まれた視点でどんなふうに清少納言さんに憧れを感じ、突き動かされて旅するまでに至るのかとっても興味があります。
けっこう長いことほしいものリストに入っている本です。いとゆかし。
紹介がやめられない、とまらない
というわけでそろそろ私におすすめのエッセイを尋ねたかやこさんは、終わらない本の紹介に、質問してしまったことを後悔している可能性があるので、まだまだたくさんあるけれど、このくらいで終わりにしておくことにします。逆にこのテンションで紹介していいなら、いくらでも質問してください。
(他にもあるんだよーという思いはトップの写真で私が好きで所持してるエッセイ系の書籍の写真に込めておきました。)
「人は誰でも一冊の本になれる」
というのは誰が言った名言かは忘れましたが、誰もが自分が主人公の、唯一無二の人生を生きているからというのが、その理由だったと思います。
このフレーズを聞いたときに私は本当にその通りだと思いまして。
今回紹介したような個々の経験や思索をベースにしたエッセイというのは、壮大な自伝などでなくとも、その一冊の本の一つともいえるのかなと思います。
