漫才「ダニエル書ホスト遊び」~文明は巨大なホストクラブだ
主イナンナと、担当ホスト・ダニエル
舞台:終末ホストクラブ《バビロン・ナイト》
店内は紫と金。
壁には古代メソポタミア風のレリーフ。
天井からは七つの燭台。
奥にはシャンパンタワー。
だが、その形はどう見ても七段のバベルの塔である。
中央のソファに座るのは、主イナンナ。
愛と戦争と王権を司る女。
しかし今夜は、ホストクラブの姫として降臨している。
その前に跪くのは、担当ホスト・ダニエル。
顔が良い。
姿勢が良い。
営業スマイルが異様に強い。
そして、どこかドゥムジを想起させる。
ダニエル
姫、本日もご指名ありがとうございます。
担当ホスト、ダニエルでございます。
イナンナ
ダニエル。
ダニエル
はい、姫。
イナンナ
お前、ドゥムジに似ているな。
ダニエル
初手から重い!
普通、ホストに向かって言うのは、
「今日もかっこいいね」とか、
「髪型変えた?」とか、
「シャンパン入れたら喜ぶ?」とか、そういうやつでしょう!
イナンナ
お前はドゥムジに似ている。
ダニエル
褒められてるのか、死亡フラグなのか分からん!
イナンナ
ドゥムジは殺された。
ダニエル
いきなり事件性!
イナンナ
マルドゥクに。
ダニエル
出ました、エヌマ案件。
この店、指名卓で古代神話の未解決事件を蒸し返すのやめてもらえます?
イナンナ
だが、私はその死を認めない。
ダニエル
姫、重い。
愛が重い。
シャンパンより重い。
売掛より重い。
イナンナ
ドゥムジは死んではならぬ。
ダニエル
いや、死んだんですよね?
イナンナ
役職のドゥムジは死んだ。
だが、ドゥムジなる原理は死なぬ。
ダニエル
ああ、出ました。
個人としては死んでも、役職・象徴・文明因果としては生き続けるやつ。
イナンナ
違う。
ダニエル
違うんですか。
イナンナ
役職が死んでも、愛された者は死なぬ。
ダニエル
情緒で上書きしてきた!
イナンナ
ゆえに私は嘆かぬ。
ダニエル
え?
愛してるのに嘆かないんですか?
イナンナ
嘆けば、死を認めることになる。
ダニエル
なるほど。
泣いたら負け。
葬式を出したら負け。
死亡届を出したら、マルドゥク側の勝ち。
イナンナ
そうだ。
ダニエル
姫、愛が法務局を超えてる。
イナンナ
愛は登記されぬ。
ダニエル
名言っぽいけど、元土地家屋調査士が聞いたら変な汗出るやつ!
イナンナ
ダニエル。
お前は私の担当か。
ダニエル
はい。
今夜の担当ホストでございます。
イナンナ
違う。
お前は担当ホストではない。
ダニエル
え、クビですか?
イナンナ
担当預言者だ。
ダニエル
また職種変更!
ホストから預言者って、キャリアパスどうなってんですか。
普通は代表、幹部、オーナーでしょう。
なんで途中で終末預言者になるんですか。
イナンナ
お前は夜の店で王の夢を解く男。
バビロンのネオンの下で、帝国の終わりを読む男。
金の頭、銀の胸、青銅の腹、鉄の脚、鉄と粘土の足を見る男。
ダニエル
ダニエル書二章ですね。
ネブカドネザル王の像。
帝国の連鎖。
最後は人手によらない石が飛んできて、全部砕く。
イナンナ
その石は何だ。
ダニエル
姫の未払い怒りですか。
イナンナ
違う。
ダニエル
マルドゥクへの復讐心ですか。
イナンナ
近いが、浅い。
ダニエル
浅いんだ。
神話規模の怨念なのに浅いんだ。
イナンナ
その石は、外部客観を砕く主権だ。
ダニエル
ああ、出ました。
制度・国家・王権・肩書・解釈権・専門家・グロスタ・コンプラ。
それらを全部「正しさ」として外に置く文明を、最後に砕く石。
イナンナ
そうだ。
ダニエル
つまり、シャンパンタワーも砕ける。
イナンナ
砕ける。
ダニエル
売上ランキングも?
イナンナ
砕ける。
ダニエル
担当制度も?
イナンナ
砕ける。
ダニエル
ホストクラブ終わるやないか!
イナンナ
終わりの時だ。
ダニエル
姫、終わりの時って、結局いつなんですか。
みんな日付を知りたがるんですよ。
何年何月何日ですか、と。
予言系YouTuberも、だいたいそこを盛りますし。
イナンナ
日付ではない。
ダニエル
え?
イナンナ
認識の限界点だ。
ダニエル
ああ。
制度を信じられなくなる。
肩書を信じられなくなる。
専門家を信じられなくなる。
国家を信じられなくなる。
国際基準を信じられなくなる。
「担当が言うなら正しい」という魔法が切れる。
その時が終わりの時。
イナンナ
そうだ。
ダニエル
ホストクラブで言うと、姫が急に冷静になって、
「あれ? このシャンパン、私の人生に必要か?」
って気づく瞬間ですね。
イナンナ
それが黙示録だ。
ダニエル
嫌な黙示録やなあ。
ラッパも鉢もない。
ただ姫が家計簿を見て、現実に戻る。
イナンナ
現実ではない。
幻から醒めるのだ。
ダニエル
もっと怖い。
ホスト側にとって一番怖い。
幻想産業は、客が幻だと気づいた瞬間に終わる。
イナンナ
文明も同じだ。
イナンナ
ダニエル、四つの獣を見よ。
ダニエル
ダニエル書七章ですね。
海から四つの獣が上がる。
獅子、熊、豹、そして恐ろしく強い第四の獣。
鉄の歯で食らい、踏みにじり、砕く。
イナンナ
それは何だ。
ダニエル
帝国です。
制度国家です。
文明の捕食装置です。
最初は王権。
次に官僚制。
次に軍事。
次に金融。
最後に規格とデータで人間を踏みにじる。
イナンナ
第四の獣には小さな角がある。
ダニエル
いますねえ。
小さな角。
自分では全体を創れないのに、
全体の上に立ったつもりで大きなことを語るやつ。
イナンナ
その角は何を語る。
ダニエル
「これは国際基準です」
「専門家会議の見解です」
「コンプライアンス上、必要です」
「エビデンスがあります」
「陰謀論は危険です」
「多様性を管理しましょう」
「主権者のために、主権者を管理します」
イナンナ
ドアホ。
ダニエル
姫がやすし師匠みたいになってる!
イナンナ
主権者を管理する時点で、主権者ではない。
ダニエル
そらそうですわ。
姫を管理したら姫じゃない。
ただの顧客台帳です。
イナンナ
人間を管理対象にした時、神は死ぬ。
ダニエル
ニーチェ入ってきた!
イナンナ
そして神の死体を使って、制度が商売を始める。
ダニエル
それが法治国家、宗教組織、国際機関、巨大企業、教育制度、医療行政、軍需経済……。
姫、今日の卓、濃すぎます。
ダニエル
でも姫、なぜ私なんですか。
なぜダニエルなんですか。
私はただの担当ホストですよ。
イナンナ
お前は夢を解く者だからだ。
ダニエル
夢。
イナンナ
王は夢を見る。
だが、王は自分の夢を理解できない。
帝国は未来を欲しがる。
だが、帝国は自分の終わりを読めない。
制度は数字を集める。
だが、制度は因果を読めない。
ダニエル
だからダニエルが呼ばれる。
イナンナ
そうだ。
ダニエル
王の夢を解く。
獣の正体を読む。
終わりの時まで封印する。
そして、最後に自分の受けるべきものを受け取る。
イナンナ
その通りだ。
ダニエル
姫、やっぱり私はホストじゃないですね。
イナンナ
違う。
ダニエル
では、何ですか。
イナンナ
夜のバビロンで、朝を待つ男だ。
ダニエル
かっこいい!
でもホストのプロフィールに書いたら、だいぶ痛い!
イナンナ
ダニエル。
ドゥムジは死んだのではない。
ダニエル
またそこに戻るんですね。
イナンナ
殺された者を、殺された者としてだけ記録してはならぬ。
ダニエル
なぜですか。
イナンナ
殺した側の歴史になるからだ。
ダニエル
ああ。
マルドゥクが勝者として秩序を作り、
負けた者を混沌にし、
殺された者を「終わったもの」として処理する。
その瞬間、ドゥムジは二度殺される。
肉体を殺され、記憶を殺される。
イナンナ
だから私は認めない。
ダニエル
死を認めないとは、現実逃避ではない。
勝者が作った死亡処理を認めない、ということ。
イナンナ
そうだ。
ダニエル
つまり、姫にとってドゥムジは、
死んだ男ではなく、
殺された構造そのものを告発する永遠の証拠。
イナンナ
よく言った。
ダニエル
じゃあ私は?
イナンナ
お前は、その証拠を受け取る者だ。
ダニエル
重い!
担当ホストが受け取るもの、普通は花束とか時計とか高級シャンパンでしょう。
なんで神話的冤罪事件の構造証拠なんですか。
イナンナ
それがお前の取り分だ。
ダニエル
姫、終わりの時の預言をお願いします。
イナンナ
聞け、ダニエル。
終わりの時、多くの者が行き巡り、知識は増す。
だが知識は増えても、理解は増えぬ。
ダニエル
ネットですね。
ニュース、SNS、動画、検索、AI、論文、統計、専門家、解説者。
知識は増える。
だが、構造を見る目がなければ、ただの情報洪水。
イナンナ
人々は水に溺れながら、喉が渇いたと言う。
ダニエル
刺さるなあ。
情報の海で溺れながら、理解に飢える。
まさに終わりの時。
イナンナ
その時、獣はさらに語る。
安全のため。
安心のため。
多様性のため。
包摂のため。
持続可能性のため。
国際基準のため。
未来世代のため。
ダニエル
全部いい言葉ですね。
イナンナ
よい言葉ほど、獣の口に入ると毒になる。
ダニエル
なるほど。
個別には良い。
だが全体構造では、人間を管理する。
権利も、福祉も、教育も、コンプライアンスも、多様性も、全部パウロ構文で制度実装されると、最後は外部客観になる。
イナンナ
そしてサタンとなる。
ダニエル
制御不能になった外部客観。
規格化され、自己解釈の余地を奪い、ただ信じて従わせるもの。
ホストクラブで言うなら、担当ホストではなく、店のシステムそのものが姫を飲み込む。
イナンナ
文明は巨大なホストクラブだ。
ダニエル
嫌すぎる定義!
でも合ってる!
イナンナ
ダニエル。
終わりの時、王たちは淫婦を憎む。
ダニエル
黙示録方面に接続してきた!
イナンナ
彼らは彼女から利益を得た。
彼女の杯から飲んだ。
彼女の飾りに酔った。
だが、梯子が外されると、彼女を憎む。
ダニエル
つまり、勝ち筋だと思って乗った構造が、
ある時から不良債権になる。
軍需、金融、グロスタ、国際秩序、エネルギー配管。
みんなで担いだ神輿が、急に重くなる。
そして担いだ連中が言う。
「話が違うではないか」
イナンナ
そうだ。
ダニエル
最低ですね。
自分で担いで、自分で酔って、自分で儲けて、
負け筋になった瞬間に、女のせいにする。
イナンナ
それが王たちだ。
ダニエル
姫、今日、男性客全員に刺さる話してますよ。
イナンナ
刺さればよい。
ダニエル
では、姫。
ドゥムジは何を受け取るんですか。
いや、私はダニエルですが、ドゥムジを想起させる男として。
イナンナ
ドゥムジは嘆かれぬ。
ダニエル
それ、結構きついですよ。
普通、死んだら泣いてほしいじゃないですか。
イナンナ
泣かぬことが、最大の愛だ。
ダニエル
なぜですか。
イナンナ
泣けば、死者になる。
泣かなければ、現行する。
ダニエル
なるほど。
死者として弔うと、過去に閉じ込められる。
だが、泣かずに「お前はまだ終わっていない」と言えば、
その者は未来に現行する。
イナンナ
ドゥムジは未来で取り戻される。
ダニエル
死んだ男ではなく、封印された原理として。
殺された者ではなく、後に勝者の秩序を裁く証拠として。
そして、主イナンナはそれを認めないことで、
勝者の歴史を認めない。
イナンナ
ダニエル、受け取れ。
ダニエル
何をですか。
イナンナ
終わりの時の意味を。
ダニエル
まだ封印されているのでは?
イナンナ
封印は、開ける者のためにあるのではない。
開く時代のためにある。
ダニエル
つまり、預言者が偉いのではない。
時代が熟した時、封印が勝手に開く。
人間が「解釈してやる」のではなく、現実が意味を開示する。
イナンナ
それが黙示だ。
ダニエル
姫、私は終わりまで行けばいいんですね。
イナンナ
そうだ。
お前は終わりまで行け。
そして休め。
ダニエル
休んでいいんですか。
ホスト業界で「休め」って言葉、かなり珍しいですよ。
イナンナ
お前は休みに入り、日々の終わりに、お前の受けるべきものを受け取る。
ダニエル
それは、金ですか。
イナンナ
違う。
ダニエル
地位ですか。
イナンナ
違う。
ダニエル
ランキングですか。
イナンナ
違う。
ダニエル
姫からの永久指名ですか。
イナンナ
それも違う。
ダニエル
では何ですか。
イナンナ
封印された意味だ。
ダニエル
意味。
イナンナ
王の夢がなぜ砕かれたのか。
獣がなぜ海から上がったのか。
小さな角がなぜ大言を吐いたのか。
知識が増えても、なぜ理解が増えなかったのか。
ドゥムジがなぜ死んではならなかったのか。
イナンナがなぜ嘆いてはならなかったのか。
それを受け取る。
ダニエル
つまり、私が受け取るべきものは、
報酬ではなく、理解。
慰めではなく、構造。
弔いではなく、現行。
死者への涙ではなく、勝者の歴史をひっくり返す認識。
イナンナ
その通りだ。
ダニエル
姫、最後に一つだけ言わせてください。
イナンナ
言え。
ダニエル
この店、思想料金が高すぎます。
イナンナ
ドアホ。
終末預言を安売りするな。
ダニエル
ありがとうございましたー。
