「正体不明の画家」という夢みたいな存在
下記の短編小説のあとがきです。
創作大賞2023のミステリー小説部門参加中。
記事の内容的には本編を読まなくても問題ないと思います。読んでほしいですけども。
こちら、ミステリーとしては「ベタなネタを全力でやっちゃえ」的な作品なのですが、アート方面ではちょっとしたテーマがあったりします。
・「狂気の芸術家」ってフィクションでお馴染みだけど、実際のところ狂気の愛好家の方がいそうじゃない?
・「正体不明の画家(しかもめちゃくちゃ成功していて世界的に名が知られている)」ってフィクションでお馴染みだけど、現代の日本でそんな人存在しうるのかな?
……の2本です。
後者について、まあ難しいだろうなーと思っております。アートの世界は広いというか、色んな界隈が平行世界のごとく存在している感じだと思うので、どこかにはいるのでしょうが。NFTアートとかSNS中心に活動している方とか?
あとは「現代」か「日本」の条件を外せば、バンクシーとか写楽とかのビッグネームがいますけどね。
少なくとも、ギャラリーや百貨店での企画展とか個展を中心に活動する――こう言うと語弊がありますが王道路線の――若手作家にとって、正体不明を貫き通すのはめちゃくちゃ難しいだろうなーと思います。
営業活動も展覧会への在廊もしないでどうやって作品を売るの? 搬出後の作品や宣伝用DMはどの住所で受け取るの? 搬入出を手伝わず受付のシフトにも入らず、アーティスト写真の提出も拒むような作家が企画展に呼んでもらえるの?
等々、ぱっと思いつくだけでも細かい問題が山積み。要は美術関係者やお客さんとの信頼関係をどうやって築くのか? というのが第一でしょうか。
データ上のやりとりだけでは取引が完結しない世界である、という要素も大きいのかな。関係ないかもしれませんが、視覚芸術の作家って案外本名で活動している人が多いですよね。
……でもじゃあ、どんな作家なら「正体不明の画家(しかもめちゃくちゃ成功している)」という夢を実現できるだろう?
思いついた条件は主に2つ。
・代替が難しい作家性を持っている。(独力でも集客が行え、複数ジャンルの界隈に出入りできるような性質のものがよい)
・作品制作以外の活動をすべて代行してくれてコミュ力に長けていて作品理解も完璧な、敏腕マネージャーみたいな代理人がいる。(信頼性を考慮すると、ひとりの人物がすべて担ってくれるのが望ましい)
前者は作中では「めちゃくちゃ上手い平面絵画とインスタレーションの融合的展示」として書きました。独創性はそこまでじゃないけれど、エンタメ性があって万人受けして販売しやすい。あと「現代的なホワイトキューブに伝統的な鑑賞空間の文脈を再現しようとする試み」などのコンセプトを語れば、現代アート界隈の大規模なイベントにも参加できそう。
固定ファンが多ければ多少面倒くさい作家でもお声が掛かるだろうし、特定の界隈で干されても、個展のみで集客が見込めたり他の寄る辺があったりすれば何とかなるだろう……という考えです。
しかし後者。
そんな人を見つけるのはスポンサーになってくれる石油王を見つけるのと同じくらい難しいのではなかろうか。
と、そんな夢みたいな話をミステリーの形に仕立てたのが件の短編小説です。
やっぱり読んでほしいのでもう1度リンク貼っちゃう。
ちょっと話は変わりますが……「正体不明の芸術家」と並んで、「偏屈で社会性は皆無だが、その作品の素晴らしさのみで売れている芸術家」もよくフィクションに登場しますよね。
似たような理由であれも難しいよなあと。
なんといっても、素晴らしい作品を作れる芸術家は世の中に多すぎるし、それを買う人は少なすぎる。その中で、作品の素晴らしさのみで売れるなんて難しすぎる。
アートを「見る」人口に比べて、「買う」人口はあまりに少ないですよね。下手をしたら「作る」人口のほうが多い可能性すらあるのでは? なんて産業だ。
もっとアートを「買う」人口が増えれば増えるほど、面白い作家も作品も出てきやすくなるんじゃないかなあとぼんやり思います。まずは気軽に似顔絵などから始めてみてはいかがでしょうか。
