冬は雪国、なのに麺は冷たい。山形で知った「冷たい肉そば」と「冷やしラーメン」

2019年4月から2026年5月まで、私は山形市で暮らした。

ちょうど7年間である。

私は山形出身ではない。そのため、地元の人にとっては当たり前の食べ物や習慣も、最初は新鮮に感じることが多かった。

その一つが、山形の「冷たい麺文化」である。

山形と聞いて、そばを思い浮かべる人は多いだろう。ラーメンをよく食べる地域としても知られている。

しかし山形では、そばもラーメンも、温かいものばかりではない。

冷たい肉そばがあり、冷やしラーメンがあり、さらには肉中華や鳥中華まで冷たくして食べる。

冬には雪が積もり、朝晩の気温が氷点下になることも珍しくない。それでも、冷たい麺は夏だけの食べ物ではない。

初めて知ったときは、少し不思議に思った。

だが、実際に食べてみると、単に温かい麺を冷ましたものではないことが分かる。

冷たいからこそ麺のコシが際立ち、だしもすっきりと味わえる。山形で長く食べ続けられてきた、一つの食文化なのである。

河北町から広がった冷たい肉そば

冷たい肉そばは、山形県河北町谷地を代表する郷土食である。

基本的な構成は、冷たい鶏だしのつゆ、コシの強いそば、歯応えのある鶏肉、そして刻みネギ。

名前だけ聞くと、牛肉や豚肉が載った冷たいそばを想像するかもしれない。

しかし、冷たい肉そばの「肉」は、主に親鶏である。

一般的な若鶏のように柔らかいわけではない。店によっては、初めて食べる人が「少し硬い」と感じるほど、しっかりした歯応えがある。

だが、この硬さがよい。

噛むほどに鶏の旨味が出て、甘じょっぱいつゆや力強いそばによく合う。

冷たい肉そばに使われるそばも、上品で細い更科そばというより、太めで噛み応えのある田舎そばが多い。

コシのあるそば、歯応えのある親鶏、鶏の脂と旨味を含んだつゆ。

全体として、かなり力強い一杯である。

見た目は決して派手ではない。茶色いそばに茶色い鶏肉、そこにネギが載っているだけに見える。

しかし、食べてみると不思議と癖になる。

つゆは醤油を基調にした甘めの味付けで、鶏のだしがよく効いている。少し甘いが、それが鶏肉やそばによく合う。

よく行った店のこと

山形に住んでいた7年間で、いくつかの店に通い続けた。

山形は外食文化が盛んな土地だ。

昼時に麺の店へ行くと、平日でも駐車場が埋まっていることが珍しくない。地元の人たちが日常的によく食べに出るため、店の数も多い。

それぞれの店が、だしやそばに違ったこだわりを持っている。こうした店同士の競争が、山形の麺文化を育ててきたのだと思う。

そば処かつら 北町分店(山形市桧町)は、私が最も足を運んだ店の一つだ。家から近かったこともある。

冷たい肉そばはもちろんだが、一緒に頼む小柱のかき揚げ丼が特によかった。

ホタテの貝柱と三つ葉のかき揚げで、肉そばの甘じょっぱいつゆによく合う。気づけば、いつも同じ組み合わせを注文していた。

私の中で「肉そばには小柱のかき揚げ」が定番になったのは、この店の影響である。

いつ行っても混んでいて、昼時には行列ができていることも多かった。

そば処ひろ(山形市嶋北)も、家から近かったためよく行った。

1人前200グラムという量を売りにしていて、その名の通りボリュームがある。

ただ量が多いだけではなく、食べ始めると不思議と最後まで飽きない。しっかり食べたいときはここ、という使い分けがいつの間にかできていた。

こちらも昼時にはいつもにぎわっていて、駐車場が満車になることも珍しくなかった。

**一寸亭本店(ちょっとてい)**は、冷たい肉そば発祥の地とされる河北町にある有名店である。

休日には行列ができることも多い。

鶏だしのつゆには深みがあり、親鶏もしっかりした歯応えがある。河北町まで来て食べると、普段山形市で食べる肉そばとはまた違った気分になる。

「本場で食べている」という感覚も含めて、印象に残る一杯だった。

そば処あおば(中山町)にも何度か足を運んだ。

最上川沿いに店を構える、地元に根付いた店である。気取らずに入れる雰囲気が心地よかった。

「冷たい」といっても、ただ冷やせばよいわけではない

冷たい肉そばのつゆは、店によって温度が違う。

冷蔵庫でしっかり冷やしたような店もあれば、常温に近い程度の店もある。

大切なのは、氷のように冷たいことではない。

冷たいつゆにすることで、そばのコシを保ち、鶏だしをすっきりと味わえる。食べている途中で麺が伸びにくいという利点もある。

そして山形では、冷たい肉そばを夏だけでなく、一年を通して食べる。

雪が降る冬でも、店に入って冷たい肉そばを注文する人がいる。

もちろん温かい肉そばもあるが、冷たい方を好む人も多い。

山形で暮らしていると、冷たい肉そばは観光客向けの珍しい郷土料理というより、

「今日の昼はラーメンにするか、肉そばにするか」

という日常的な選択肢に近い。

この距離感が、山形らしいと思う。

そばだけではなく、ラーメンも冷たい

山形の冷たい麺文化は、そばだけでは終わらない。

山形市には、冷やしラーメンがある。

冷やし中華とは違う。

冷やし中華は、麺に酸味のあるタレを絡めて食べることが多い。一方、山形の冷やしラーメンは、見た目も食べ方も普通のラーメンに近い。

丼の中には冷たいスープがあり、そこに中華麺、チャーシュー、メンマ、ネギ、キュウリなどが載っている。

つまり、スープまで冷たいラーメンである。

冷やしラーメンの発祥店として知られているのが、山形市の栄屋本店である。

1952年に冷やしラーメンを考案した店とされ、私も何度か足を運んだ。

最初は、熱いラーメンをそのまま冷ましたようなものではないかと思った。

しかし実際に食べると、冷たい状態でおいしくなるように、スープも麺も作られていることが分かる。

普通のラーメンスープは、冷やすと動物性の脂が白く固まりやすい。香りも弱くなり、味がぼやけることがある。

そのため冷やしラーメンでは、冷たくても脂が固まりにくく、だしの旨味を感じられるように工夫されている。

醤油を基調としたあっさりした味が多いが、牛、鶏、魚介、昆布など、店によってだしの取り方は違う。

丼に氷が浮いている店もある。

冷たいスープで締められた麺はコシが強く、暑い日でも食べやすい。温かいラーメンとは別の食べ物として、きちんと成立している。

冷たい肉そばと冷やしラーメンの違い

冷たい肉そばと冷やしラーメンは、どちらも山形を代表する冷たい麺だが、性格は異なる。

冷たい肉そばは、河北町を中心に発展した鶏だしのそば文化である。歯応えのある親鶏、甘じょっぱいつゆ、コシの強い田舎そばが特徴だ。

一方、冷やしラーメンは山形市を代表する料理で、中華麺と冷たいラーメンスープを組み合わせている。

肉そばは、鶏の旨味とそばの力強さを味わう料理。

冷やしラーメンは、冷たいスープと締まった中華麺を楽しむ料理。

同じ「冷たい麺」でも、食べた印象はかなり違う。

さらに山形には、冷たい肉そばの中華麺版ともいえる肉中華や、鳥中華もある。

そばとラーメンの境界を行き来するような麺料理が、県内各地に根付いている。

なぜ寒い山形で、冷たい麺が発達したのか

山形の夏は意外に暑い。

山に囲まれた盆地では気温が上がり、蒸し暑く感じる日も多い。そのため、暑い夏に冷たい麺が好まれたというのは自然な流れだろう。

しかし、それだけでは説明しきれない。

冷たい肉そばは冬にも食べられている。冷たい麺を、単なる暑さ対策として食べているわけではない。

冷やすことで麺のコシが強くなり、だしもすっきりと感じられる。脂っこさも抑えられ、最後まで食べやすい。

そうした味そのものが好まれ、季節を越えて定着したのだと思う。

山形の人は、冷たい方がおいしいと思えば、冬でも冷たいものを選ぶ。

そして、食べる人が多いからこそ、店側も味を磨き続ける。

山形の麺文化は、食べる人と店が長い時間をかけて一緒に育ててきたものなのだろう。

観光名物ではなく、日常に根付いた味

山形の食べ物としては、さくらんぼ、芋煮、米沢牛などが全国的に有名である。

どれも確かに山形を代表する味だ。

しかし、山形に7年間暮らした私にとって、日常の記憶に残っているのは、冷たい肉そばや冷やしラーメンのような麺料理である。

休日の昼に店へ行く。

地元の人たちに混じって席に座り、冷たい肉そばを注文する。

暑い日には冷やしラーメンを食べ、寒い日にもなぜか冷たい肉そばを選ぶ。

そうしたことを繰り返すうちに、最初は珍しく感じた冷たい麺が、いつの間にか普通のものになっていた。

山形の魅力は、有名な観光地や高級な料理だけではない。

温泉が日常のすぐそばにあり、季節ごとの果物が身近にあり、そばやラーメンにも地域独自の文化がある。

山形の冷たい肉そばと冷やしラーメンは、そのことをよく表していると思う。

冬は厳しく、夏は暑い。

そんな山形で、季節にかかわらず冷たい麺を食べる。

山形出身ではない私にとって、それは最後まで少し不思議でありながら、7年間でしっかり好きになった文化の一つだった。


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