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月まで行って還ってきたら

旅が好き
特に、で行く旅。

子供の頃、私の家は裕福ではなく、車を持っていなかった。

少し遠めの外出時は、親が運転するスーパーカブの後ろにまたがった。
県外へ行く用事では基本電車移動。
学校がらみのイベント時などは、級友のお父さんたちが出してくれる車に便乗させてもらう。
だからどこか出掛ける時は車で、ということにとても憧れがあった。

就職して免許を取り格安の軽を買ってはみたものの、自分から進んでドライヴに出掛けるようなことは無かった。
正直、運転は今もかなり苦手。



夫とお付き合いを始め、色々なところへ乗せてもらうようになった時、一番に思ったのが、
運転が好きな人といるのは素晴らしい!」ということ。

夫は、自分では運転が下手と謙遜しているが、30年以上の運転歴で事故は一度も無し。
沖縄を除く都道府県を全て同じ車で制覇し、乗りに乗り続けて総走行距離ただいま87万km
これは月まで行って還って来れる距離だそうで、本当にこれだけ運転していて、下手なわけがない。
しかもこの車、かなり古いのでカーナビなど付いていない。
男は黙って、勘!」というギャグがあったが、まさにそれ。
軽く地図を見て下調べしたら、あとは標識と天性の勘を頼りに全国どこへでも出かけてしまう。
才能だと思う。

見たこともない風景を見たり、そこでしか味わえない絶品グルメを堪能したり、知る人ぞ知る秘湯に浸かったり。
その土地の風土、住人の気質、継承される文化などにも触れられて、車が身近でなかった私には、夫と生活することで自分の世界が2倍にも3倍にも広がった気がする。

友人の旦那さん達は車を運転する時、近所のスーパー行くにも億劫うがる、長距離は必ず奥さんと半分の距離で交替、少しでも隣で眠ると機嫌が悪い等々の人が多いらしい。

私も、居眠りは極力しないように心がけている。
というよりも、ドライヴ中はほとんど2人でしゃべっているか歌っている
別に家でも話せるが、車という狭い密室空間が、お互いをより饒舌にさせてくれる。
職場のことや友人のこと、映画の感想やニュースや夏休みの予定、宝くじに当たったらどこに住むか?や、親が「墓場まで持っていく」といって本当に墓場まで持って行ってしまった話の真相究明・・・などなど。
話したいことは、永遠に尽きない

そんなよもやま話をしている間に、月面から折り返して還って来る距離にまでなったんだなあ、としみじみ。



ところがそんな我が家の愛車にも、とうとう寿命がきたようだ。

走りには今も全く問題は無いが、何せ87万km。
ディーラーによると、色々なところの交換が必要だが古い車種なので、そろそろ中古車からも部品調達が難しくなってきたそうだ。
安全も考慮し、買い替えの話が進んでいる。
買い替えで廃車にする際は、ナンバープレートを貰おうと思っている。

私と付き合い始めてすぐの頃に新車で買った車なので、2人の思い出が詰まりまくっている。
本当に、私たちの歴史を知ってる車なのだ。

さみしい。
考えただけで、さみしい。
泣くかもしれない。

月見るたびに、思い出すかもね。

(執筆BGM:ドン・ヘンリー/ザ・エンド・オブ・ジ・イノセンス)








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