絵本のある暮らし第2回ー「おちゃのじかんにきたとら」
第1回では、「絵本が、子育ての時間をそっと包み込んでくれていた頃」のことを書きました。
毎日が慌ただしく、けれど確かに、家族の時間がぎゅっと詰まっていたあの頃。
けれど、子どもたちはいつのまにか成長し、それぞれの場所へと旅立っていきます。
絵本の時間が終わったあとにやってくる、少し静かな暮らし。
そんな今の私が、あらためて心に残っている一冊があります。
それが、『おちゃのじかんにきたとら』です。
この絵本は、「小さな子の夢の物語」であると同時に、
大人になった私たちに、“ありのままで迎えいれること”をそっと教えてくれる物語でもあるのです。
🎁 日常のひとコマ
子どもが帰ってくる日の、あの慌ただしさ
子どもたちが巣立ち、それぞれの暮らしが充実してくると、
長期休暇であっても、家族全員がそろうことは少なくなってきます。
夫婦ふたりきりの生活では、買い物の量も減り、
冷蔵庫が空っぽでも、あまり慌てることはなくなりました。
けれど、そんな日常に、
ふらっと一人、二人と子どもたちが帰ってくると――
うれしい反面、なぜか少し慌ててしまうのです。
四人の子どもが家にいたころは何でもなかった食事の支度も、
大人の量になると話は別。
夫婦数日分の食材が、一度に消えてしまうこともあります。
そんなとき、私はふと、この絵本のことを思い出します。
📗 絵本紹介
『おちゃのじかんにきたとら』
作:ジュディス・カー
訳:晴海耕平
出版社:童話館出版
対象年齢:およそ3歳から
あらすじ
ソフィーとお母さんがお茶の時間を楽しもうとしていると、
ドアをノックする音がします。
「ごめんください。
ぼく、とてもおなかがすいているんです。
おちゃのじかんに ごいっしょさせて いただけませんか。」
そこに立っていたのは、大きな毛むくじゃらのとら。
お母さんは、少しも驚かず言います。
「もちろん、いいですよ。どうぞお入りなさい。」
こうして始まった、不思議なお茶の時間。
とらは、お菓子もごはんも、飲みものも、
家じゅうのありとあらゆるものをたいらげてしまいます。
ついには、
食べものも飲みものも、すっかり無くなってしまうほどに。
🧸 わが家のエピソード
「とら」は、わが家にもやってくる
この物語で印象的なのは、
ソフィーとお母さんが、「とら」を少しも怖がらないことです。
普通なら、思わず身をすくめてしまいそうな場面なのに、
二人はごく自然に、「とら」を迎え入れます。
その結果、お菓子も、夕食の材料も、水道の水や、
お父さんのビールまでもが、きれいになくなってしまうのですが――
ソフィーは、半ばうっとりした顔で、「とら」を見つめているのです。
子どもたちにこの本を読んであげると、
「ぎゅうにゅうをぜーんぶ!」
「オレンジジュースをぜーんぶ!」
と、夢のようなとらの食べっぷりに大喜び。
何度も何度も「もう一回」とせがまれる、
わが家の定番絵本になりました。
大人になって、わかる「とら」
私は長いあいだ、
ソフィーとお母さんが慌てなかったのは、
単純にとらの「秘密」を知っていたからだと思っていました。
けれど今、この絵本を読み返すと、
突然やってくる「とら」が、
大人になってふらっと帰ってくる子どもたちの姿に重なります。
食べて、飲んで、冷蔵庫を空っぽにして、満足げに
また、それぞれの場所へ帰っていく。
ちょっと困った状況もまた、満たされた時間となります。
タイガーフードの大きな缶詰を用意したのに、
二度と姿を見せなかった「とら」は、
気が付かないうちにきっと別の姿で、ソフィーの家に帰ってきているのかもしれませんね。
🖼️いまも、家にいる「とら」
この「おちゃとら」は、以前、童話館のカレンダーにもなっていました。
わが家では、いまもその「とら」の絵を飾っています。
いつでも、
帰ってくる誰かを迎えられる家でありたい――
そんな願いを込めて。
🛍️この絵本が気になる方へ
『おちゃのじかんにきたとら』は、
小さな子どもにとっては「夢のような絵本」、
大人にとっては「人生の節目をそっと照らす物語」になります。
もし、「今の自分の読み方で手元に置きたい」と思われたら、
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この連載「絵本のある暮らし」では、
子どもと過ごした時間、そして子どもが巣立ったあとの時間を、
一冊一冊の絵本とともに振り返っています。
絵本は、子育ての道具であるだけでなく、
人生の節目に、そっと寄り添ってくれる存在でもあります。
もし、今日の「とら」のお話が、
ご自身の記憶や、家族の風景とどこかで重なったなら――
この先の物語も、きっと楽しんでいただけると思います。
「絵本のある暮らし」はマガジンとしてまとめています。
第1回から続けて読むことで、
絵本とともに変化していく“暮らしの時間”が、ひとつの物語として立ち上がってきます。
📖「絵本のある暮らし」はこちら
🧸また、こちらのマガジンもどうぞ。
木のおもちゃと絵本を通して、子どもと過ごした時間、その先に続く大人の時間を見つめる連載マガジンです。
遊びと読書が、どのように暮らしと心を育てていくのかを、実体験をもとに綴っています。
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