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手ぬぐいと宅配ピザと円周率

Mサイズを3枚?
Lサイズを2枚?
いろんな種類を食べるためにMにするべきか、Lのハーフ&ハーフにすれば良いのか。

宅配ピザを頼むとき、どの組み合わせが一番お得か悩んだことは無いだろうか。
私はある。

どうすれば家族の希望のピザを一番お得な方法で注文することができるのか、頭をフル回転させて知恵を絞るのだ。

小学生の頃だった。
母子家庭4人姉妹の3番目というポジションで育った私は、裕福とは言い難い生活を送っていた。

外食をするのは年に一度、ファミレスで。
どこへ行くにも自転車で。

しかし普段の生活に不満を持っていた覚えはない。
チラシで特売の食材を見つけては自転車を走らせ、母や姉、たまには私も一緒になって、いわゆる節約料理でお腹一杯になっていたのだ。

特に母の作るツナとひじきの炊き込みご飯や、姉の作る大量コロッケは大好物で、何杯もおかわりしては「もう動けない」と寝転がったものだ。

休日も絵具や画板を背負って家族で自転車を走らせては市内の大きな公園へ行き写生を楽しんだり、美術館でピカソやモネを鑑賞したのもそのころである。
最後に気に入った作品の絵ハガキを1枚買ってもらい、大切な1枚を誰に宛てて書こうか悩むのも楽しい時間だった。

今思うと、公営の大きな公園、図書館、美術館、科学館、動物園など誰でも利用できる施設のおかげで、季節を感じ、芸術を鑑賞し、知識を得ることができたと実感する。

当時の生活が、今の私の工夫・節約・アイデアの基盤となっていることは間違いない。


4姉妹で内職をしていたことがある。
旅館の手ぬぐいセットを作る仕事だ。
最近は「アメニティセット」なんておしゃれな名前なのかもしれないが、正真正銘「手ぬぐいセット」だ。

薄くてよく水を吸い、すぐに乾く意外と使い勝手の良いあの手ぬぐい。
使い込んだあとは優秀な雑巾として第二の人生を送るあの手ぬぐい。

旅館名が印刷された手ぬぐいを指定の形に畳んでビニール袋にいれる。
ヘアアイロンのような機械でビニールの口を閉じて1セット3円だ。
ちなみに歯ブラシセットも同梱した場合は1セット4円である。

このヘアアイロンもどきは当てる時間が短すぎると袋がしっかり閉じず、
長すぎるとビニール袋が溶け切って破れてしまう、という絶妙な職人技が要求される。

タオルを畳む係
ビニール袋に入れる係
機械で閉じる係
完成品を段ボールに詰める係

4人姉妹で手分けしてコツコツ段ボールを積み上げていった。
始めてみると意外とハマるもので、一つ目の段ボールがいっぱいになる頃には皆それぞれの最速スタイルが出来上がり、手が空いた係は滞っている係にヘルプに行ったりと、それはもう一流企業さながらの組織力だった。

手ぬぐいセットの内職で得たお金は6,000円~7,000円だったと記憶しているが、このお金を何に使うのか白熱の姉妹会議が開催された。

やはり食べ盛りの小中学生。
おいしいものを食べるという意見で一致したのだが、何を食べるのかなかなか決まらない。

そこでテーブルからヒラリと落ちてきたのが宅配ピザのチラシだ。
皆で目を合わせ、無言のうちに心がひとつになった。
生まれて初めての宅配ピザだ。
異論はない。

Xデーを全員が家にいる休日の夜に決定し、その日までにポスティングされたピザ屋各社のチラシを集め、注文メニューを吟味した。

辛い物は妹がまだ食べれないからやめよう。
サイドメニューは頼まずに作ろう。
私はポテトを揚げる。私はサラダを作る。

皆が次々に意見を言う中、私は習ったばかりの公式が頭に浮かんだ。

半径×半径×3.14
円の面積だ。

各社のサイズを確認し、面積と金額を比較し、一番おいしそうでお得な組み合わせを一覧にした。

みんなで頑張った内職代だ。1円も無駄にするわけにはいかない。

熟考に熟考を重ねた結果、Lサイズ2枚に決定したのだが、この2枚は違う店だったのだ。
チラシを読み込んだ私は1枚でも配達金額に達していることを確認し、違う店の2枚を別々で注文することに決めた。

期待に胸を膨らませたXデー。
普段はダイニングテーブルで食事をするが、特別な日はテレビのあるリビングでパーティーをすることが許される。
今日はもちろんリビングだ。

テーブルセッティングを完璧にし、何度も玄関先まで宅配バイクが来ていないか確認し、ついに家のチャイムが鳴った。

ドアを開けた先に4人娘が目を輝かせて並んでいる姿に、配達員さんも驚いたことだろう。

驚いた顔の後、笑いをこらえる表情でこう言った。
「別の店舗のピザも私の後ろに並んでますよ」
ピザ屋とピザ屋のバッティングだ。

2台の宅配バイクの運転手もまさか同じ家のチャイムを鳴らすことになるとは思わなかっただろう。

初めての宅配ピザは、至高のおいしさだった。
均等に分け、これがおいしい、こっちもおいしいと感激を分かち合った。


最近はコンビニでも窯焼き本格ピザが手軽に購入でき、有名店のピザでも簡単に取り寄せられるようになった。
でも、家族で力を合わせて初めて食べたピザは、今後どんな贅沢な食事にも勝てないのだろう。

今では私が母となった。
子どもたちは私に似て食べることが大好きだ。
作ることにも興味が出てきた娘は、初めて作った卵焼きが上手に巻けて大満足。
私が作ったの、とアピールしながら満面の笑みで食べている。

娘の笑顔は親の笑顔だ。あの時の母も同じ気持ちだっただろうか。

これからも工夫して、考えて、楽しんで大きくなってほしい。
今日もポストに入っていたピザのチラシを見てはあの時の味を思い出す。






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