実録出張回想録国内編vol.02
「猛獣使いと、底なしの酒宴、千葉・埼玉 挨拶回りの狂騒」
その男の言葉は、常に「倍速再生」だった。
“烏合の衆”を束ねるリーダーは、度を越した短気で、重度のアルコール依存。 弾丸のように繰り出される早口は、もはや言語というよりはノイズに近い。営業スタイルは、絶滅危惧種とも言える「昭和の遺物」だ。
「背中を見て学べ!」「いいか、最後はKKD(勘・経験・度胸)だ!」
そんな根性論を地で行く男の下には、私より先に二人の先客がいた。他部署を追われた“はみ出し者”の、いわゆる問題児たち。人の話など爪の先ほども聞かないはずの彼らが、なぜかこの男にだけは従順に牙を剥かない。
一体、どのような餌を与えれば、これほどの猛獣を飼いならせるのか? 謎だらけのリーダーとの奇妙な共同生活に、私は恐怖よりも、かすかな高揚感を覚えていた。
舞台は千葉、そして埼玉。
挨拶回りと称し、直系の販売会社や大手取引先を巡る。先ずは千葉。だが、仕事の話はプロローグに過ぎない。挨拶もそこそこに、一行が雪崩れ込むのは決まって夜の宴会場だった。
そこで私は、噂に違わぬ「怪物の本性」を目の当たりにする。
男は食事には一切目もくれず、まずは瓶ビールを一本、水のように喉へ流し込む。そこからは、終わりのない日本酒の輪舞曲(ロンド)だ。その飲みっぷりを見た瞬間、私の脳裏にある男の顔がよぎった。
「あの人と似ている!」
海外事業部の前本部長。あの豪快極まりない飲み方は、まさに瓜二つだ。前本部長もかつては国内営業で鳴らした猛者。もしや、目の前で目を細め、悦に浸りながらぬる燗を啜るこの男と、かつて同じ営業戦場で盃を交わしていたのではないか?
酒が進むにつれ、上司の顔は恵比寿様のように緩んでいく。しかし、その背後にある「営業の深淵」は、まだ私には見えてこない。
今宵、ホテルに辿り着けるのはいつになるのか?
それとも、このまま夜の闇に飲み込まれてしまうのか?
激動の「国内営業編」、その幕は上がったばかりだ。
