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実録出張回想録国内編vol.03

「午前二時の金言と死臭漂う朝 ― 限界を超えたKKD」
宴が始まってから、一体何時間が経過しただろうか?
テーブルに並んだ豪華な刺身の盛り合わせは、乾燥してその色を失いつつある。対照的に、上司の顔色は日本酒の熱を帯び、ますます艶を増していた。空になった徳利が、まるで戦死した兵士のようにテーブルに転がっている。
「いいか〜営業ってのはな、"余白"を売る仕事なんだよ!」
不意に、倍速再生だったはずの口調がスローダウンした。
普段の怒声とは違う、地を這うような低い声。千葉県を預かる社長や幹部の方々が、まるでお預けを食らった猟犬のように背筋を伸ばす。
「スペックや価格なんてのは、カタログに書いてある!そんなもんに俺たちの存在価値はねぇ!お客様の懐に飛び込んで、相手が言葉にできない『寂しさ』や『不安』という余白を、俺たちのKKD(勘・経験・度胸)で埋めるんだ。それが血の通った商売って奔流になるんだよ!」
(何を言っているのかさっぱりわからない??)
その瞬間、男の背後に、かつて海外事業部を震え上がらせた前本部長の幻影を見た。
豪快な酒呑みという共通点だけではない。彼らは酒を「燃料」にして、冷徹なビジネスの世界に人間臭い「情熱」を注入しているのだ。謎の飼い慣らし術の正体は、この圧倒的な「魂の温度」だったのか? 
しかし、感動に浸る時間は短かった。
「よし、次行くぞ!」
無慈悲な号令が夜の静寂を切り裂く。結局、私がホテルの硬いベッドに倒れ込んだのは、日付が変わって久しい午前二時のことだった。


翌朝、午前六時ーー。
目覚まし時計のアラームの音より先に、携帯の電話が鳴り響く。電話を取るまでもなく、廊下からはあの「倍速再生」の怒鳴り声が聞こえてきた。
「いつまで寝てやがる! 出発だ!」
昨夜の哲学的な空気は微塵もない。鏡に映る自分の顔は、土気色を通り越して幽霊のようだ。胃の奥からは日本酒とアルコールの混じった、いわゆる「死臭」が立ち上っている。
ロビーに降りると、そこには昨夜、あれほど浴びるように飲んでいたはずの上司が、一点の曇りもない顔で立っていた。ピシッと整ったスーツの折り目、一切の震えがない手。

減り張り…

「若いうちからそんな顔してどうする。今日は埼玉の楽しい連中を落としに行くぞ」
男はニヤリと笑い、社用車の助手席に乗り込み新聞を広げた。
この男の血管には、血の代わりにアルコールとアドレナリンが流れているに違いない。
胃薬を飲み込む暇さえ与えられないまま、私の「修行」という名の出張二日目が、今、暴力的に幕を開けた。


次回予告
地獄の二日酔いを抱えたまま挑む、埼玉の「難攻不落」な楽しい取引先との宴会。
そこで目撃したのは、上司のさらなる「狂気」か、それとも「神業」か?
vol.04「埼玉・沈黙の商談 ― 吐き気と執念の果てに」……

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