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この裏切りは、君を守るため 第32話

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第3章 思いがけない再会

12 アニタの罠

「その子にやらせるといいんじゃない?」
 突拍子もないアニタの提案に、皆の表情が強ばる。
 いくら何でもそれは無茶だという顔だ。そもそも、ファンローゼは組織に入ったわけではない。
「アニタ、それは無理だ」
 仲間の一人が渋い顔で言う。
「だってその子、貴族の娘なんでしょう? 教養もあるし、そういう華やかな場にも慣れているじゃない。この中で、誰よりも一番怪しまれずに大佐のパーティーに馴染めるんじゃない? それに、ここにいる者で、まともにダンス踊れる人がいる? あたしは無理」
「確かに」
 皆の視線がいっせいにファンローゼに向けられた。
「彼女なら違和感はないかもしれない」
「私……」
 不安そうな声を落とすファンローゼに、アニタはにやりと口元を歪めて嗤う。
「そうよね。あなたみたいな何もできない、ただ男に守られているだけの子には無理よね。気にしないで、ちょっと言ってみただけだから。それに、あなたはあたしたちの仲間というわけでもないのだし。ね、クレイ」
 アニタはちらりとクレイを見上げる。
「私、やります」
 あら、とアニタが自分で提案をしておきながら、わざとらしく驚いた仕草をする。
「ファンローゼ、君には無理だ。それに、僕は君にそんなことをさせるためにここに連れてきたのではない」
 咄嗟にクレイが止めに入る。
 他のメンバーも同じように頷いた。
 組織の人間ではない部外者に、敵地に乗り込ませるなど、危険以外のなにものでもない。
 もし、ファンローゼが計画に失敗し、敵に捕らえられ、組織のことを喋ってしまえば。
 彼らが一番恐れているのは、まさにそれであった。
 ファンローゼは首を横に振る。
「ううん、クレイ、私にやらせて。私で役に立てるのなら」
「だめだ。そんな危険をおかしてまで無理をする必要はない」
「クレイ、いいじゃない。勇敢にもその子がやってくれるって言ってんだから」
「アニタ!」
「いいの、私だって何かしたい。誰かの役に立ちたい」
 ファンローゼは手をきつく握りしめ、さらに言葉を継ぐ。
「私、今までクレイにたくさん助けてもらった。だから、今度は私がクレイのために何かをしたいの。私、やってみせるわ。それに、アニタの言う通りよ。ダンスは得意なの」
 敵軍の幹部の部屋から、仲間が捕らえられている牢の鍵を盗み出す。
 口で言うほど簡単ではないことは、ファンローゼも分かっている。
 だが、それでもクレイのために、自分にもできることがあるなら力になりたいという思いがあった。
 しかし、ファンローゼの決意とは裏腹に、この場にいる全員、沈痛な面持ちで視線を足元に落としている。
 一様に浮かべる彼らのその表情の意味を、ファンローゼはまだ知らない。
「いい覚悟ね」
 アニタは鼻で嗤って言う。
 不意にクレイに強く抱きしめられた。
 途端、アニタは眉根をきつく寄せ唇を噛みしめる。
「ありがとう、ファンローゼ……君には感謝の言葉もない。だけど安心して、君を危険な目にあわせるようなことはしない。約束する絶対に」
 クレイの力強い言葉に、ファンローゼは大きく頷いた。

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